年度の後半で授業評価が下がる?

1学期の授業評価アンケートで見出された改善課題を着実にクリアし、数ヶ月後に実施した2学期のアンケートでは大きく評価を改善しているケースが少なくありませんが、これとは逆に1学期の高い評価を2学期に維持できていないこともあります。
経年データを見ると、年度が替わるごとに評価を上げて、夏を過ぎるとまた下がるという繰り返しが観察されるケースも少なくありません。
集計結果を折れ線グラフにしてみると、あたかもノコギリの刃のような形になることから「ノコギリ現象」と呼んでいますが、指導技術そのものが周期的に改善と後退を繰り返すはずもなく、要因は他にあると想定すべきです。以下のようなパターンに分けて原因と対処を考えました。

  • 時間の経過とともに徹底できないところがでてきた
  • 関係性ができる中で「言わずもがな」に甘えてしまった
  • 到達目標が適切な段階性を備えず、学期間の段差が大きすぎた
  • 新しい試みが狙った通りの効果を得ていなかった

2015/02/02 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 夏までと比べて徹底できなかったことはなかったか?

到達目標の明示や、取り組み方のガイド、板書をはじめとする確かな伝達、こまめな理解の確認といった日々の授業で徹底すべきことも、時が経るにつれ、知らぬ間に徹底できなくなっていることがあります。
明確な目標提示は、苦手意識の抑制、達成感の強化など、様々な効果をもたらします。目指していることに照らして今やっていることの意味を知ったり、足りない情報を生徒の側で補ったりすることもできるようになるため、理解力そのものの底上げ効果も期待できます。
学習目標の提示が曖昧になると、こうしたメリット/効果が失われますので、途端に様々な弊害が生じるのは当然です。実際に授業評価アンケートの結果を見ると、「目標理解」の項目で1学期から大きく後退するケースが散見され、大抵は目的変数である「学習効果」も低下します。
科目の学び方、課題への取り組み方も「わかっているはず」では、単元が進んでアレンジが必要な場面で対応が上手く取れない生徒もいます。
板書や理解の確認でも「このくらいで十分だろう」という予断から、抜いてはいけないところで手を抜いてしまっていることもありそうです。
こうした小さな不徹底の積み上げが、生徒の学びに「綻び」のようなものを作っている可能性があります。学期の切り替わりなどには、生徒がどうレスポンス/行動しているか、精緻に観察し直してみましょう。

❏ 目指していることは絶え間なく伝え、更新を図る

単元固有の学習目標以外の部分(思考力や学習方策など)については、授業開きやオリエンテーションで一度伝えたきりということも少なくないように見受けられます。
どんなメッセージも一度伝えたところで、時間の経過やその後の体験による記憶の上書きで、生徒の意識から薄まっていくのが普通。「共有できているはず」との思い込みは禁物です。きちんと伝え続けましょう。
先生が意図するところを、生徒が理解していない/失念しているようでは、個々の指示や説明には伝わらない部分がどんどん増えていきます。

学習を通して目指すべき事柄は、単元固有の知識・技能の獲得だけではなく、科目固有の考え方や思考力・判断力・表現力、さらには授業への取り組み方や協働場面でのふるまい方など多岐に亘ります。
これらに「生徒が理解できる表現」を与えてしっかり伝える必要がありますが、単元固有の学習内容が、学びを進めるごとに高度化するのと同様に、求める思考や行動もより高度なものになっていくもの。
新学期を迎えて生徒に提示したのは、その段階での目標です。達成できた後もそこに止まっていては進歩はありません。次のステージを見せ、改めて目指すところを認識させる必要があるのは当然のことです。
生徒の成長は速く、半年も経てば別人かもしれません。もし、「4月に一度伝えたきり」だとしたら、2学期の学びを通して目指すべきものは何も新たに示されていないということではないでしょうか。

❏ 目標は学期ごとに細かく設定~適切な「段差」を

学年単位で到達目標を設定しているだけでは、現況(生徒の成長)が目標を追い抜くこともありますし、逆に、どこかの段差が大きすぎて乗り越えるまでのもたつきや躓きが生じることもあります。
目標の設定を学年単位ではなく、学期単位、あるいは考査で区切った期間毎に行うことで「段差」を適切な大きさに収めるようにしましょう。

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課題などの難易度なども生徒の感じ方をこまめにチェックし、適正範囲をキープしつつ、隣接期とのギャップを小さく抑えることが重要です。
生徒の負荷耐性は、学習方策の獲得、目的意識の向上、あるいは成功体験の蓄積で徐々に高まります。同じ負荷をかけ続けても、次第に軽く感じるようになるため、少しずつ負荷を引き上げて行く必要があります。

学年教科内で「段階的な到達目標」を適切に設定しても、隣の学年とのギャップが過大では、指導計画は意図したとおりに機能しません。
シラバスの起草に際し、学年ごとに(=隣接学年との調整なしに)到達目標を書き起こしているなど、学年間の段階性に十分に配慮がなされていなかったりすると、こうした問題が起きやすくなります。
ペーパーテストで測るような各単元の学習内容の理解と習熟の度合いのみならず、学びの方策/姿勢などについても、指導を通じて到達させるべき状態をきちんと言語/規準化して、教科内ですり合わせましょう。
先生方それぞれの頭の中での「イメージ」に止まっていては、お互いが想定しているものに乖離(=円滑な学びの接続を妨げるもの)が生じている場合に、それを把握することすら困難です。
生徒に取り組ませる具体的な課題(考査問題なども含む)や活動評価の基準(ルーブリック)などに書き出してみて、学年内/学年間でのすり合わせができる状態を作るところがスタートになるはずです。

❏ 新しいことを手応えを確かめずに進めてしまった

授業改善を図るときには当然ながら新しいことを試みます。うまく効果に繋がればいいのですが、良かれと思って導入したことが空回りすることも少なくありません。

授業をデザインするときには様々な想定をしますが、「こういったアクテビティを取り入れれば生徒はこう反応するだろう」「こういう課題に挑ませれば、こういう効果があるだろう」というのは仮説に過ぎず、検証は欠かせないものです。
学期や学年の終わりまで思い込みだけで一気に走って、「ダメだった」では、巻き込まれた生徒はいい迷惑です。先生は翌年度に再チャレンジできますが、生徒は同じ学年を繰り返せません。
改善/新しい工夫を試みているときは、中間検証を密に行い、常に手応えと成果を確かめるようにすることが肝要です。
新しい取り組みで意図しているところを質問文に起こし小テストの余白でミニアンケートを行ったり、リフレクション・ログをまめにチェックしたりすることに加え、生徒の答案にもしっかり目を通し、そこに現れた学びの深まりを観察する必要があります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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