下級学校の取り組みと成果を知る、参観以外の方法

校種間の学びを正しく接続するうえでの問題の一つは、下級学校が取り組んだ教育の成果を上級学校が正しく踏まえきれていないことにあるのではないかと思います。生徒が小中学校で体験してきた/達成してきたことを高校の先生方がこれまで以上に知る機会が必要と考えます。
小中学校を訪ねて成果発表会や作品展示を見るたびに「こんなことまで出来るのか」と感心させられます。
相互参観や研究協議、出前授業などを通して上級学校での学びやそこで必要になるレディネスを伝えるとともに、生徒たちが入学してくる前にどんな学びを経て何ができるようになっているのかを知るべく、様々な方策を講じていきましょう。

2014/05/19 公開の記事をアップデートしました。

❏ 入試答案や出願書類で知り得るのは成果の一部だけ

入学者選抜に際し、問題を解かせればその時点の学力はある程度の精度で測ることができますが、それだけでは、生徒がどのような学びの過程を経てその学力を身につけたかまではわかりません。
それまでに体験した学びを土台に、高校に進んでからの新たな学びを積み上げるのであれば、連続性と段階性のある(=きちんと接続された)学びが成立しますが、何をしてきたか知らないことには、無駄な重複や埋め難い乖離が生じている可能性を排除できませんよね。
高校入試の改善を図る中で、知識及び技能、思考力・判断力・表現力をより正確に測れる出題への転換も進んでいるとはいえ、テストが測定しているのは学びの結果だけ、しかもその一部に過ぎません。
学力を形成してきた過程を窺い知るにも、学力の第三要素である「主体的に学習に取り組む態度」を評価するにも、実際に生徒が学んでいる教室に足を運んでみるのが一番ではないでしょうか。
別稿「授業開き/オリエンテーション」で書いた通り、実際に予習課題などを与えてどう取り組むか観察する必要があるのはこのためですが、この方法にも限界があります。
生徒は先生の指示に反応しますので、教室以外の場では、どう学びに取り組んでいるか観察できません。小中学校の先生方は、高校の先生とは違った授業観や学力観で授業を設計していることがありますので、実際に足を運び、その授業を観て初めて気づくことも多々ありそうです。

❏ 定期考査の問題や採点基準を見せてもらう

異校種の学校を訪ねる機会があったら、定期考査でどんな問題を課しているかも見せてもらいましょう。
定期考査問題は、先生方の学力観から生み出されたものですので、出所を同じくする授業での力点の置き方を知るには好適な材料です。
考査問題の改善が授業も変えるで申し上げた通り、テストで何を測っているかを見れば、授業で何を教え、どう学ばせているかも、かなりのところまで推測ができます。
参観できる授業はある単元の一部だけですが、年間5回の定期考査に目を通せば、年間を通して授業の様子やその中で生徒が身につけてきたものにも想像が及びます。
生徒は考査問題に合わせて学習のスタイルを獲得していきますので、テスト問題からは生徒がどんなふうに勉強しているか推測しても、大きく外れることはそう多くはありません。
採点基準も提供してもらえれば、どんなことに力点をおいて学習指導がなされているかをさらに正確に推測できるようになります。
出題内容や採点基準に気になることがあったら、それをお伝えすれば、小中の先生にとっても改善に向けた貴重なヒントになるはずです。

❏ 長期休業期間の自由研究などのレポートも

定期考査の問題と併せて異校種を訪ねたときに見せてもらいたいのは、日々の授業や長期休業期間中の宿題として課されたレポートなどです。
調べ学習や課題研究などで、どんなことに生徒が取り組み、どんなことまで出来ているのかを知ることは、その先にある高校での「総合的な探究の時間」を設計するときの判断材料を得ることです。
問いの立て方や検証方法の立案など、高校の先生方の想像を超えるパフォーマンスを示す中学生だって少なくありません。
また、生徒が提出したものを小中学校の先生がどのように評価/採点しているかを知れば、指導の中で生徒に要求していることや、生徒側で認識している「充足すべき要件」がどんなものかも窺い知れます。

こうした課題類の指導には大きなエネルギーを要するだけに、しっかりとした実践の背景には指導にあたる先生方の強い思いがあります。
そうした小中学校の先生方の強い思い(生徒に身につけてもらいたい資質や姿勢、生徒に体験させたいこと)や、課題に取り組む中で生徒が獲得しているであろう学びの方策などを深く知る機会は、校種間の学びを有機的に接続する上で、欠かせないことの一つではないでしょうか。

❏ 成果発表会や作品展示を目にすることでも

小中学校で「特色ある教育活動」として力を入れている領域では、成果発表の機会が設けられているのが普通です。あらかじめ日程も決まっているので、訪れる側も都合をつけやすいはずです。
その日に都合がつかなかったとしても、プレゼンテーションで作ったパワーポイントや成果掲示は残っています。手の空いているときに見せてもらいに行くのは難しくありません。
ある私立の小学校で、パソコン教育で生徒が作り上げた作品を1年生から6年生まで並べて掲示されているのを見せていただいたことがありますが、驚くほどの出来栄えでした。
先生方の指導の賜物、あるいは生徒同士の相互啓発も働いているのか、学年を追って着実かつ大きな進歩が見て取れます。
これを見ずして高校の「情報」でシラバスを作ったところで、生徒の興味を刺激し、かつ日々進歩を実感させるような授業になるとは考えにくいな、というのがその時に感じた正直な感想です。
論文集などの形で活動の様子を生徒の言葉で残している場合は、それに目を通すことで、生徒一人ひとりがどのように思考のプロセスを辿ったのか、そこで生徒が何を感じてきたのかも窺い知れます。



定期考査にしろ、課題研究にしろ、学校ごと、先生ごとの違いもありますので、一つの事例に触れて一般化することはできません。機会を重ねて、いくつかの事例に触れる中で、多くの事例に共通するものと個々の事例での特徴的なものとが区別できるようになれば、自校の教育を設計するときに前提とすべきものが特定できるようになります。
その5(教科学習指導以外でも実現したい校種間連携)に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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