年間行事予定の書きだし方(その5)

年間行事予定に配された様々な指導の一つひとつの背後には、生活、学習、進路の3観点での段階的到達目標が存在しているはずです。既存の年間行事予定や来年度の原稿を前に、各行事に込められた指導意図を取り出してみる(=言語化してみる)ことで、これまでの指導計画/行事予定に朱入れすべきところが明らかになるというのが前稿の主旨です。
この工程を踏むことで、段階的に設けるべき到達目標を正しく配列した適切な構造に改めることもできますし、一つひとつの到達目標に「評価規準としての要件」(=生徒を主語にしたセンテンスの形)を満たした表現を与えることで、ルーブリックの原型も整っていくはずです。

2016/03/11 公開の記事を再アップデートしました。

❏ ルーブリックに組み直す前に、一定期間の観察を

本シリーズ のその1でも少し触れましたが、到達目標を生徒を主語にしたセンテンスで書き出しておけば、それを過不足なく満たしている状態を「A評価」(=目標を達成した)とすることができます。
目指すべき到達状態が、すなわち評価規準ということです。
A評価に相当するものが決まったら、それをベースにそのまま、B(目標に近い)、C(遠い)、S(超える)の各評価となる規準の書き出しに進みたいところですが、ここで少し立ち止まってみた方が、その後の工程がスムーズになります。
A評価に相当する状態をセンテンスに書き出したら、暫くの間、それに照らした生徒観察に集中してみるのが好適です。
評価規準をイメージした状態で生徒観察を続けていくと、A評価に相当すると考えたセンテンスにもリライトが必要な部分が見つかるかもしれませんし、観察の中で、B、C、Sに相当する行動を何を基準に設定すれば良いか次第に明確になってきます。BCSの各規準作りは、それを待って再開するようにすれば二度手間、三度手間を回避できます。

イメージがつかないまま作業を進めて形だけ整えても、後でのやり直しが増えるばかり。効率も悪く、余計な苦労を抱えることになります。

❏ 進路の手引きに書き込み、到達目標の配列を見渡す

目指すべき到達状態をイメージして観察を行う時に、記録を残していくのに便利なのが、進路の手引きの欄外余白です。
少なくとも進路に関する事柄は生徒が経験していく順番に記載が揃っているはず。学習に関する事柄もたいていのことは触れられています。
進路の手引きを起草する段階で、ある程度は体系的な書き方をしているはずですので、それぞれの記述をアンカーに気づいたことを書きこんでいけば、バラバラになりにくいメモ(備忘録)が残せるはずです。
もし、行事そのものの記載がなければ、別紙を挟み込んで、次の更新に備える原稿代わりにしましょう。
観測の中で、「この到達目標はもう少し前倒しにしても良い」「この行事を挟んだ後でないと無理」といった判断も加えて行きます。
生活、学習の領域での気づきも、時期が一致するページにメモを残していくことで3観点の到達目標や評価規準を見渡しやすくなりますので、後になって全体をまとめ直すときの作業が格段に楽になります。

❏ 更新されずに古い記載が残っていないか

少し話がずれますが、進路の手引きにも気になることがあります。
様々な学校の進路の手引きを拝見すると、入試日程などの年次データの貼り換えが行われているだけで、きちんと更新されてないケースも少なくないような気がします。
古い記述が残っており、現状と一致しない部分はないでしょうか。
学年ごとに独自の工夫が織り込まれる中で、照らし合わせがなされず、進路の手引きでの記載と実際に行われている指導とがしだいにかけ離れてきたのでしょう。目標と手段の不整合もあり得るはずです。
手順ばかり細かく書かれ、目的とすることにあまり言及されていないこともあります。目的は支障なく行事を完了することではなく、行事を経て以前とは違う状態に生徒を導くことにあるはずです。
朱入れ用の冊子を分掌・学年に1冊ずつ用意しておき、指導機会ごとに変更したことや気づいたことをその場で書き込んでいきましょう。新年度を迎える準備に取り掛かるタイミングで、それぞれが朱入れしたことを持ち寄って整理すれば、更新漏れを大きく減らすことができます。

❏ 明文化は、妥当性の判断と目線合わせに必須

年間行事予定や進路の手引きなど、書面を整える仕事はたしかに面倒なものです。「到達目標や指導の方針は、教員間ですでに共有されているのだから、そんな手間をかける必要はない。そんな時間があったら生徒の指導に当たりたい」というご意見もありますが、本当に意図するところはきちんと共有されているでしょうか。
文章に起こしてみることで、曖昧にされていたこと/不整合を起こしていたことに気づきやすくなりますし、互いにきちんと理解していたか、共感できる内容なのかの点検もできます。
指導に臨むときの目線合わせには、暗黙の了解としていたものを明文化しておく必要があるはずです。
文字や図に起こせば、それを土台に考えを発展させやすく、互いが考えたことをきちんと理解した議論を可能にします。固定されたものなしでは論理の破たんにも気づきにくく、議論も空回りしがちです。
どんなものであれ、生徒に示す書面は、先生方の共通認識のもとで作られていなければならないことは改めて申し上げるまでもありません。

❏ 建学の精神に照らして、リソースの最適配分へ

少々わき道にそれました。年間行事予定の書き出し方に話を戻します。
段階的到達目標を、観点別/サブカテゴリーに構造化し、段階性を踏まえて配列し終えた上で、それらを達成するのに必要な教育活動を立案してカレンダーに落とし込んだものが「年間行事予定」です。
ここで完成と言いたいところですが、決定稿として公開に進む前に、改めて「建学の精神や教育目標との整合が取れているかどうかの点検」を行いましょう。一つひとつの到達目標の総体が、学校が実現しようとしている教育を余さず、矛盾なくカバーしているか、重みのかけ方にアンバランスはないかの確認です。
教育目標の中で配列されたいくつかの主要な概念のうち、ひとつだけは各所にその達成手段がちりばめられ全方位から固める形になっているのに、他はおざなり、というのではバランスを欠きます。
扱いが軽くなりすぎている部分をどう強化するか、どこから資源を割り当て直すかも考えなければなりません。加えるべきものがあれば、別の何かを間引くのが当然です。

行事予定を決めるときに常に念頭に置くべきは、「目指すべき教育の実現に、限りある教育リソースを如何に効率よく配分するか」と「個々の指導を如何に有機的に繋ぐか/関連づけるか」の2点です。
こうした最終再点検の中で、年間行事予定の公開/配布までに調整が間に合わないような大修整の必要に気づくこともあろうかと思いますが、引き続き検討と調整を進めて準備が整ったところで、「年間行事予定の更新版」を再配布するという手もあるはずです。

このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

カリキュラム・年間指導計画Excerpt: 1 シラバスの起草・更新に際して1.0 シラバスの起草・更新に際して(序) 1.1 シラバスの起草・更新に際して(その1) 1.2 シラバスの起草・更新に際して(その2) 1.3 シラバスの起草・更新に際して(その3) 1.4 シラバスの起草・更新に際して(その4) 2 教科学習指導における数値目標のあり方2.0 教科学習指導における数値目標のあり方(序) 2.1 教科学習指導における数値目標のあり方(その1) 2.2 教科学習指導における数値目標のあり方(その2) 2.3...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-01-11 06:15:20