係の仕事(学級経営)

係の仕事は、生徒一人ひとりがコミュニティの中でそれぞれの役割を引き受けることを学ぶ大切な機会です。協働で課題の解決を図ろうとする中で、協働性や多様性、主体性の獲得も期待できますし、リーダーシップやフォロワーシップ、社会参画力の涵養にも役立つはずです。
アンケートの結果を解析してみると、係の仕事をきちんと割り振り、自分の役割を果たすことを求めることが「生徒が互いに刺激し合いともに成長するクラス」を創出するきっかけになり、さらには教科学習指導における学びの成果を引き上げる効果があると確認できます。

2015/04/13 公開の記事を再アップデートしました。

❏ データが示す、係の仕事→成長の場→学習効果との連関

下図は、のべ24,963人の生徒を対象に実施した生徒意識調査アンケートの解析結果です。「成長の場」を目的変数、他の9項目を説明変数として重回帰分析を行いました。質問文は如上のリンクでご確認ください。


説明変数は「偏回帰係数のt値」で降順ソートしてあります。解析結果は、クラスが成長の場として機能するかどうかを最も大きく左右している要素が「係の仕事」であることを示唆しています。
同時に行った授業評価の結果と突き合わせてみた結果が下表です。
各クラスで行われている全授業における「授業を受けて学力や技能の向上や自分の成長を実感できるか」という評価項目での平均との間では、如上の「成長の場」がかなり強固な相関を示しています。


❏ 簡単なようで、クラス間の差が出やすいところ

下のグラフは「学級の係や当番は、それぞれがきちんと必要な役割を果たしている」での肯定的な回答がどれくらい占めるかを調べてみた結果です。クラスごとに「どちらかと言えば」という但し書きつきのものを除いた“積極的な肯定”の選択率をヒストグラムにしてみました。


一見してわかる通り、肯定的な回答が半数にも満たないクラスから90%を大きく超えるクラスまで、その分布は広く及び、バラつきの度合いは授業評価アンケートにおける「板書」や「説明」といった一般的な項目に比べて格段に大きいものです。
教科学習指導では、研究授業や相互参観などの研修機会が用意されているのに対し、学級経営は担当する先生の経験則に任されていることも、差異の拡大に拍車をかけていると思われます。
如上のアンケートを行い、その集計結果から優良実践の所在を特定できるか、担当する先生からの実践報告などを介して好適な指導手法の共有を図れるかどうかで、学校全体で改善がどう進むかが決まります。

❏ 大前提として、係の仕事の目的をしっかりと定義

質問文が求めている「学級の係や当番は、それぞれがきちんと必要な役割を果たしている」という状態を作り出す大前提は、それぞれの係が何を期待されているか(=どのような状況の実現、維持を目的としているか)をはっきりさせることです。
これが不明瞭なままでは、係の活動に方向性を見出すこともできませんし、具体的に何をすべきかを生徒が考えようにも、取っ掛かりすら見つけられないのではないでしょうか。
そんなことまでやる必要はないと勝手に決め込むこともあれば、やった方が良いかなと思っても、ミッションとして明示されていないだけに、自分から手を出して良いものか戸惑いを覚えることもありそうです。
繰り返しになりますが、係の仕事は、クラスという社会/コミュニティの中で、自分が引き受けるべき役割を果たすことで協調や責任感を学ぶ場です。れっきとした教育の機会であり、雑用の引き受け先を決めるような感覚で場の創出に当たってはいけないはずです。

❏ 係の仕事を通して解決すべき課題を生徒に考えさせる

先生の側から仕事を事細かに指定するのでは、生徒は与えられたタスクを(ときにいやいやながら)こなしているだけです。
主体的な取り組みにさせるには、自分の係がどんな仕事を行い、クラスに対してどのような貢献をするのかを生徒に任せて係ごとに考えさせてみるほうが良いと思います。
社会生活における、「問題発見・解決力、創造力」(21世紀型能力における「思考力」の構成要素)を育む貴重な機会でもあるはずです。

まずは、教室内外の環境やクラスの様子を振り返って改善の余地がある箇所を探させてみましょう。係の生徒が互いの気づきを持ち寄れば、多くの課題が見つかるかもしれません。
その上で、より良い学びの場を作り出すために自分たちの手でどんなことが可能であり、実行には何が必要なのかを考えさせてみましょう。
こうした活動を通して得られることには、別稿「生徒に考えさせる授業規律」でご提案したことと通じるものがあるはずです。
係の中での作業分担を考えさせたり、仕事の進め方を工夫させたりすることも、協働のあり方を学ばせる好適な機会になるはずです。
他の係との間で引き受ける仕事の範囲を調整する必要が生じることもあるでしょう。そこでは、他のコミュニティとの利害対立を解消する方策を学ぶこともできそうです。
クラスが一つの課題に向かってまとまりを作る機会としても、係の仕事は学校行事にも匹敵する重要な教育機会かもしれません。

■関連記事: 係や当番で社会性を育む

学級を組織する上で、一人ひとりが役割を持つことが重要です。
ホームルームは生徒にとって最も基本的なコミュニティ。その中でどんな役割を引き受けるのか、どんな貢献をするのかを考え、行動を起こしていくことは、社会性を身につける最初の訓練です。
先生方が与えたルールを守るだけでなく、より良いコミュニティの形成に向けて自ら参画/貢献する姿勢と、主体性や協働性、自律的活動力などの資質の獲得機会と考えましょう。
・それぞれの係の活動を可視化する
・ひとりにひとつ以上の役割を
・活動時間の確保のためのランチミーティング
・チェックリストで振り返り&文具・資材の整備
・手は放して、目は離さない


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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