教科学習指導の目標の一つは問題解決力の養成です。先生方は、その土台(生きて働くべき知識・理解)を獲得させるべく、授業を行います。
しかしながら、生徒の問題意識が十分に刺激されず、希薄なままでは、先生方がどれほど熱く語り、知識を伝えようとしても、「打てども響かず」「吹けども踊らず」ということになりかねません。
生徒の問題意識を十分に刺激し、生徒一人ひとりが「学ぶことへの自分の理由」を持てるよう、効果的な仕掛けを講じたいところです。
賛否の分かれるところで議論をさせたり、教科書や資料を読んで理解したことの中に生徒自身で問いを立てさせたりすることは、問題発見力の養成を図るのにも好適な活動です。
2016/01/26 公開の記事をアップデートしました。
❏ 解を導こうとする課題のタイプに応じた方法を
授業を通じて解に辿り着こうとしている課題(ターゲット設問)には、
- 答えが一つに決まる問題(正解要件を一義的に明示できる)
- 答えが一つに決まらない問題(着眼点で異なる様相をもつ)
の2つのタイプがあろうかと思います。
前者タイプを扱う場面なら、目標理解と活用機会を整える授業デザインに示したように「問いを示してその場で仮の答えを作らせてみる」ことで、生徒は「解消すべき不明」や「掘り下げてみたい疑問(興味)」を見つけ、学ぶことへの自分の理由を持てます。
これに対して後者タイプの場合、十分な知識・情報が備わっていなくても、「なんとなく答えらしきもの」を作れてしまい、これからの学びを通じてクリアすべき「自分の課題」を見つけ出せないことが往々にしてあります。
それまでに獲得していた知識で想像できる範囲を超えたところに、別の意見や問題の捉え方があることに気付かせないことには、「自分の答えが不完全で、正しい答えを作るためには学ぶべきことがさらにある」との認識には至らないのではないでしょうか。
解を導くべき課題を提示し、その時点で導ける仮の答えを作らせるという手順に、「異なる立場から導き出された答えと自分が作った答えの違い」を知るためのワンステップを加える必要があるということです。
❏ プレ討論を通じて、見落としていたことに気付かせる
一つの問題に多様な捉え方や解決へのアプローチが存在し、賛否が分かれる、いわゆる「イシュー(論点)型」の課題では、学びの本題に入る前に行う「プレ討論」がとても効果的です。
生徒一人ひとりが導いた「仮の答え」や「その時点での意見」をもとにグループでディスカッションさせ、どのような意見の違いがあるのかを探らせましょう。
その成果をグループの代表に発表させれば、全員の視野が広がると同時に、「これまで知らずにいたこと」の多さに気づく機会が得られます。
公民の授業なら、「牛丼の値段は安いほうが好ましいのか」といった身近な問題から、政策への賛否などの堅いものまでネタは尽きません。
数学なら、多様な解法が存在する問題を用意して、解き方や証明の方法を考えさせて、互いに比較してみる場面も多いかと思います。
理科の授業なら、ある事実を観察させたりデータを読ませてから、それらを説明し得る仮説を考えさせたり、さらにはその検証方法を話し合わせてみるのは、「探究的な学び」を経験させる場としても有益です。
英語や国語では、筆者の主張への賛否を論じさせてみることでも、様々な着眼点の存在を知れるでしょうし、複数テクストの比較で試す「読解力」を鍛える練習の中でも、生徒同士の討論は盛り上がりそうです。
❏ 参加できない生徒がいたら、教育効果は期待できない
科目固有の知識・理解を用いて正解を導くタイプの課題を材料とする場合、討論に参加するには一定以上の知識・理解を備えていること(レディネス)が求められます。
解き方が思いつかない/前提となる知識を持ち合わせない生徒は、討論に参加することもままならず、傍観者(あるいはフリーライダー)としてその時間を過ごしてしまうのではないでしょうか。
これに対して、意見と対立を前提とするような「論点」について話し合う場合は、手持ちの知識や経験、直感だけでも、とりあえずその場での議論に何らかの形で加わることができます。
たとえ頭の中の知識が足りなくても、教科書や資料集を読んで考える材料を集めたり、スマホやタブレットを使って外の情報を集めながら、自分の意見や相手への反論を考えていくこともできます。
自分が調べたり考え出したりしたことが、討論のブレークスルーになったり、グループの意見をまとめるきっかけになったりしたら、その快体験を通して「役割を担うことの喜び」を知るかもしれません。
このように考えてみると、誰もが討論に参加できる場面を作ることは、学習方策や探究スキル、協働性や主体性、学びに向かう姿勢を身につけていく格好の機会になりそうです。
❏ 賛否が分かれるべきところで意見が偏ったら要注意!
