板書の技術(その3)

前々稿、前稿と、深く確かな学びに板書が欠かせない理由や、適切な板書がもたらしてくれる副次的な効果について考えてきましたが、今回は導入、展開、演習、まとめ、振り返りという授業展開の各フェイズにおける板書の有効な活用について考えてみようと思います。
板書だけ整えても授業が成立するわけではありませんが、上手に使うと中々の効果があるのが板書だと、起草しながら改めて感じています。

2014/04/18 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 導入フェイズで復習したことは黒板の片隅に固定

板書が持つ「共有したい情報を参加者全員の視野に固定する」という最も基本的な機能は、導入フェイズから十分に活用されるべきものです。
本時の授業で新たに学ぶことは既習内容の理解を前提に積み上げられるもの。固まっていない土台の上には堅牢な構造物は建てられません。
以前に学ばせたことがあるからと言って、生徒が正しく理解し、記憶に保持している/自在に想起できる状態にあるとは限りませんので、既習内容の確認は全ての授業で必須です。
既習内容を生徒がきちんと理解しているかを確かめようとしたら、問い掛けて、生徒が理解していることを言語化させるしかありません。
先生の発問を受けて生徒は記憶の中を探りますが、忘れてしまって思い出せない場合、天井を見つめていても答えは降りてきません。教科書やノートの該当ページを開かせ、そこに書かれていることを読ませましょう。周囲には関連事項も書かれており、広く再記銘が図れます。
記憶を呼び覚まし、理解を再構築したら、それを言語化させたうえで、確認したことを黒板の片隅に書き出しておけば、少なくとも消すまでの間は、そこに目をやりさえすれば前提知識をいつでも参照できます。
参照する機会が増えればその分だけ再記銘がなされ、記憶に深く刻まれていきます。導入時に先生の説明を一度聞いただけの場合と、発問、板書、書写、その後のやり取りの中でもちら見、と繰り返す場合とでは、情報への接触回数やその結果としての定着に大きな違いが生じます。

❏ 展開フェイズ:途中の問いや着目点も板書で言語化

説明は口頭で行い、最終的に得られた結果だけ板書することを繰り返しているうちに、「答えを導くプロセスをどう作り出すか」という点への生徒の意識が希薄になりがちです。
一度作った正解を再現する(=同じ問題を解く)必要に迫られる場面は定期考査などを除けばそう多くはないはずです。
教室は、誰かが作った答えを受け取る場ではなく、解決したことのない新しい問題にどう答えを導くのかを考え、その方法と取り組み方を身につける場に変化してきています。
生徒の印象と記憶に残したいのは、ある問題に対して導き出した答えではなく、そのプロセスであり、「どのような道具立て(知識や理解)をどのような着想に基づいて使ったか」にこそ焦点を当てるべきです。
プロセスの各ステップについて。問い掛け、考えさせ、言語化させたことを板書して確認し、生徒のノートに残させることでこそ、生徒の印象と記憶にしっかりと刻み込むことができるはずです。
問題を解くための「道具」としての知識・理解はいつでも自在に記憶から取り出せるようにする必要がありますので、マークアップしたり、小テストを行い定着を図ったりする必要がありますが、これに加えて、

  • どうしてここに補助線を引いたのか
  • 何を手掛かりにここに着目したのか
  • なぜAではなくBという解法を選んだのか

といった「選択の根拠」にも十分な焦点を当てるべく、しっかり言語化させた上で板書に残す必要があります。
学ぶ力を十分に備えた生徒ならノートの余白にメモを取ってくれるでしょうが、すべての生徒にそれを期待するのは無理があります。まずは、先生方がきちんと板書して見せましょう。

ただし、いつまでも先生方が先回りして板書しているだけでは、生徒は自発的にメモを残す(=自らの気づきを言語化する)習慣と方法を身につけません。ノートにメモを取らせる指導も計画的に進めましょう。

❏ 振り返りながらの加筆で、学びを深める

選択の根拠や知識活用の着眼点などは、あえて最初の説明の途中で板書をせず、ひと通りの説明を終えてからの「振り返り」の場面で書き加えていくという方法もあります。
全体の流れを把握した上で、要所を改めて観察・吟味させ、そこでの気づきを言語化させることで全体の理解がグンと深まることがあります。
振り返りフェイズでの加筆や気づきの言語化については、次稿#4で掘り下げて考えてみたいと思います。
なお、加筆の際に「自分でメモを取れていた?」と尋ねてみることで、メモを起こす必要性を生徒の意識に刻んでいくのも意識的に行いたいことの一つです。卒業までに自力で的確なメモを残せるようになっていることは、大学に進み社会に出たときにも大いに役立ちます。

❏ 情報の整理や構造化のプロセスを見せて学ばせる

前々稿#1の通り、板書案やスライドを事前に作り込むことで伝えるべき情報をきちんと構造化して教室に臨むことが、効果的で確実な伝達を可能にしますが、板書案を黒板上に再現することが授業ではありません。
板書案の忠実な再現に終始しては、生徒とやり取りする中で臨機応変に対応できる「板書が持つダイナミズム」を活かせないだけでなく、情報を整理したり、構造化したりする方法を学ばせるチャンスを逃します。
問い掛けながら構造化の視点や方法に気づかせることで、生徒が自力で項目を適切に配列し、紙面上に効果的なレイアウトができるようにすることも指導の目標の一つではないでしょうか。
情報の整理や構造化に用いる様々な手法(表組による交差分類や二項対立的な比較、インデントや段落記号の使い分けによる階層性を持った箇条書きなど)も実際の学びの場で使って見せれば、生徒はそれを真似するところから始めて、やがては自分で使いこなせるようになります。
探究活動や進路研究など、生徒が自力で調べて情報を集め、整理をしなければならない場面も今後は増えてきますし、各教科の学びでも、進路希望などの個々のニーズによって知識の拡充を図らなければならないとき、整理と構造化の手法を身につけているかどうかで効率が違います。
また、様々な成果発表において調べたこと・考えたことをプレゼンテーションにまとめる機会でも、各教科の授業の中で学んだ整理・構造化・モデル化の手法は大いに役立つのではないでしょうか。

別稿で申し上げた通り、各教科の学習内容を学ばせる中、生徒には様々な能力や資質を身につけてもらう必要がありますが、ここで挙げた情報の整理・構造化の方法もその一つです。日々の授業の中でこれらのスキルを養えているか、時々振り返ってみましょう。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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板書の技術、教具の使い方Excerpt: 1 板書の技術1.0 板書の技術(序) 1.1 板書の技術(その1) 1.2 板書の技術(その2) 1.3 板書の技術(その3) 1.4 板書の技術(その4) 1.5 板書の技術(その5) 1.6 板書の技術(その6) 1.7 板書の技術(その7) 2 学びを軸にICT活用を考える2.0 学びを軸にICT活用を考える(序) 2.1 学びを軸にICT活用を考える(その1) 2.2 学びを軸にICT活用を考える(その2) 2.3 学びを軸にICT活用を考える(その3) ...
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