どこにスケールを当てて学びの成果を測るか

学びの成果を測定しようとするとき、モノサシを当てるのは、その時点で生徒が「どこまで到達できたか」であるのが普通ですが、別稿でも触れたように、「学びを経て生じた差分」もまた着目すべき成果量です。
5キロ地点から10キロ地点に進んだ場合と、3キロ地点から9キロ地点まで進んだ場合、先まで到達しているのは前者ですが、大きく進んだのは後者。まだ1キロの差があるからと言って、前者の方が優れていると単純に捉えることはできないはずです。
評価を行うときには、「どこまで到達できたか」に加えて、学びを通して「どのくらい進めたか(≒どれだけ学びが広がり、深まったか」にもきちんとモノサシを当てるべきだと思います。

2020/01/07 公開の記事をアップデートしました。

❏ 学習方策の獲得や学びの姿勢でどれだけ進歩したか

当然ながら、学びの結果として獲得した「生きて働く知識や技能」にはきちっとモノサシを当てなければなりません。習ったことを使ってみる機会をしっかり整え、そこでのパフォーマンスをきちんと観察・測定しなければならないのは当たり前です。
一方、「学力」には「学ぶための力」や「学びを進める力」、科目を跨いで育成すべき様々な能力・資質(言語、数量、情報の各スキルや、メタ認知・適応的学習力を含む思考力など)なども含まれます。
思いつくままにざっと並べてみただけでも、以下のような事柄のそれぞれに、きちんとした評価規準を用意する必要がありそうです。

  • 知識・理解を生徒が自力で獲得できるかどうか
  • わからないことがあったときに、自らの判断でどう行動するか
  • 本当にわかっているか確かめる姿勢と方法を身につけているか
  • 課題を解決する/答えを導くために何をすべきか考え出せるか
  • 所与の情報の中に、適切な問いを立てられるか
  • 協働的な学びの場/課題解決の場で好ましい行動がとれるか
  • 考えたことを、他者の理解と共感を得られるよう表現できるか

場面を特に限らない一般的なものだけでもこんなにもありますので、教科・科目、あるいは単元に固有のものも加えれば、観察の対象にすべきことはかなりの項目数になりそうです。

❏ 観察のポイントと対象者を絞って効率よく

前項にリストアップしたことをすべて、生徒全員を対象に、あらゆる場面で観察して評価するのはとても無理です。評価支援のAIが教室に導入され、安価に且つ安心して使える日を待つしかありません。
必要な観察をできるだけ確実に行おうとするなら、

  • その日の学びの主眼に応じて評価の観点を絞る
  • 課題を抱えている/進歩のあった生徒を集中的に観察する

など、評価においても「限られたリソースを効果的に配分する」という姿勢で臨むことが重要かと思います。
単元の内容や本時の主眼、授業デザインによって観察できるポイントは自ずと限られますので、評価の観点を絞るのは当然の帰結です。
別稿「リフレクションシートの記載を参考に観察精度を高める」でも書きましたが、ポートフォリオに生徒が残したログに目を通しておけば、大きく進歩しそうな生徒や学習を進める上での課題を抱えている生徒を特定して教室に臨めます。
課題をクリアできた瞬間をきちんと見ていれば、褒めてあげることで学びに対する生徒の自己効力感も刺激できますし、課題を抱えている生徒をしっかり見守っていれば、気づきを促す問い掛けもタイミングを逸することも少なくなるはずです。

❏ 評価は先生だけが行わない~自己/相互評価のスキル

評価には、生徒一人ひとりに正しい評定を与える必要があるのも現実ですが、一義的な目的は「生徒を成長させること」です。
先生が下した評価であれ、生徒自身によるもの/生徒同士で行った評価であれ、次の学びに向けた課題形成やこれまで頑張ったことの成果検証ができるのであれば、本来の目的は達せられたことになります。
そもそも、先生が評価してくれなければ、自分が学習者として正しい方向に進化しているのか、より良いパフォーマンスを得るのにどうすれば良いか判断できないようでは、とても「自立した学習者」とは言えませんし、その状態で卒業させてしまっても良いものでしょうか?
この辺りについては、以下の拙稿もご参照いただければ幸甚です。