自分と異なる考え方や知らずにいたことの存在に気づかせ、学びに向けたウォーミングアップを図ろうというのが、議論をさせる目的です。
しかしながら、賛否が分かれて然るべきところで、最初から生徒の意見がいずれか一方に極端に偏り、論争にならないこともあります。
もしかしたら、先生が(言葉にせずとも)頭の中に描いている「正解」 を、生徒が読み取り(忖度して)、それに合わせているのかも…。
こうなってしまうと、生徒の意識は「結局、何を覚えれば良いの?」 という、能動的・主体的なものとは程遠いものになってしまいます。
もし、意見が偏りだしたら、すぐに何らかの手を打ちたいところ。先生が反対派を演じて論争をしかけて見せるのも効果的です。
時間に余裕があるようなら、生徒に「最初の賛否とは反対の立場」を取らせてロールプレイを経験させてみましょう。
決め込んだ結論をサポートする材料を探すばかりでは、多様性や共生の資質の獲得はあまり期待できません。どうして相手は自分とは違う意見を持つのか、その立場に身を置いて考えてみる機会は大切です。
❏ 生徒自身に論点/問題点を見つけさせるステージへ
先生が用意した「お題」に沿って、生徒がきちんとプレ討論を進められるようになったら、もう一段先を目指しましょう。
ここで取り組ませるべきは、生徒自身に「お題」を作らせる活動です。
生徒に問いを立てさせるでも書きましたが、自分以外の人が立てた問いや設定したお題だけでは、学びが「自分事」になりにくいものです。
教科書に書かれたことを表層的に理解してわかった気になっていたり、疑うこともせずに鵜呑みにしているのでは心許ないところがあります。
書かれていることに対して、「どうしてこういうことが言えるのか」という問いを立て、他のソースにも当たりながら裏付けを取ってみたり、行間に隠れている理由や経緯に思考を巡らせてみたりする姿勢も、体験を通して涵養を図りたいところです。
学校を卒業して、自分の代わりに問いを立ててくれる人(=先生や問題集)がいなくなる時を見越して、生徒自身が問いを立てる練習をさせておくことはとても大切です。
教科書を読んで、その中に問いを立てるというタスクは、プレ討論と同様に、本時の学びに問題意識を持たせ、自分なりの課題を作らせることになるとお考え下さい。
❏ ウォーミングアップだけで学びを終わらせない
生徒の内にある問題意識を刺激し、学びに向かう準備(ウォーミングアップ)をさせる方策としての「論点を設けたプレ討論」は、実際に試していただくとその効果はすぐに納得いただけると思います。
しかしながら、ここまでの活動は学びの準備に過ぎません。この後に続く学びこそが本番であり、成果を生むかどうかはこの先が勝負です。
論点が整理できたら、教科書に立ち戻って「正しく考えるために必要な道具(=知識)」を体系的に整えていく必要があります。きちんと教科書に落とし込むことも忘れないようにしましょう。
また、ものごと仕組みを正しく理解する「理論的な枠組み」を整えるには、先生からの問い掛けや説明も欠かせません。
こうして考える道具を整えてから最初の問いに立ち戻り、改めて自分の答えを作り直させれば、学びはより深く確かなものになります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一