前々稿、前稿で予習と復習でどんなタスクに取り組ませるかを考えましたが、もう一つ重要なことは「いかに履行率を高めるか」です。どんなに明確な目的をもって予復習のタスクをデザインしても、履行してくれないことには効果は得られず、却って様々な弊害を招きます。
2015/04/16 に公開した記事を再アップデートしました。
旧タイトル「予習・復習で何をさせるか(その3)」
❏ 小テスト頼みで予復習の履行率を上げようとしても
学習内容の定着機会として小テストを行うケースも多いかと思います。
小テストには、「覚え方、思い出し方を身につける練習の場」としての価値(cf. 新しい学びの中で「覚える力」が持つ意義)がある一方、以下のような弱点も持ち合わせており、決して万能ではありません。
- 習ったことを覚えたかどうかに偏りがち
- 授業で50分をかけたことを、5分のテストで網羅できない
- 再テストの繰り返しで、後手のスパイラルに陥る生徒が出る
これらの問題にどう対処すべきかは、「小テストをもっと効果的に」で考察しました。お時間の許すときにご参照いただければ光栄です。
また、小テストへの準備が十分ではない生徒がいると、再テストや補習といったペナルティを課すことで履行率を維持しようとしがちですが、イタチごっこが始まるだけで、本質的な改善にはつながりません。
やってこない理由に立ち戻ってその解消を図ったり、予習や復習に取り組むことへのポジティブな理由を生徒自身が見つけ出せる仕掛けを講じたりする、根本的な対策が必要と考えます。
❏ 出来ないからやってこない、という生徒側の事情
予習や復習の課題を課したら、きちんと取り組ませないと、
- できる生徒が準備を整え授業に臨み、できない生徒が準備をしないために、実際以上の学力差を教室に持ち込ませてしまう
- 仕上げ切らないことを常態化させてしまい、主体的に取り組む姿勢や懸命についていこうとする姿勢を失わせていく
といった弊害を抱え込むことになります。やりきらせる責任はあくまでも課題を与えた側にあると考えるべきではないでしょうか。
生徒が予習や復習、宿題をやってこない理由は様々ですが、その一つには、取り組むだけのレディネスが整っていないというものがあります。
やろうという気持ちがあっても、こなすだけの土台が備わっていないのでは、生徒は「できない自分」を突きつけられるだけです。
予習にしろ、復習にしろ、何らかのタスクを与えるときは、きちんと事前指導を行って、「できるようになっていること」を観察を通じて確認しておく必要があります。
授業を終えて、教室を送り出す前に、与えられた課題にどう取り組むか少し考える時間を取り、思い浮かばなければ周囲と相談するようにさせてみるだけでも、進める土台が固まり、観察の機会も持ち得ます。
❏ やりがいのあるタスク、頑張りが評価される機会
予習や復習に課したタスクが、生徒にとってやりがいのあるもの、仕上げたときに達成感のあるものかどうかも、考えてみる必要があります。
作業性ばかりで頭を使ったり、創意工夫を発揮する要素がなければ、頑張ってこなしてみたところで知的な刺激や面白味はないでしょう。
予習や復習のタスクには、「問いに答えるために思考を巡らせる」という要素を組み込めているでしょうか。授業内の学習活動の配列と同様に、授業外課題もまた「問いを軸に考える」のが好適です。
また、課題や宿題にきちんと取り組んでも、「先生に叱られずに済む」というメリットしかなければ、頑張る気持ちも生まれません。
自宅で頑張った成果を教室に持ち込んだときに、きちんと評価してもらえること、頑張りを先生やクラスの仲間に知ってもらえることも、取り組むことへの動機になります。
予習で作ってきた「本文を自力で読み、そこに立てた問い」や「自分で解いてきた問題の答え」などは、先生が目を通して優れたものをピックアップして、教室で共有して相互評価の材料にすることも可能です。
グループ内で共有してから、ベスト・クエスチョンを選出させたり、解法の比較検討などを行って発表させたりしている教室もありました。
❏ やらないと困る状況~チームへの貢献という要素
予習/復習にしても、宿題にしても、やらないで困るのは自分だけという状況下では、「あの葡萄は酸っぱい」とうそぶき、やらなかったことの言い訳もできてしまいます。
その一方で、自分がやってこないとチームやパートナーに迷惑をかけてしまうとなれば、そうも言っていられません。
例えば、前の授業で習った文法項目を使った英文創作を予習に課し、授業ではペアで互いが作ってきたものを口頭で伝えるアクティビティを復習フェイズにセットしたとしましょう。
相手が作ってきた英文を聞き取って、それに対する質問をしたうえで、「どんな会話をしたか」をワークシートに書き込ませて提出させるようにすれば、片方がさぼったことが相手を巻き込みます。
ジグソー法を使って、事前に調べ物をしてくるときも同じことです。
チームやパートナーに対する貢献という要素を含むことは、授業内活動でも参画意識を高めますが、予習や復習といった授業外学習の履行率/取り組み方を改善することにも一定以上の効果が期待できます。
❏ タスク管理のスキルを学ばせ、時間を有効に使わせる
予習/復習の課題をこなすだけのレディネスを備え、やらなければならないことがわかっていても、時間をやりくりできない生徒もいます。
部活で疲れて寝てしまったり、スマホゲームやSNSから離れられなかったりすることもあれば、やっていかないとペナルティが待つ宿題を優先する中で、他の予復習が時間切れになることもありそうです。
これらはいずれも、「やる気」の一言で片づけられる問題ではありません。タスク管理のスキルが十分に身についていない(獲得に向けた指導がなされていない)ことにも原因が求められるのではないでしょうか。
詳細は「高校生のタスク管理&スケジューリング」に譲りますが、やるべきことが生じるたびにその場で手帳にメモすることを習慣化させ、家に帰ったら何はさておき机の前に5分間座って、寝るまでのスケジュールを立てるようにさせるだけでも、状況はずいぶん変わります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一