学びを軸にICT活用を考える#1 「伝達」の場面

ICTを活用する場は様々ですが、その一つは、生徒の学習活動に必要な道具・材料(知識など)を効率よく「伝達」しようとする場面です。これ以外にも「調査」や「対話」の場面もありますが、これらについては次稿以降で順に触れていきます。
どのクラスに対しても確実に提示し、獲得させなければならないことを予めスライドにまとめておくだけで、先生が教室で板書する時間と手間が省けます。浮いた時間は生徒の学習活動に割り当てられますし、生まれた余裕で生徒の観察をじっくり行うこともできるはずです。

2015/10/14 公開の記事をアップデートしました。

❏ 起点となるベースの板書はスライドで用意

生徒が獲得すべき知識は、先生が説明して聞かせるより、生徒自身に教科書や資料を読ませて、理解させるべきなのは言うまでもありません。
必要な情報をピックアップし、知識に編む工程を、先生が安易に肩代わりしては、その力を身につけるチャンスを生徒から奪ってしまいます。
しかしながら、観察の対象(英語や国語の本文もこれに該当します)を生徒の目の前に提示して、問い掛けを重ね、対象を注意深く観察させる場面もあるはず。
そのときに、ベースとなる本文や観察の対象となる事物を先生が黒板に描き出していく時間を節約すべく、「板書のベース」だけはスライドに起こしておき、プロジェクタで黒板に投影してしまうのが好適です。
板書は、生徒とのやり取りの中で、その発言や気づきを反映させて展開していくものですから、「仕上げ終えた段階の板書」を予め作り込んでそのままスライドを見せるのではNGなのは言うまでもありません。
ベースとなるものを黒板に写し出せば、後から自在に書き足してけますので、板書が本来持つ「活かすべき利点」も損ねません。プロジェクタの投影領域以外のスペースも自在に使えます。

細かなことですが、スライドは黒い地色に設定し、ベース部分は白いフォントや線で描くのがお奨めです。濃い色の黒板に写しますので、地色を白にしては見にくいだけですし、ベースを白にすれば、後で色チョークを組み合わせて使うにも好都合であるのは言うまでもありません。

生徒がノートを取る時にも、白で描かれたベースのフォントと線は黒い鉛筆で写せばOKですね。

❏ 定着するまで繰り返し言及する事柄もスライドで

文法事項や公式の類、あるいは周期表といったものなど、知識が定着し生徒が自在に想起できるようになるまで幾度も言及する必要があるものもスライドにしておくと、必要に応じて瞬時に投影でき、再提示と確認にかかる時間を短くできます。
当然のことながら、生徒にはスライドが提示される前に、手元にある教科書や副教材の該当ページをささっと開いて欲しいところですし、そうした習慣づけも大事なご指導です。
が、開いたページを視野に共有し、注視すべき箇所を指し示したり、ハイライトして見せたりすることで、念を押したいときもあるはずです。そんなときに、如上のスライドはとても役に立ちます。
ポイントやハイライトのために板書し直すのも時間の無駄ですが、視野に共有しないで説明しても、どこを指し示しているかわからないのでは伝わるものも伝わりません。妙なジレンマは抱えたくないものです。
また、生徒が演習や話し合いに集中している場面で、大事なことを見落としているのに気付いたときも、用意しておいたスライドをさっと表示すれば、その場の用は十分に果たしてくれるのではないでしょうか。
Wi-Fi 接続のプロジェクタなら、手元のスマホやタブレットを使って、机間指導の途中でもその場からスライドを簡単に切り替えられます。

❏ 作業の手順や注意点も、素早く提示、視野に固定

実験や話し合いからの発表までの手順を伝えたり、あるいはグループ作りや机の配置を指定するときにも、口頭だけで伝えるよりもスライドを併用した方が、伝達も確実ですし、時間も大幅に短縮できます。
こんなところでもたもたと時間を掛けては、生徒が活動に取り組む時間を圧迫するばかりで、得るものはありません。
作業を進めながら、生徒は必要に応じてスライドに目をやり、確認することもできますし、机間指導中に指示を取り違えている/誤解している生徒を見つけたときも、スライドを指せば、注意・助言も簡単です。
ひと通りの作業/活動を終えたときにも、スライドを改めて黒板に投影して、必要な事柄を書き込んでいくことで、ポイントの押さえ直しなども効率的に行えます。普通の板書でもそうですが、「書き/映し出したものの辿り直し」による学習効果は小さくありません。

❏ 事後学習での参照機会を確保するためのひと手間

スライドを用いた伝達は、確実性と効率を高めますが、先生がスライドを切り替えたり、消したりした瞬間に生徒の手元に残らなくなります。後日の復習や再考機会を考えたときに参照の必要が想定されるものは、生徒がアクセスできるところにしっかりと保存しましょう。
その場で記憶と印象に刻み切れなかったら/想起できなくなったら、そこで学びは失敗ですが、リカバーの方法を確保することでそうした失敗のリスクを最小化するのも指導者として行うべき配慮だと思います。
板書の地の部分だけ映写したスライドなどは、生徒がノートを取っているので、改めてプリントにしたり、電子的に共有したりする必要はありません。「手を使って書き写すことの大切さ」でも書きましたが、生徒が自分の手を使うべき場面を不用意に肩代わりしないことも肝要です。
著作権などの問題もありますので、図版をそのまま配信するのはやめるべきです。図版やグラフの一次ソース(元の出どころ)のURLや書籍や雑誌(授業で言及したものは図書室に備えておくのが基本です)の名称と該当ページを伝えれば、生徒は必要なときに参照できます。
該当のサイトにアクセスしたり、書籍などのページを開けば、関連する情報にも触れられ、学びと興味が広がるチャンスが生まれるはずです。次の授業で、「読んでみた?どんなことが書いてあった?」と幾人かの生徒に訊いてみるのも良いかもしれません。
その2(「調査」の場面)に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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学びを軸にICT活用を考える(その2)Excerpt: ICTの利用は、様々な効果をもたらしますが、複雑な仕掛けを必要とせずに初期段階から期待できるのは学習成果に直結しない部分に使ってしまう時間を節約することです。前の記事で例に挙げた、本文を板書する時間もその一つです。同様に、プリントに印刷され生徒に配ってある図を先生が説明のために板書するのもこれに当てはまります。
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