指導方法の効果測定#3 ポートフォリオの記録を利用

補習に参加した生徒としなかった生徒、ある課題に真剣に取り組んだ生徒と仕上げ切らずに形だけ整えて提出しただけの生徒。残念ではありますが、せっかく指導場面を用意しても、有効に利用してくれた生徒とそうでない生徒とがいるものです。
これらの生徒を一緒くたにして、集団としての成績や行動などの変化を見ても、その課題や指導がどのくらいの効果をあげたか判断がつきません。両者を分けてデータを分析することが、次につながる知見を得る上での前提条件だと思います。

2015/12/07 に公開した記事をアップデートしました。

❏ 「調査」の結果を「実験」と同等に利用できる

他の条件を同一にして、ある条件だけを変えたことで生じる違いを観察し、そこに有意差があるかどうかを確かめるのが「実験」の手法です。
生身の人間である生徒を相手に、むやみに実験をするわけには行きませんが、図らずもそのような違いが生じてしまったときには、両者を比較してみることで実験した場合と同じ知見が得られます。
下の散布図は前稿からの再掲です。

前回の記事から再掲

長期休業中の課題にきちんと取り組んで仕上げたB群()と、形を整えて提出しただけのA群()とを分けてこうしたグラフを描いてみるだけでも、その課題がもたらした変化を捉えることができます。
一部の生徒にだけ宿題を与えて、他のクラスに与えないという実験を生身の生徒で行うまでもなく、ポートフォリオなどに残された記録を説明変数として用いれば、与えた課題の効果測定ができるということです。

❏ 散布図上の分布域の違いや近似線の位置関係に注目

真面目に取り組んだB群は、それ以外のA群よりも、グラフの上の方に集まっていますよね。
近似線から推測すると、前回のテストで70点だったA群の生徒は今回のテストでは68点ぐらい、80点だった生徒は77点が今回の平均点です。
これに対してB群では、前回80点だった生徒の平均は86点に達し、A群の生徒を9ポイント上回ったことになり、大きく点数を伸ばしています。
A群とB群の近似線の距離は、長期休業期間中の課題にきちんと取り組んだかどうかを一因として生まれた違いを表しています。
別の言い方をするならば、散布図上での分布域の違いは、その課題がもたらした付加価値(=効果)であったと考えられます。

❏ 指導が適合する対象範囲も探ることができる

また、上の散布図では、B群がグラフの右側(前回テストで高得点)に集まっており、70点台前半以下には分布が見られません。
このことから、前回の模試である程度の成績を取っていない生徒には、この課題をこなすだけのレディネスが整っていなかった可能性も推測されます。
生徒に履行を任せるのではなく、授業内でしっかりガイドを行い、あるいは生徒同士の教え合い・学び合いを取り入れながら、課題に挑めるだけの準備を整えさせるべきだったのかもしれません。
もしかしたら、この宿題は、全生徒に与えるのではなく、一定水準以上の成績を取った生徒に対する任意課題/チャレンジ課題とするのが好適だったとの仮説も浮かびます。

❏ 履行状況による差が出ない指導は、その効果を疑うべき

先のサンプルでは、履行のある/なしできれいに得点分布が分かれましたが、いつもそうなるとは限りません。
以下の例では「受講あり群」と「受講なし群」とがほぼすべての領域で重なり合っており、両者の間にはっきりした違いは見て取れません。


大した違いが出ていない以上、教える側も学ぶ側も多大なエネルギーを投じるような価値があったのか微妙なところです。もし、他にやるべきことがあるなら、余力はそちらに回した方が合理的かもしれません。

❏ 学びのログをきちんとレコードに残して後日に検証

指導の効果は、その直後にではなく、数か月後、1年後に生じる可能性がありますので、ポートフォリオに残された追跡調査なども行ってみるべきです。
附属中学での体験の有無が、高3になったときの進路意識の明確さや、選択した結果への向き合い方などに効果を及ぼしているケースも確認されています。
様々なデータが残されていれば、後の測定結果に照らして効果を検証することもできます。
行動評価の結果や学習活動の履歴をデータに指導の効果測定をきちんと行い、継続的に改善を図れる学校と、先生方の経験と直観に頼って舵を切るだけの学校とでは、長い年月の間に大きな違いが生まれるのではないでしょうか。
以下の拙稿も併せてお読みいただければ幸いです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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