生徒を指名して発言させるとき(その1)

生徒を指名するに当たりどんなことを心掛けていますかと先生方にお尋ねすると、「できるだけ均等に発言の機会を与えるようにしている」という答えがかなりの割合で返ってきます。生徒が授業をただ聞いているだけではなく、発言させることで生徒が能動的に関わる授業にしたいからということのようです。
しかしながら、意図した通りの結果になっているかというと、そうとも限らないのが現実だったりします。発言の準備が整わないまま指名された生徒は黙り込むばかり、他の生徒はその様子を眺めているだけという場面も少なくありません。
生徒を指名して発言させるときにも、押さえておくべきポイントがありそうです。様々な場面を想定して、それらを考えてみたいと思います。

2015/10/30 公開の記事をアップデートしました。

❏ 指名順を決めると、ほかの生徒は学びを止める
均等に発言機会を与えようとすると、どうしても順番を決めておくことになりがちです。誰を当てたか複数回の授業にわたって記憶しておくのは大変ですし、メモに残した記録に照らしてしばらく指名していなかった生徒を探すのも手間です。
そんな手間暇をかけるぐらいなら、教室を見渡して生徒の表情や動き、手元の様子に目を配り、生徒同士のやり取りに耳を傾けましょう。
出席番号なり、前回の続きなりで最初に指名する生徒を決めて、そこから前後左右へと順番に当てていく場面を想像してみてください。
当たりそうもない席の生徒は、「当たるかもしれない」という緊張感を解き、あたかも「やり取りが終わって先生が結論を板書するまで待ちましょう」という感じになっているかもしれません。
当てられるかもしれないと身構えるのは「ちゃんと聞いておかないと」と授業に集中し、「問われる態勢」をキープすることです。
生徒に発言させて授業に参加させようという意図も、方法が拙ければ、却ってほかの生徒を休ませることになるだけと考える必要があります。
❏ 発言したくても、順番が回ってくるまで待つ?
先生が順番を決めて指名している場面で、自分から手を挙げたり、発言を差し挟んだりするには、発言することへのよほど強い意欲/理由が必要です。
指名された生徒が先生とやり取りするのを聞いたり、手元の資料で調べたりする中で、良い考えが浮かんだとしても、発言を躊躇したとしても無理からぬことではないでしょうか。
指名されていない生徒が「わかった」という表情を浮かべたり、発言したそうなそぶりを見せたりしているのに、授業者たる先生は、指名した生徒とのやり取りに気を取られていたり、指名者を決める番号カードをいじっているだけということもあります。
もし、あの場面でその生徒に発言のチャンスを与えていたら、「鋭いところに気づいたね」と褒めてあげられたかもしれませんし、発言を起点にクラス全体の学びを深める「次の問い」に繋げたかもしれません。
自ら発言する友達の姿と、その後の学びの盛り上がりを同じ教室にいて体験した生徒は、積極的に発言することが自分や周囲にもたらすものを学んだかもしれませんよね。
均等に発言機会を与えること自体に悪いことは何もありませんが、それを目的にして方法を考えるだけでは意図しない結果を引き寄せてしまうリスクがあります。指名した生徒以外を黙らせてしまうことも、先生と生徒の間でしか対話を作らないことも意図したことではないはずです。
❏ 問いはクラス全体に投げかけ、反応をみて指名する
座席順(あるいは出席番号順)に生徒を指名していくことの弊害はこれだけにとどまりません。
授業の流れを読んでどの問題で自分に順番が来ると予想がつくと、当たりそうな問題に必死に取り組み出す生徒がいますよね。先生方だって、ご自身が生徒だったときを思い出したら、そんな記憶があるはずです。
そんなとき、先生の説明やほかの生徒の発言は耳に入っていません。順番が回ってきてスムーズに(無難に?)答えられたとしても、その間に聞き逃したことを原因とする欠損が学びの中に生じているはずです。
また、何も考えが浮かんでこないときにたまたま順番が回ってきては、答えられない自分をクラスにさらすだけで終わってしまい、名誉挽回のチャンスは次に指名されるまで回ってきません。
考えていることを言語化させることは、生徒の頭の中で何が起きているか覗き込む「観察の窓」を開くことに外なりませんが、言語化の機会を作ることと、指名してクラス全員の前で発言させることはイコールではありません。
ペアで互いに説明したり、教え合わせたりするだけでも、机間指導の間に「観察の窓」を覗き込むことは十分に可能なはずです。
その上で、きちんとした思考、面白い着想を持つ生徒を見つけ、発言者として選び出してあげることこそが指導者の仕事ではないでしょうか。
以前の記事でもお伝えした通り、クラス全体に問いを投げかけ、発言をしっかり拾い上げるようにしたいもの。問いを投げかけた後、しっかり観察して「クラスで共有するに値する答えを持つ生徒」を探し出すことが大切です。
ちなみに、共有するに値する答えというのは、満点の答え/模範解答のことではありません。
良い点も正すべき点も含んでいる、言わば60点とか70点の答えのことです。それを教室全体で共有してから説明や発問を重ね、より良い答えに近づける工程をクラス全体で学ばせていきましょう。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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