#01 目と口が生徒から見える状態で
先生の話が聞き取りにくかったり、わかりにくかったりすれば、当然のことながら、知識の伝達も理解の形成も効率的には進みません。獲得させた知識や理解を道具/土台に、思考や対話などの学習活動に取り組ませて様々な能力・資質を養うにも、伝達で躓いているようでは学習活動に割り当てられる時間が短くなっていくばかりです。
話を聞いている生徒も、言葉を聞き取ること/話を理解することに余分なエネルギーが必要では、聞くことに疲れてしまい、勉強の意欲も維持できなくなってしまうのではないでしょうか。「わかりやすい話し方」は指導者に欠かせない技術です。
先生方は教えること/話をして聞かせることのプロですから、「話が聞き取りにくい/わかりにくい」ということはないはずですが、授業評価アンケートのデータを見る限り、必ずしもそうとも限らないようです。
大昔の大学では、わかりにくい授業の方が、学生が必死に勉強するので力がつくなどという、ウソかホントかわからない話もあったとか。今はそんなことを言っても通用するはずもありませんが…。
2014/07/30 公開の記事をアップデートしました。
❏ 話し方の不備は、学習活動のすべてを妨げる
下グラフは、授業評価アンケートの集計データから作成したものです。Ⅰ話し方「先生の言葉は、いつもはっきりと聞き取ることができる」への回答を得点(満点=100)に換算した結果を5点刻みの階級に分け、Ⅶ学習効果「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」の評価(換算得点の分布)がそれぞれどうなっているか調べたものです。
Ⅶ学習効果における必達目標は75ポイント(肯定的な回答が9割となる水準)ですが、Ⅰ話し方の換算得点が85ポイントに達していない授業では、その半数以上がこの必達目標を満たせていないことがわかります。
同じデータを用いて確認してみると、下図の通りⅠ話し方が85ポイント未満の授業が全体の3割強を占めています。
話を聞き取りにくいことの背景には様々な要因が考えられます。問題を切り分けながら、それを一つひとつ解消していきましょう。まずは、話をするとき、ご自分の目と口が生徒から見えているかどうかです。
❏ 自分の目と口が生徒から見える状態で話をしているか
生徒の方にきちんと顔を向けていなければ、生徒から先生の目と口は見えません。生徒にではなく黒板や教材に正対したままずっと話しているのでは声がダイレクトに生徒の耳まで届かないだけでなく、生徒の様子/反応も十分に観察できなくなってしまいます。
授業評価アンケートで「Ⅰ話し方」の評価に改善の余地が残る授業を、実際に教室に足を運んで観察してみると、この「当たり前」ができていないことが思いのほか少なくありません。
手元の資料(教科書や授業案のノートなど)と黒板の間を視点が行き来するばかり、あるいは教卓上の教材や手に持ったタブレットの画面から目を離せないでいたり、といったことはないでしょうか。
板書のイメージや生徒に伝える内容が事前にしっかり頭に入っていないと、目線が手元に向く場面が増えがちです。授業準備が十分かどうかも改めて振り返ってみる必要があるかもしれません。
❏ 生徒の目線を上げさせ、こちらを向かせる
先生方の顔が生徒の方を向いていても、先生方の目と口が生徒に見えていない時があります。言うまでもありませんが、生徒が先生の方に顔を向けていないときです。
意図的に教科書やプリントを目で追わせながら先生の話を聞かせているのであれば問題はありませんが、それ以外のときはきちんと自分の方に顔を向けさせておいた方が、ちゃんと聞いているか/わかっているかを表情で確認しやすいはずです。
特に、万が一にも聞き落とされては困る「重要ポイント」を迎えるところでは、問い掛けをして意識と一緒に顔もこちらに向けさせましょう。
生徒の顔/目線を挙げさせるのに最も簡便な方法は、チョークを持って黒板の前に立つことです。板書を始めれば、生徒は黒板に書かれたものを写そうと、反射的に顔をあげます。そのタイミングで目線を交わし、大事なところを伝えるようにすれば、聞き漏らしも減るはずです。
❏ 短いサイクルでの問い掛けと板書での情報固定
先生が生徒の方に顔を向け、問い掛けや板書を手段に生徒の顔を上げさせても、その効果がいつまでも続くわけではありません。
ポイントを押さえたら、生徒が考えたり、話し合ったりする場面に戻して、リセットしましょう。先生が四六時中しゃべっているのでは、生徒主体の学びの場がどんどん圧迫されてしまいます。
きちんと伝えなければならないところに再び来たら、そこまでの前提理解を確認してから、問い掛けで生徒の意識を引き寄せ、板書で顔を上げさせ、伝達を着実なものにしましょう。
伝えたことはきちんと板書して、生徒の視野とノートに固定することも大切です。黒板に書き出しておいたことは、消すまで生徒の視野に残るため、次の説明をするときの「土台」にできますし、ノートに残させれば、後日の授業でもそこにフォーカスした発問で再記銘が図れます。
前提となる既習内容(知識や理解)を、このような形で固定しておくことは、次のフェイズでそれと関連のある事柄を学ばせる/聞かせるときの「わかりにくさ」も大幅に低減してくれます。
前提理解の確認→発問→伝達→板書のサイクルを短くまとめ、生徒による学習活動(思考や対話)の流れの中に上手に組み込むのが、授業という場での「好ましい話し方」の一つです。
この「サイクル」に含まれる「問い」が適宜挟まることで、生徒が「問われる態勢を解かなくなる」のも大きなメリットの一つです。これにより、授業への集中と理解度も格段に高まるはずです。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一