わからないでいる生徒を指名しても…

今期もあちらこちらの学校をお訪ねして授業を拝見させていただきました。様々な工夫が凝らされた実践を拝見して、刺激を受けながら貴重な時間を過ごせました。この場をお借りして御礼を申し上げます。
素晴らしい実践については、機会を見つけて当ブログでもご紹介していく予定ですが、それとは別にどうしても気になる場面も少なからず見受けられました。その中の一つが、以前の記事でも取り上げた「生徒を指名して発言させるとき」のやり方です。

2016/07/07 公開の記事をアップデートしました。

❏ 答えられない生徒を待つ間、他の生徒が活動を止める

座席順や出席番号順に生徒を指名していくと、当然ながら、ちゃんと答えられない生徒に行き当たります。
指名されても答えられないでいる理由は様々ですが、その生徒の発言が終わるまで、いたずらに時間が経過して、他の39人はピタリと活動を止めています。
授業時間内の学習の総量は、瞬間ごとの活動率を積み上げた総和ですから、できる限り活動を止めている生徒を減らし、活動のない時間を短くするようにしたいもの。
発言させる前には、きちんとした観察が必要です。
生徒の手元にあるノートなどを覗き込んだり、隣同士で話し合う様子を見守ったりして、「発言の準備」ができているかを確かめましょう。

❏ 予習で作ってきた答えを言わせてみたところで…

逆に、生徒を指名しても「模範解答」が返ってくるばかり、という状態も、学びの場にふさわしいのか、疑ってみる必要がありそうです。
英語や古典では、正しい訳が言えたことが、本当に理解していることを保証しませんよね。
どこからか全訳を手に入れたのかもしれませんし、文法や構造の把握が不十分なまま訳語を組み合わせて和文を「創作」しているだけかも。照応関係(指示・代用・省略)にも意識が向いていないかもしれません。
発問は、「出来上がった答え」だけではなく、「答えを導くプロセス」にも焦点を当てて行うべきです。

なお、問い掛けで気づかせたこと、調べさせたり、話し合わせて作り上げた理解は、最後にはきちんと仕上げさせましょう。問いに立ち返ってその答えを仕上げさせることで、見落としていた不明も解消されて、学びは深まり、確かなものになります。

❏ 他の生徒の発言を起点に学びを拡充する

教室は、答えを伝える場でも、正解を確認する場でもありません。答えの作り方を学ぶ場です。
生徒が正解を言い当てて、先生がちょっと補足するというのでは満たされないものが多すぎますよね。
生徒同士の相互啓発を働かせることも大切です。誰かが指名されて答えに窮していても、あとで先生が答えを言ったり書いたりするから、それを待っていれば良いやという姿勢を作らせたら台無しです。
他の生徒の発言に耳を傾けさせるためにも、「生徒の発言を先生の発問で繋いでいく」という発想は強く持ちたいもの。
優れた発言があれば、「今の意見は、どういうこと? もう一度説明して?」と、他の生徒を指名しても良いでしょうし、不完全な答えなら、それを板書してクラスで共有してから、より良い答えに近づく工程を生徒の目の前で展開していくこともできるはずです。

❏ 予習や復習の履行率を高めるのに、外圧に頼らない

順番に指名していくのには、「きちんと予習をさせ、授業に集中して取り組ませたい」との思いが根底にあるのだと思います。その思いには何ら否定されるべきことはありません。問題なのは方法です。
やってこないと授業中に困るよ、というプレッシャーによる「外的な動機付け」に頼っていては、冒頭の例のようにクラス全体の活動性を下げてしまいます。
ある生徒を追い込んで得られるプラスより、他の生徒の活動を止めているマイナス分の方が大きくなっていないか、冷静に考えてみましょう。
予習・復習の履行率を高めようとするなら、外圧に頼らず、予習や復習でさせるべきことは何かから考え直していくのが良さそうです。

予習をしていない/宿題を仕上げていないことが明らかな生徒を指名したところで、うしろめたさを感じさせるのが関の山。次の機会に学習の姿勢に改善が見られなければ、自己肯定感を失わせただけです。相互啓発に満たされた教室を作ることにはなりません。
なぜ、生徒を指名して発言させるのか、ときにはその意味に立ち戻って考えてみる機会も必要な気がします。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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