高大接続改革と定期考査問題

2020年に迫る高大接続改革に備えてこれまでに何年もかけて積み上げてきた準備を土台に、新しい学力観に沿った学ばせ方への転換が図られているものと拝察しますが、同時に、学力形成の中間検証手段である定期考査もそれに見合ったものに更新されていかなければなりません。
次に控える定期考査までに、教え方と測り方の双方がきちんと更新できたか、ご自身で/教科の中で確かめておく必要があると思います。
生徒は考査問題に合わせて学習のスタイルを作り上げます。高校入学から数か月がたち、「高校での勉強の仕方」を固めてきている時期です。
万が一、考査問題が以前の学力観に沿ったもののままであったとしたら、ここでしっかり方向を修正しておくべきではないでしょうか。

高大接続改革に備えて考査問題も新しいスタイルに

2018年の春に高校に入学してきた生徒は、2020年入試に初めて挑む学年です。1年生のうちから新しい学力観に沿った教え方/学ばせ方に切り替えないと、3年後の進路実現に際して後手を踏むリスクが高そうです。指導方法は主体的・対話的で深い学びの実現に向けて改善の工夫がなされていますが、もう一つ忘れてならないのは考査問題のあり方です。実際の作問は来年度の仕事ですが、年間授業計画の改訂に取り掛かる前に検討しておくべき事柄です。

入学試験での成績と定期考査のパフォーマンス

入学選抜での成績と中間考査での得点から散布図を描き、相関を確かめてみることで「入試問題が、入学後の学びが求める力や適性を正しく測ったか」「定期考査は、入学と卒業を結んだ線上に正しく位置しているか」などが把握できます。相関が大きくずれた場合、入試問題で示した要求学力の先に入学後の学びが設計されていない可能性があります。また、散布図中で近似線から大きく下方に離れた生徒は、入学後の学びに問題を抱えています。

散布図と残差から個々の生徒の課題を探る

昨日の記事で取り上げた、入学試験と中間考査の成績との相関や散布図を作るときの手順や、学び方の転換に問題を抱えている生徒を抽出するための「残差」を算出する方法をご紹介したいと思います。ある期間を挟んでの成績変動を残差という指標を用いて数値化することで、個々の生徒が学習生活に問題を抱えていないか探れますし、伸びている生徒を抽出して「望ましい学習者像」を描出すれば、生徒の行動を観察するときの観点も得られます。

出題研究を通して”問い方”を学ぶ

学習する内容が、それを構成する知識の集合体としては同一であっても、新しい学力観に移行する中で、知識の使い方、つまり「問われ方」は違ったものになってきます。新しい学力観に沿った「問い方/問われ方」を学ぶ必要がありますが、その最適な教材は大学入試などの出題です。社会が抱える様々な課題に学問がどう関わろうとしているか、大学での学びが求める能力・資質などを踏まえた出題も、意欲的な大学で今後増えていくはずです。

考査問題と被験者学力のマッチング

目標学力(=指導を終えたときできるようにさせたい事柄、獲得させたいコンピテンシー)への接近状況を測定できない問題は、いかなる場合でも出題を避けるべきですが、現代的な学力観に見合った問題であっても、どんな学力層の生徒に与えるかで「良問」にも「悪問」にもなり得ます。設問ごとの正答率や採点基準ごとの充足率を、成績層別に算出してみると、その問題/基準がどの学力層で最も識別力が高いか判断の材料が得られます。

正解がひとつに決まらない問題

「学習型問題」と並んで「答えが一つに決まらない問題」も出題の増加が見込まれます。正解が一つに決まらないと言っても、答えがない/解決不能ということではありません。解決へのアプローチに様々な切り口が考えられる問題や、賛否などの立場によって異なる議論が成立する問題などのことを指します。答えが一つに決まる「解内在型の問題」を扱うときのように先生が用意した「模範解答」を示すだけでは足りないものが出てきます。

学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える

パフォーマンスモデルの学力観の下では、何を学んできたかを試すことを目的に、正解が一つに決まる問題を課し、受験者が出した答えの正誤で学力を測っていたため、正解が特定できない問題は「出題ミス」として扱われました。しかしながら、学力観がコンピテンシーモデルに切り替わる中で、事情は大きく変わってきそうです。答えが一つに定まらない問題で、生徒の思考がどこまで深まったかを答案から評価する方法の確立が急がれます。

答案を正しく評価できているか

“学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える”で申し上げた通り、高大接続改革で出題の増加が予想される「答えが一つに決まらない問題」などの新しいタイプの問題では、採点基準の在り方しだいで、設問は良問にも悪問にもなり得ます。答案を正しく評価することは、生徒の学びを正しい方向に導くことにほかなりません。新しい学力観に沿った出題が増える以上、それを正しく採点する方法の開発・確立は真っ先に取り組むべき課題の一つです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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