わかりやすい話し方(その4)

プラスアルファの工夫と配慮

わかりやすい話し方を身につけることの目的は、生徒に確かな知識や理解を効率的に獲得させることにあるのは言うまでもありません。
丁寧に説明して理解させようとするだけでは、生徒を退屈させて結果的に「情報を受け取る態勢」を解かせてしまうこともあれば、読んで理解する、話し合って疑問を解消するなどの「知識・理解の獲得に効果的な他の手段」を活用する方法や姿勢を学ばせ損ねることもあります。
いずれの場合も、「知識・理解の確実な獲得という目的」から離れて行ってしまうばかりです。わかりやすい話し方の「周辺」にも意識を向けて、生徒への伝達を最適化する方法を考えていく必要があります。

2014/08/04 公開の記事をアップデートしました。

❏ 生徒が意識をほかに向けるのはやることがないとき

生徒でなくとも、やるべきことがなければ、退屈しますし、当然のことながら、意識はよそに向いていきがちです。
こうした状況下、集中が切れたところで大事な話をされては聞き落としも無理からぬところ。聞き落とした箇所が次の内容の前提になっていたら、その先の話は「わかりにくい」もの以外の何ものでもありません。
こうした退屈の場面を作ってしまっているのは、他ならぬ先生です。
生徒の状況をろくに確かめることもなく準備の整っていない生徒を指名してしまえば、答えに窮した生徒と「無言のにらみ合い」になります。他の生徒は、「膠着状態」が解除されるのを見守るしかありません。
大事なところをきちんと伝えようと躍起になり、既に説明したところや教科書に書いてあることを繰り返していたら、生徒は先生が話を終えるまで「待て」をかけられているようなものではないでしょうか。
生徒の学びによどみを作らず、テンポよく学習活動(=生徒が取る行動や思考)を重ねていくことが、生徒の集中を維持し、話をきちんと聞いてもらえる土台を作ります。

ちなみに、生徒を指名するときは「ある程度のところまで答えを作れている生徒」を選ぶようにすれば、その発言を起点にクラス全体の学びに展開できますし、生徒の発言から次の問いに繋いでいくスタイルが確立できれば、他の生徒の発言にきちんと耳を傾ける姿勢も育まれます。

❏ 問い掛けを絶やさず、対話に生徒を参加させる

先生が延々と説明をして聞かせているときも、生徒は「黙って聞いている」こと以外にやることがなくなってしまいます。主導権は話を続ける先生が持っている状態ですから、生徒は自分で状況を打破できません。
聞いているだけでは退屈もするでしょうし、もし、既に理解できたこと/答えが分かったところで説明がグルグルしているようでは、話を聞くことそのものに意義が見いだせなくなります。
学びに向かう姿勢も弱まり、話を聞く構えも解かれてしまいます。
教科書や資料集に書かれていることをなぞる話なら、優秀な生徒は先回りして理解をしているかもしれません。退屈の中「手空き時間」を利用して、すでに課されている「宿題」や塾の予習を進めておこうと考える生徒が現れたら、むしろ褒めてあげたいくらいです。
先生の話を聞き続ける意欲を維持させるためには、生徒にも「対話の主体」としてそこに参画させるのが好適です。平たく言えば、常に生徒に問いを投げかけて、思考を求め、その結果を言葉にさせることです。
別稿では「問い掛けの多い授業が良い授業」と申し上げましたが、先生の話に耳を傾けさせ、着実な伝達(≒わかりやすい話し方)を実現するにも、授業を通して問い掛け[発問]を絶やさないことが肝要です。
答えを考えなければならない問題、集めなければならない情報を意識してこそ、注意深く話に耳を傾けますし、集めた断片的な情報を整理してまとまった概念に編もうという姿勢も生まれます。

理解しようとする生徒の意識と姿勢を高めることは、話す側の技術以上に、話のわかりやすさ/伝わりやすさを左右します。
また、問い掛けを重ね、生徒の理解を一つひとつ確かめながら話を進めれば、生徒との間で共有できていないところ(既習内容の欠落など)を誤って踏み台にしてしまう失敗も避けられます。
わかっていないことを土台に構成された話が、分かりやすいはずもありません。生徒に見えている景色を想像しながら教えているかは、伝える側が常に自問しなければならないことです。

❏ 話して聞かせるより、読ませて理解させる

わかりやすい話し方を実現する直接的なアプローチではありませんが、生徒に必要な知識を獲得させ、正しい理解を形成するという「目的」に照らせば、話を聞かせることに拘らず、生徒自身に教科書や副教材を読ませることも積極的に採り入れるべきだと思います。
文字ならば必要に応じて返り読みや書き込みもできます。教材のデジタル化が進めば、用語の意味を調べたり、関連事項を参照するのも格段に容易になっていくはずです。
また、読むスピードは自分で調整できますが、聞く速さは相手任せ。自分の理解スピードを超えた話についていくのは困難です。学びの個別化への対応も「読ませる」ことでスムーズに進むのではないでしょうか。
そもそも、教科書などは生徒が読んでわかるように書かれているので、読ませてみればちゃんと理解できる部分が大半のはず。「自力で読んで理解する力」を養うことも指導の重要な目標の一つです。

話をして理解させることを効率で勝る手段(ここでは「読ませる」)があるなら、それを積極的に活用したいものです。
生徒が読んでもまだわからないようなら、周囲と相談する/話し合うことで不明の解消を図らせましょう。疑問を言語化して他者に伝え、的確な支援を獲得することも「生きる力」ですし、教える側に回った生徒にとっても、自分の理解を言語化することで理解の深化が図れます。

このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

話し方・伝え方、強調の方法Excerpt: 1 わかりやすい話し方1.0 わかりやすい話し方(序) 1.1 わかりやすい話し方(その1) 1.2 わかりやすい話し方(その2) 1.3 わかりやすい話し方(その3) 1.4 わかりやすい話し方(その4) 2 強調の正しい方法2.0 強調の正しい方法 2.1 強調の正しい方法(その1) 2.2 強調の正しい方法(その4) 2.3 強調の正しい方法(その2) 2.4 強調の正しい方法(その3) 2.5 強調の正しい方法(その5)
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-01-05 06:48:09