いつになく頑張った/上手く行ったと自分では思っていたときに、誰もそれと気づいてくれなかったり、評価してもらうどころか、あら探しやダメ出しをされたりでは、次に向けて頑張る気持ちも萎えそうです。
褒めれば伸びるというものでもないと思いますが、正当な評価は生徒の自己肯定感を刺激し、同時に与えられる的確な助言は次の機会に向けた課題形成に繋がり、さらなる頑張りとその結果としてのより良いパフォーマンスを引き出します。
別稿「原因から考える家庭学習時間の延伸策」では、家庭学習に取り組む姿勢や意欲を妨げる原因とそれぞれに応じた対処を考えましたが、授業内外で取り組んだ成果への正当な評価と的確な助言の有無も、生徒の学ぶ意欲・姿勢を大きく左右するはずです。
2019/11/14 公開の記事をアップデートしました。
❏ 誰しも、頑張った成果は認めてもらいたい
今日はとびきり美味しいものを作って日頃の労に報いようと、朝早くから仕込みに入ってようやく完成したカレー。レシピにもこだわり、買い出しのときから「どんな反応があるかな」とわくわくしていたのに、食べている様子はいつもと同じで「美味しいね」の一言もなし。
これでは、がっかりもすれば、また頑張ろうとか、もっと美味しいのを作ってあげようという気持ちは生まれないような気がします。
喩えが今一つであったことはさておき、これと同じようなことが学習の場でも起きているのではないでしょうか。
きちんと予習してきて準備は万端なのに、一度も指名されることなく考えたこと/調べてきたことを表現できなければ、頑張ったことを知ってもらう/認めてもらう機会もなくなります。
- 生徒を指名して発言させるとき(全3編)
授業で学んだことをもとに課題にしっかり取り組み、納得のいく答えを作れたのに、検印が押されただけで何のコメントももらえないというのも、生徒にとってはガッカリかもしれません。
生徒同士の話し合いの場でも、発言を通してチームにいつになく大きな貢献をすることもあれば、実技でも、ちょっとやり方(フォームやタイミング)を変えたらぐんと上手くなったということもあるはずです。
生徒は日々、まったく同じ調子で淡々と勉強するわけでもありません。面白いと思えば、いつも以上に踏み込んで調べたり、しっかり考えてきたりもします。その機を逃さずきちんと評価してあげましょう。
❏ 正しい評価の前提は、関心をもって観察すること
こうした頑張りにきちんと気づいてあげるには、生徒一人ひとりの取り組みに関心を持つだけでなく、観察の機会を確保する必要があります。
拙稿「活動させるのは観察のため」でも書きましたが、話し合わせてみたり、手元に書き出させてみたりしない限り、生徒が何を調べて知っているかも、どこまで思考を重ねたかもわかりません。
わからないでいる生徒を指名しても得られるものは少ないのと同様に、予習や課題をやってきていない生徒ときちんと取り組んできた生徒の区別なしに発言の順番を回すのでは弊害も少なくありません。
その最たるものは「頑張りを評価する機会」を逃すことだと思います。
ICTの導入が進み、生徒が整えた課題も、紙で回収して返却する手間なしにクラウド上で確認することもできますし、振り返りを通して生徒が起こしたリフレクション・ログも容易に一覧することができるはずです。(cf. リフレクションシートの記載を参考に観察精度を高める)
❏ 評価すべき「良さ」を見つけたら、相互啓発の材料に
生徒が取り組んできたこと、考えたことを観察/把握していると、出来上がった答えには不備があっても、着眼点の良さや独創的な思考など、様々な「評価すべき部分」が含まれていることがあります。
そうした箇所を見つけたら、クラスでどんどんシェアしましょう。
ひとりの気づきをクラス全体の学びにすることには大きな意味がありますし、自分の答案や意見が引用された生徒にとっては「頑張りを認めてもらえた瞬間」になり得ます。
教室でシェアするのに模範解答のような答えばかりを選び出しても、そこからの学びは膨らみませんよね。
着想や思考の良さを互いに学べると同時に、「どうすればより良い仕上がり/パフォーマンスになるか」をその後の対話を通して見つけ出させていけるような答案/成果を選び出していくことが重要だと思います。
そうした「より良い答えを作るために学ぶべきこと」「こうすればもっと良くなる」という気づきを得ることは、本人のみならず、周囲にとっても改善・進歩への展望を描くことにほかなりません。
何をすれば良いかを知れば、それに向けた意欲が刺激されるのは、「振り返りを経てこそ次への課題形成」や「振り返りを通じた成果のたな卸しと次への目標設定」などで書いたこととも通底します。
❏ 客観的な自己評価は学習者としての自立の前提
頑張りを他人に認めてもらわないと自己効力感の向上や維持を図れないというのでは、自立した学習者と呼ぶにはまだ少し道のりが残っているように思います。
周りに誰も見ていてくれる人がいなくても、自分の取り組みを客観的に評価し、根拠をもって納得できるようになってほしいものです。
客観性を欠いた独りよがり/自己満足では、その後の成長にも繋がりませんので、様々な場面を通して相対化スキルを身につけさせていく必要があります。
前述の「良さをシェアすること」に加え、相互評価や答案比較などは、学習者としての自立に向かわせる重要な指導機会だと思います。
ご参考記事:
- 学習者としての成長を促す”活動評価”と”振り返り”(記事まとめ)
- 生徒は評価者としてどこまで成長しているか
- 自己評価、相互評価を行わせるときの工夫
- 自分の取り組みの成果を発表できる機会
- 答案のシェアや発表で相互啓発を正しく働かせる
- 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一