❏ 評価は学習後だけに行うのでは不十分~始点も把握

学習評価は、生徒が学び終えて行うのが通例になっているように思いますが、「どれだけ進んだか」「どこまで深まったか」を測ろうとするなら、初期状態での位置も把握しておく必要がありますよね。
指導の成果は、到着点とスタート地点を両端とするベクトルで表現できるものですが、学びにおける生徒の頑張りもまた、同じベクトルで評価すべきものだと思います。
到着点の測位は、ひと通りの学びが終わったときや、内容の区切りがつくところ(中間検証)で行われているでしょうが、スタート地点の測位はついつい忘れてしまいがちです。
授業開きに際して、何らかの課題を生徒に与えて取り組み方を観察したり、単元の導入で行ったプレディスカッションで生徒がどう考えられるかを見守ったりすることで、学ぶ前の初期状態を把握しておかないと、後になってモノサシを当てようにも困ってしまいます。
単元固有の知識・理解であれば、その日の授業の導入フェイズで「仮の答え」を作らせておけばOKですが、学習方策や汎用スキルなどは獲得と定着に長いスパンが必要です。
ルーブリックに仕立てた観点ごとの段階的評価規準に照らした結果を、数値(分布)で残しておかないと、定量的な測定はほぼ不可能です。

❏ 学びの評価は、結果とプロセスの両面から

生徒の学習を評価するときに悩むのが、生徒が学びを通じて何ができるようになったかという「結果」だけに着目すべきか、あるいは「学びのプロセス」にも重きをおくべきかというものです。
コンピテンシーの増大という「結果」がなければ、学びは十分なもの/適切なものだったとは評価できませんが、結果はOKでも、もし学び方や取り組み方というプロセスが間違っていたら、それを繰り返したところでその先の伸びは期待できません。
一つの課題に解を導く場面でも、結果とプロセスは分けて捉える必要があります。
ある問題に正解できたとしても、知っていた解法を当て嵌めただけの生徒と、題意を理解し、図に起こし、そこから立式するところまで自力で行える生徒とでは、応用力も違えば今後の伸びも違ってきます。
パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへの転換に対応する必要は当然として、「結果」と「プロセス」の両方を評価することの必要性も忘れてはなりません。

❏ 生徒の学習評価は、到達点をメインに変化量を加味

学習の評価において、「到達点」を測位するだけではなく、「変化量」にも注目しなければならないのは、別稿「最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果」でも申し上げた通りです。
また、変化量に着目しなければならないのは、プロセスも同様です。学び方、課題への取り組みについても、授業開きのときと比べてどれだけ進歩しているかをきちんと観察しましょう。
しかしながら、評定や成績をつける時には、到達点を測位した結果(どんな課題に解を導けたか=「生きて働く知識・技能」をどれだけ獲得したか)をメインに評価せざるを得ないと思います。
最初から解法を知っていたり知識を所持していたりした場合も、知らなかったけど頑張って考え出した場合も、導き出した答えの妥当性が同等であれば、評価に差をつける合理的な説明がつかないからです。
遅れを取り戻しつつある生徒の頑張りも評価したいという場合は、変化量をボーナスとして加点することも可能でしょうが、到達点と変化量に乗じる係数は慎重に検討し、適切に調整する必要があります。
当然ながら、係数の設定には、先生方の間での事前の合意形成に加え、生徒に対する合理的な説明と事前の告知が必要です。

到達点変化量✕結果プロセスのマトリクス例.png


イメージとしては、上のようなマトリクスを作って配点(係数)を考えた上で、一定の期間の評価結果を蓄積して行うことになります。

❏ 先生方の指導の効果を測定するときは変化量で

一方、先生方の指導の成果を検証(効果を測定)しようとするときは、変化量(個々の生徒の変化とその総体としての集団の変化量)に焦点を置くのが好適です。
どれだけ結果を伸ばし、プロセスを改善することができたかは、指導がもたらした付加価値であり、共有すべきは付加価値の大きな指導であることは言うまでもありません。
四分位図などで、成績やパフォーマンスの変化を調べ、上位を伸ばせたクラス、下位を底上げできたクラスなどを特定し、そこでの指導手法を抽出・共有することが、授業改善に向けた協働のあり方です。
指導の効果測定は、継続的な指導の改善を図り、優良実践を共有するためのものであることを忘れないようにしたいものです。
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カリキュラムは、縦軸に学習内容を、横軸に能力・資質を配したマトリクスで考えますが、縦軸・横軸に並ぶそれぞれの要素は、獲得を目指すべきものであり、それぞれが評価の対象とされるべきもの。


要素の一つひとつについて、獲得を図るとともに、どこまで出来るようになったか、どれだけ進歩したか、生徒一人ひとりについてきちんと評価していきましょう。各セルに埋めた「学習活動」は育成の機会であるとともに、評価の機会でもあるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一