苦手意識を抑えて、伸びている実感を持たせる

授業を受ける中で「学力や技能の向上」「自分の成長や進歩」を実感できている生徒は、高い確率でその科目に新たな興味や関心を見出していくというデータがあります。逆に、伸びている実感が得られなければ、その科目を学び続ける意欲を維持するのは容易ではありません。
教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させることができる授業、学びの成果や伸びている実感を持てる授業こそが、実現を目指すべき「良い授業」の姿の一つだと思います。
伝達のスキル(話し方や教具の使い方、説明の組み立てなど)の改善を図り、授業デザイン(学習目標を共有する手順や、獲得した知識を活用する場面、目標達成を確かめる方法など)を工夫するのは、より多くの生徒が伸びている実感を持てるようにするためです。

2015/08/19に公開した記事をアップデートしました。

❏ 苦手意識が邪魔して学力向上感を希薄にさせる

授業評価アンケートの結果を見ても伝達スキルや授業デザインでの評価で著しい改善が見られ、実際の教室に足を運んで観察してみてもそれらの改善がはっきり見て取れるのにもかかわらず、「この授業を受けて学力・技能の向上や自分の進歩を実感できる」という問いへの肯定回答が思ったほど増えてこないケースが時折見受けられます。
このようなケースでは、学習履歴の中で作ってきてしまった苦手意識からの影響が小さくなさそうです。
その日の学習内容はきちんと理解できているし、実際に学びの成果があがっているのに、不要な苦手意識を抱えているために学力が伸びていることを懐疑的に捉えてしまったり、自分の進歩を実際よりも小さく見積もっている生徒はいないでしょうか。
苦手意識を抱えたままでは、学びへの積極的な姿勢も失われがちです。
不要な苦手意識を抱かせないようにするには、

  1. 新たにできるようになったことをたな卸しする機会を設ける
  2. うまく行かなかったときどうすれば良かったか考えさせる
  3. わからないことがあっても自力で解消できる方策を学ばせる
  4. 自分で考え・工夫して課題を解決できた成功体験を積ませる
  5. 学習内容の高度化に備えて負荷耐性を高めておく

といった学習者支援を充実させる必要があります。
これらについて、これまでに考察してきた拙稿をピックアップしてみました。お時間の許すときにご高覧いただければ光栄です。

❏ 学びの成果のたな卸しができる環境を整える

授業を通じて新たにできるようになったことがあっても、生徒は意外なほどそれに気づいていないことがあります。成果のたな卸しができていないのではないでしょうか。本時の主眼や学習目標を示すときに、生徒が自らその達成を検証できる仕組みがきちんと備わっているか、常に点検してみる必要がありそうです。

また、新たに何ができるようになったかを認識するには「振り返り」の機会が欠かせません。振り返り→次回の目標設定→達成検証というサイクルを整えるとともに、自己評価をきちんとできる土台を整えさせることが重要です。

❏ 教わってではなく、自力で解決できてこそ自信がつく

自分で考え、工夫して課題を解決できたという成功体験は、それまでに抱いていた苦手意識を少しずつ上書きして消し去っていきます。「正解を教えて欲しい」という生徒を時々見かけますが、自力で答えを導く自信もなければ、その楽しさも学んでいないのではないでしょうか。

理解が形成されるまで丁寧に導くことは大切ですが、度が行き過ぎて、本来ならば生徒にやらせるべきこと/やらせてみればできることを肩代わりしてしまっては、生徒は自力で不明を解消する方策を学べなかったり、疑問に立ち向かう姿勢を失ってしまうかも知れません。

❏ わからないからと言って立ち止まらずに済む状態

わからないことがあったときに打つ手が見当たらずに立ち止まってしまえば、学びは進まず周囲との差は開くばかりです。拡大するビハインドに苦手意識を膨らませていくのも無理からぬことではないでしょうか。わからないことがあったら気軽に周りに訊けるかどうかは重要です。
普段の授業から、教え合い・学び合いの場を作り、その方法と姿勢を身につけさせるようにしましょう。協働で課題解決に挑む機会を整えることは、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティの形成にも寄与します。

参照型教材だって頻繁にページを開かせ、自力で読んで理解させるからこそ使いこなせるようになりますよね。生徒は学び方をどこまで身につけているかには常に意識を向けましょう。



追記: 苦手意識の正体は、「何をしようとしているのかわからない」か「わからないことを自力で解消する方法が獲得できていない」のいずれかであることが大半です。
他の理由も混在しますが、まずはこの2つの解消を図りましょう。
前者(部分理解が全体理解に結び付かない)の場合、解き方を辿り直しながら思考のプロセスや判断の根拠、解法選択の理由などを言語化させることが有効な対策になります。
後者(学習方策への未習熟)の場合、「丁寧に教えて正解まで導く」という手法には限界がありますので、生徒が自ら解き方/確かめ方の考案に挑む場を作ることが肝要です。
教え合いを通じて互いの発想や知識の交換を促し、「そういうことなのか」という気づきの体験を重ねていけば、学びに対する自己効力感も高まってきます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一