新しい学力観の下で実現を目指しているのは「主体的、対話的な深い学び」ですが、最初の要素である「主体的」であるためには、その科目を学ぶことへの「自分の理由」を持っていること前提の一つです。
前稿で触れた「学習方策」が未獲得では学びは依存的なものにならざるを得ず、「学ぶ理由」がなければ受動的なものになってしまいます。
振り返りを通じて見出した自分の課題(=次の機会での自分の目標)や解き明かしたい不明など(=学ぶことへの自分の理由)を、生徒がどれだけ備えているか捉えながら、主体的な学びの実現を図りましょう。
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【目的意識】
私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる。
2019/04/08 公開の記事を再アップデートしました。
❏ シラバスや授業開きで伝えた「科目を学ぶことの目的」
科目を学ぶことの目的は、シラバスへの記載や授業開き/オリエンテーションなどを通じて、先生方から生徒に伝えているはずです。
生徒がそれをきちんと理解し、記憶にとどめているかどうかは、如上の質問にYESで答えられるかどうかを大きく左右します。年度の最初に伝えただけでは、生徒の記憶から消えてしまっているかもしれません。
また、シラバスを熟読させることには様々な効果(別稿参照)がありますが、先生が示す「科目を学ぶことの目的」が生徒にとってピンと来るもの、実感を伴って理解できるものでなければその効果も失われます。
担当する科目について、なぜこの科目を学ぶのか、生徒が理解できる表現で明確に伝えられているか、折に触れて自問したいところです。
また、日々の授業のデザインや個々の単元の学ばせ方が、提示した「科目を学ぶ目的」にマッチしたものになっているかどうか、整合性を欠くところがないか、常に点検を怠らないようにしたいものです。
言葉で伝えたものと教室での実際とが一致しなくなれば、「科目を学ぶ理由」を生徒が見失っていくのも当然の帰結かと存じます。
❏ 学ぶことへの自分の理由は、負荷への耐性も高める
詳細は、拙稿”学ぶことへの自分の理由と負荷への耐性“に譲りますが、生徒自身が「その科目を学ぶことへの自分の理由」を持っていると、高い負荷を掛けても頑張り続ける意欲が後退しにくくなります。
生徒一人ひとりのポテンシャルを引き出すには、適正な負荷を掛ける必要があるのは想像に難くないと思います。
別の言い方をするなら、生徒一人ひとりが目的意識を持ってこそ、生徒の学力を十分に伸ばせるだけの負荷が掛けられるということです。
達成感はモチベーションの原資であり、次の学びに向けた大きな動機になりますので、「明確な目的意識→十分な負荷→より大きな達成感」という循環の中に、より多くの学習者を置くことはとても大切です。
❏ 解消したい不明や押し広げたい興味こそが”学ぶ理由”
問い掛けられて気づいた不明は解消したくなるもの、学びの中で見出した興味はさらに押し広げ、掘り下げて行きたくなるものです。
こうした、日々の授業で新たに見出す「解消すべき不明/満たすべき興味」もまた、生徒にとって、学ぶことへの十分な理由になり得ます。
導入フェイズでは、概念的な説明をしたり、背景知識を与えたりするより、「知らない/わからない」という事実を突きつける問いを投げかけることを優先すべきなのは、以下の拙稿でお伝えした通りです。
教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させるべく、そうした学びの場を作れるかどうかも、科目を学ぶことへの目的意識/学ぶ理由を大きく左右すると考えられます。
❏ 振り返りを通じて見出す、次に向けた自分の課題
生徒一人ひとりが、次の機会に向けた自分の課題を設定するには、振り返りを通してのメタ認知作りが欠かせません。
その日の自分の取り組みや現時点で出来ていること/できていないことを客観的に捉えることが、より良いパフォーマンスを実現するために必要なことの洗い出しに繋がります。
勉強を好きにさせる学ばせ方でご紹介したデータでは、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」という【モニタリング方略】には、嫌いだった科目を好きにさせる効果があることが示されました。
強制されて嫌々学ぶのと、好きになって自分から進んで学ぶのとでは、学びの主体性には雲泥の差がありますよね。
学びにおける行動(学び方)についても、好ましいあり方を生徒を主語としたセンテンスで書き出しておき、それを規準に自己点検させることで、学びへのメタ認知を高めさせることが重要です。
❏ 探究を通じて見つける自分を取り巻く問題との接点
個々の教科・科目を学ぶ中で見出した興味を、その場だけのものに留めないことにも注力したいものです。
冒頭の質問にYESで答えた生徒には、先生がデザインした授業の中に止まらず、その先に自ら歩みを進めさせる仕掛けも講じましょう。
スタートではちょっとした興味でも、課題研究や探究活動でそれを掘り下げて行けば、より強く広い具体的な興味が生まれます。
さらに進路指導と組み併せて、学部学科・学問研究を進めたりすれば、本気で取り組んでみたいこと、大学等に進んで学んでみたいことが見つかるはずであり、その先には「学んだことを通して自分は社会とどんな接点をもつのか」という意識も生まれます。
ここまで持っていければ、生徒は科目を学ぶことへの理由をはっきりと認識し、それ以上の外からの働きかけはもはや不要かもしれません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一