学修時間を延ばすには(大学偏)(その1)

授業準備(予習)や、復習を含めた事後学習に投じる時間(所謂「授業外学習時間」)の十分な確保は、中高のみならず、大学でも長らく課題とされてきました。
特に関心が高まったのは、平成24年に中央教育審議会が「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」という答申をまとめた頃でしょうか。学生による授業評価アンケートで授業1回あたりの平均学習時間を尋ねる項目を追加する大学も多く見られました。
以来10年余りが経過しましたが、大学生の学修時間が大幅に伸びたとは言えないようです。コロナ禍で遠隔授業が行われていた時期には、授業と自習の境界が曖昧になったこともあり、時間数が跳ね上がりましたが、その後は、元の水準に戻っているケースも少なくありません。

2014/08/19 公開の記事をアップデートしました。

❏ 大学の授業評価アンケートにおける学習時間の調べ方

平均学習時間を選択肢の中から選んで答えさせる方式では、仕組みそのものが抱える不備があって、必ずしも正確な結果は得られません。
しかしながら、選択肢を適切に設定すれば、目標時間に達している学生の割合を、ある程度の精度で授業ごとに把握することはできます。
例えば、授業1回あたりの授業外学修時間の目標値が2時間なら、選択肢を3時間以上、2時間以上、1時間以上、1時間未満、30分未満の5択とすることで、如上のデータが得られるはずです。
学習目標提示や授業外課題付与などの工夫を凝らした場合、工夫の前後で回答の分布に生じた違いから、その効果を探ることができます。
授業ごとにリフレクションシートを提出させている授業では、「本時の準備に要した時間」「前回の復習や課題の仕上げに投じた時間」を書き込んでもらう欄を設けてみるのも好適です。
回答欄を「_0分」という形式にすれば、表記のブレもなく、データは10分単位に調いますので、集計や蓄積もしやすくなります。
こうした調査は、学生には「自らの学びを振り返る機会」になり得ますし、先生方には課題量が適切だったか、取り組みへの動機づけが十分だったかを推定する材料が得られ、手間の割には益は大きいはずです。
リフレクションシートを紙からオンラインに切り替えているなら、それを活用することで、わざわざ転記する手間も省けると思います。

❏ 学習時間と到達目標達成をクロス集計してみると

ある大学の実際のデータを調べてみると、「授業の到達目標がはっきりと示されている」という条件下では、授業1回あたりの平均学習時間が2時間以上という学生の3分の2が「授業の目標を達成できた」と答えたのに対し、2時間未満の学生はその割合が4分の1に止まりました。
このデータを見る限り、「課題+予習+復習の合計時間の目標は、授業1回あたり2時間以上」とする設定には、統計的に見ても、ある程度の妥当性を備えていると考えても良さそうです。
ただし、これは「授業の到達目標が適正な水準に設定されている」ことが前提条件です。目標の設定水準が低すぎれば、如上の学習量(時間)に届かずとも、容易に目標が達成できてしまうのは自明です。
過少な学修時間で授業目標を達成したと認識している学生が多いようなら、学生のポテンシャルを余さず発揮させ、十分に伸ばすためにも、よりチャレンジングな課題を与えるとともに、教室でしかできない学びと学生がやるべきことの線引きを明確にしていく必要があるはずです。

さて、前ふりが長くなってしまいました。今回のシリーズでは、大学生の学習時間を延ばすための方策について考えてみたいと思います。
これまでに、様々な大学での授業評価アンケートのデータを拝見する機会に恵まれましたが。集計結果を合理的に説明するために立てた仮説から、「教室で採るべき改善の方策」もある程度まで見えてきました。

❏ 課題を与えるだけでは、学習時間の延伸は不確実

大学生への授業評価アンケートの集計データでは「教員から与えられる具体的な課題」や「授業準備や復習の指示」と、平均学習時間との間には一定の相関が見られますが、期待ほど強固なものではありません。
大学や学部によって幅がありますが、相関係数の有意性が確認できないケースもたびたびです。
授業準備や課題の指示が具体的に与えられていると学生が答えているケースでも、授業1回あたりの学習時間が「30分未満」や「ゼロ」と回答する学生が5割に達するケースも珍しくありません。
準備と復習を足しても30分未満で完了できるほど少ない課題量しか与えずに、それで良しとしているケースでは、もう少し負荷を掛けてあげないと、学生のポテンシャルを十分に引き出せないように思います。
2時間以上、あるいは60分以上を授業外学習に投じた場合に、「この授業の目標が達成できる」と答える学生が有意に増加するようであってこそ、目標の設定と課題の付与が適正になされた授業と言えるはず。
そのような授業を実現しても、授業外学習が30分にも届かない学生が一定数は含まれます。課題や指示をきちんと履行しない(取り組むことに意義を見出していない?)か、やろうと思っても出来ない(学習方策への未習熟?生活等の環境の問題?)かのいずれかだと思われます。
それぞれに応じた有効な補完策を講じないことには、「十分な時間を掛けた学修」に学生を導くことはできないのではないでしょうか。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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