高校でも新課程での指導が始まります。活動の配列/授業デザイン(=学ばせ方)のみならず、評価(=効果測定)の方法も、新しい学力観に沿ったものに切り替えていく必要があるのは言うまでもありません。
既に十分な準備がなされているはずですが、新年度を迎えて、これまで準備してきたことを実際の教室で試して、想定通りにうまく機能するか点検をしながら、必要な修正を重ねていくフェイズに移りました。
ルーブリックの観点別評価規準や定期考査の出題内容は、まさに「学習指導を通して目指すべきところ」を表すものです。しっかりと明文化して、先生方の目線合わせの材料にしたいところですが、生徒による授業評価アンケートの質問設計(評価項目と質問文)もまた、実現を図るべき授業像を端的に表現するものであり、しっかり練り込んで先生方の間で共有し直しておくべきだと思います。
これまでの授業評価アンケートの質問文を一つひとつ読み直し、評価項目の構成が新課程に沿ったものになっているか、今のままの質問で良いのか、新学期を迎える今、しっかりと見直しをしておきましょう。
2019/04/03 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学習評価の4観点から「学力の3要素へ」
新課程での学習評価は、従来の「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の4観点から、学力の3要素である「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」に沿って行われることになるのは、今さら言うまでもありません。
定期考査の問題と採点基準、日々の授業で与える課題の内容やその評価方法が、知識・技能、思考力・判断力・表現力を正しく評価し、数値に変換できるものになっているかどうか、しっかり点検しましょう。
また、ポートフォリオやルーブリックを指導にどう活用するかも、指導を始める前に改めて点検しておくとともに、指導を開始した後、先生方の日々の気づきを遅滞なく互いに共有し、改善を遅らせないようにしていく必要があります。
併せて、学習者たる生徒側の認識とその変化の様子も、アンケートでしっかりと捉えていきましょう。同じ指導を行っていても、生徒の捉え方や認識は、それぞれが備えている学習者としてレディネスやこれまでの学習履歴によって違ってきます。
授業内活動に充足感を持って参加できているか、授業内容や課題をチャレンジングなものと感じているかは生徒に訊いてみないと判りません。
主体的に(=目的意識を持ち、且つ必要な学習方策を備えて自立的に)学びに取り組んでいるかも、先生方の見立てと生徒の認識には、大きな違いが生じていることも多々あります。
新課程への移行でこれまで以上に重視されることになる「主体的・対話的で深い学び」に焦点を当てたアンケートで生徒の認識を探った上で、先生方による観察の結果とすり合わせていくことが大切です。
❏ 対話の機会が、気づきや学びの深まりに直結しているか
対話的な学びの充実は、新課程が求める学びを実現するのに欠かせない要素ですが、以下のような問いに対する生徒の回答を実際に集めてみると、先生方の見立て/想像と違う結果になることも予想されます。
「話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる」
活動の土台となる知識・理解の形成がしっかり固まっていなかったり、協働で解決すべき課題が正しく設定されていなかったりすれば、対話は自己目的化して、気づきや学びの深まりに直結しません。
対話が所期の効果(気づきの拡張と学びの深まり)を得るのを阻害している要因(ボトルネック)がどこに潜んでいるのかも、授業評価アンケートにおける他項目の集計値などから当たりをつけることができます。
同じように学習活動を配列していても、クラス間で回答分布に違いがあれば、日々の学校生活やこれまでの学習履歴の中で個々の生徒が培ってきた協働性などの「集団としての違い」に原因があるかも。集団の特性に合わせた「学ばせ方のアレンジ」が必要になってきます。
同じクラスでも、指導を重ねるうちに、回答分布には変化が生じます。
肯定的な回答が増えてきたら、指導が成果を結び、生徒の内に「対話・協働」への姿勢とスキルが養われてきたと考えられますし、「どちらかと言えば」という但し書きのついた答えが増えてくるようなら、マンネリ化が進んでいる可能性を疑ってみなければなりません。
いずれも、「生徒に訊いてみる」ことを怠れば、何が起きているかもわからないうちに、指導は迷路に入り込んでしまいかねません。
❏ 主体的な学びを作り出す{目的意識×学習方策}
深く確かな学びを成立させるためのもう一つの要素である「主体的な学び」についても、生徒の意識を確かめていく必要があります。
主体的に学びに取り組むには、生徒一人ひとりが「学ぶことへの自分の理由」を持っていることに加え、「学び方(学習方策)や学びに必要な汎用スキル」を獲得していることが大前提。
前者を欠けば、「受動的で消極的な学び」であり、後者を欠けば「依存的な学び」です。
以下のような質問を通して、学習者側の認識を確かめてみたら、生徒はどのように答えてくれるでしょうか。
「私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」
先生が丁寧に説明し、生徒はそれを真面目に聞いて、しっかり覚えるだけでよいという時代なら、さして重要視しなくてもよかったかもしれませんが、新課程への移行で話は大きく変わってきています。学習内容が同じでもアプローチによって学びの質は異なるからです。
教室でしかできない学びを充実させるために、問いを軸に授業を設計するには、「生徒が自力で取り組める部分を増やしていくこと」が自ずと不可欠なはずです。
不明を自力で解消できるか、興味を掘り下げるのに具体的な学習行動が取れるか、先生方の日々の観察で把握し、指導を考えていく必要がありますが、如上の質問を定期的に投げかけて「学習方策の獲得への生徒の意識」を常に刺激していくことも大切です。
また、以下の質問に対して、否定的な答えが多く残るようであれば、学ぶことへの自分の理由を持たせる指導に改めるべき点がありそうです。
「私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる」
課題を見つけることも目的を持つこともなく、指示されたことを真面目にこなすだけの状態では、より積極的な学びへの取り組みはあまり期待できず、能力・資質の獲得にもブレーキがかかります。
日々の授業の中で「答えを導くべき問い/解くべき課題」を与え、それらを通して生徒が「何のために学んでいるか」を知る機会を作っていくことでも、如上の質問への肯定的な答えを増やしていけるはずです。
本稿でご提案した新たな質問で実際のアンケートを行って取得したデータを解析してみた結果は、以下の記事でご紹介する通りです。お時間の許すときにご高覧ください。
- 学習方策の獲得はどこまで進んでいるか【学習方策】
- 目的意識をもって学びに取り組んでいるか【目的意識】
- 対話によって学びはどこまで深まったか【対話協働】
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一