授業改善を目的として小中高の校種間連携で行う取り組みには、授業公開+研究協議という形以外にも、別校種に出向いての「出前授業」というのもあります。小学生や中学生に現在の勉強の先にあるものを体験させ、学びへの意欲を高めるというのが本来の目的ですが、普段と違う校種の生徒に教える苦労の中に多くの気づきがあるものです。
2014/05/16 公開の記事をアップデートしました。
❏ 出前授業を請け負うことでの様々なメリット
出前授業は、基本的には中学校からの求めに応じて行いますが、当然ながら「高校ではこんな勉強をするんだよ」というお話が主になります。
高校に進んでからの学びを知っておいてもらえれば、それに備えた学び方に意識を向けてもらえますので、将来、我が教え子となったときには一定の相互了解ができているとの期待もあります。
ましてや、「この先生に習いたい」と自校を志望してくれる生徒が出てきたら、教師冥利に尽きるというものではないでしょうか。
出前授業では、高校教員としての高い専門性や洗練された教科教養が期待されますので、準備にはいつも以上に力が入るでしょうし、教科内容を体系的に捉え直す機会にもなりそうです。
また、小中学生が前提として持っている知識には限りがあるので、高度なことをやさしく教える絶好のトレーニングになります。
当然ながら、生徒がどこまで知っているかを把握するために、準備の段階では小中学校の教科書にも目を通しますので、「生徒がそれまでの学習で経験した活動と取り組んできた課題」を知る好機となります。
一見、面倒に思える出前授業には様々なメリットがあり、それらが同時に得られる以上、トータルではむしろお得な取り組みと考えられるのではないでしょうか。
❏ 普段の前提が成り立たない場で得られる貴重な気づき
普段の授業で自校の生徒に教えているときは、無意識に前提にしていることが沢山あります。
前提には、この部分は改めて説明しなくても相手も分かっているはずという教科固有の知識や理解もあれば、こう指示すれば生徒は意図を理解した上でこう反応するといった期待もあるでしょう。
異校種の生徒(中学生や小学生)に、高校の内容を教えようとすると、こうした前提が成り立たないため、理解を形成する手順を丁寧に辿っていかざるを得ません。
しかしながら、そうした前提を共有できていない生徒は、出前授業に出向いた教室だけではなく、日頃の授業で教えている生徒の中にもいるかもしれません。
当然ながら、前提を共有できていない生徒は学びに何らかの支障を抱えているはずであり、前提の再共有が必要ということです。
出前授業という「非日常」を先生方が体験することで、日頃の指導で当たり前の前提としてきたことを客観的に捉え直せれば、より良い指導の実現に向けた改善点を見つける好機になるのではないでしょうか。
❏ 小中学生と比べることで気づく高校生のポテンシャル
小中学生に教えてみると、「高校生だからこそできること/期待して良いこと」 に改めて気づくことがあります。
自校の生徒なら容易に反応できること/こなせることなのに小中学生はうまく動けない場面を見て、「あっ、うちの生徒はこんな能力も身につけていたのか」と評価を改めることも少なくありません。
これとは逆に、小中学生が何の支障もなくできているのに、高校生がうまくできないことがあったとしたら、もともとできていたことなのに高校の授業で実践の場を与えなかったことなどで、せっかくの好ましい習慣や姿勢を失わせてしまった可能性もありますよね。
異校種の学校での出前授業は、自校の生徒のポテンシャルに改めて気づく貴重な機会です。
同じような気づきは、自分が担当しているクラスでの他教科の授業を参観しても得られることがありますが、当事者として教室に立ったときの方がより強烈なインパクトをもった気づきになるはずです。
小中学校の先生にとっても、普段教えている生徒の姿、高度な知識や専門的な考え方に触れたときの生徒の反応に驚かされることもあります。
実際、生徒が持つ能力や可能性を高く見直す好機になったというお声もよく耳にします。
高校の先生、小中学校の先生の双方がそれぞれの立場で生徒の可能性を新たに見つけることも出前授業の効能の一つではないでしょうか。
❏ 生徒に加え、異校種の先生方にメッセージを伝える
出前授業で生徒にする話には、「こういう勉強をして高校にきてね」 というメッセージも含まれることと思います。
生徒は、実際の教材を通じてひとつ先の学びに触れた後なので、メッセージを鮮明に受け取ることができ、学校説明会などで通り一遍の話を聞くよりはるかに具体的なイメージを持てるはずです。
同じメッセージは、教室の後方で授業を参観している小中学校の先生にも届きます。
大学入試の出題から適切な材料を持ってくれば、1つ先の学びが2つ先にどう繋がっていくのかも伝えられるのではないでしょうか。
小中学校の先生が大学受験の問題に触れる機会はそれほど多くありません。社会の要請を受けて、大学教育が変わり、その入り口で求められる学力が変わるからこそ大学入試問題も変容しているのです。
学びに求められる要素の変化を、普段と違う視点で知っていただく機会を小中学校の先生方に提供するという意味もありそうです。
その4(下級学校の取り組みと成果を知る、参観以外の方法)に続く
このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一