思考力と表現力を養うには

評価スキルの獲得とメタ認知の向上~思考・表現力を養う

高校教育でも、その先の大学教育や社会生活でも、思考、判断、表現の力が今後ますます重視されていくことには間違いなさそうです。思考力や表現力(加えて判断力)を効果的に鍛えるには、振り返りの正しい方法、言い換えれば評価スキルを身に付け、メタ認知を高めていくことが「前提要件」ということになります。これらは、「勉強を好きにさせる学ばせ方」にも通じるアプローチだと思います。 2018/02/19 公開のまとめ…

論述問題対策の前段階~要約の練習(後編)

答えが一つに決まらない問題や、多量の文章や資料を読ませて、そこで理解したことを元に思考させ、その結果を論述させる問題が増えてくる中、その前段階である要約についても、しっかりと力をつけさせておく必要があるのは、前稿で申し上げた通りです。要約力の向上には、先生方による添削も重要でしょうが、いつまでも隣にいてあげることもできません。生徒自らが、より良い要約にするには何が必要かを見つけ出せるようにしてあげ…

論述問題対策の前段階~要約の練習(前編)

新課程への移行で、思考力、表現力、判断力の重要性が高まりました。読んで理解したことを元に思考を展開し、その結果に他者の理解と共感を得られるよう適切な表現を与える力を育み、評価する手段として「論述問題」を課すシーンも、以前に増して多くなっているかと思います。読んだり話し合ったりして集めた様々な材料(情報、知識、気づき)を土台に、自分の考えを展開する前に、しっかり行わせたいのが、それらの材料を筋道を立…

教わって知ったことvs気づいてわかったこと

授業のスタイルは実に様々ですが、個々の授業を特徴づけるパラメータの一つに「問い掛けの多さ」があります。教わったことを一つひとつしっかりと覚える努力も大事ですが、学び手の側からすれば、自らの気づきがないものを覚えるだけでは面白みもなく、自分ごととして学びに向かう意欲も維持しにくいかと思います。調べさせたり、考えさせたりして、生徒が自ら気づいてわかったことをどれだけ多く出来るかが問われるところ。調べた…

発言がどこから生じているかを読み取らせる

文章を読み、あるいは発言を聞いて、言葉に表現されている内容を正しく理解することは大切であり、「読むこと」の第一の目的であることに異論を差し挟むつもりはありません。しかしながら、時には直接的に表現されていることの奥にあるもの、主張の根拠や、発言に込めた意図、筆者のバックグランドや根っこの思想まで推し量り、さらには「この場面ならこの人は何と言うか/どう主張するか」まで踏み込んで考えて読むことも必要では…

生徒の意見や所感をシェアする

対話を通じた深い学びを実現するには、ペアやグループでの生徒同士の話し合いに加えて、問答を通じた「先生との対話」や、教科書や資料、副教材を問いを立てながら自力で読んで理解する「テクストとの対話」の充実も図る必要があるのは、昨日の記事で書いた通りです。また、生徒同士の対話にしても、バリエーションは顔を突き合わせ直接的に交わす会話(話し合いや教え合い)だけではありません。先生と他の生徒の間で行われている…

生徒にも学ばせたいファシリテーション・グラフィック

先生方の板書などを通じて、生徒は情報を整理し、構造化する方法を学んでいます。(cf. 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得)結果として残った板書やプリント/スライドなどは、各単元に固有の知識をすっきりと提示し、生徒が覚える上での利便を図るものになっていると思いますが、それらが出来上がるまでの工程そのものにも生徒に学ばせたいことがあります。話し合いなどの場で、メンバーの発言(発想や意見)を拾い上げ、…

学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える

良問とは何かという問いには様々な答えがあろうかと思いますが、良問であるために外せない要件のひとつが「求められる学力を正しく点数に換算できること」であることに異論はないと思います。パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルに学力観の更新が進む中、従来なら「良問」とされていた問題も、今後は「測定すべき学力が点数に換算できない」ことを理由に「悪問」に分類されかねません。生徒は定期考査の出題内容に合わせ…

資料を与えて読ませる/探させる、そしてその先に

新課程の土台となった21世紀型能力では、その中核となる「思考力」を構成する要素に「問題解決・発見力・創造力」が挙げられています。cf. 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養思考力には、これ以外にも「論理的・批判的思考力」「メタ認知・適応型学習力」といった要素が含まれますが、それぞれに応じた「獲得のための学習活動」を適切に配置したカリキュラムが必要です。 カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計…

助言や指示は、生徒自身がじっくり振り返ってから

生徒に課題を与えて取り組ませ、上手くいかなかった場合に、的確な助言・アドバイスを行って、次のチャレンジで上手くいくように導くのは指導者の役割でしょうが、生徒が自ら「何をどうすべきか」を考え尽くす前に指導者が「先回り」してしまうと小さからぬ弊害が生じます。新課程の土台にある「21世紀型能力」では、その中核である「思考力」の構成要素のひとつに「メタ認知・適応型学習力」があります。メタ認知・適応的学習力…

プロセスに焦点を当てた問い

教室で発している問いのうち、「結果」を尋ねるものと、「過程(=プロセス)」を訊ねるものの割合はどのくらいでしょうか。新しい学力観の下では「答えを出すにはどのようにすればよいか、どう確かめるか」と解決へのアプローチそのものを尋ねる問いも増えて然るべきです。正解が何であるかを訊ねるときはもちろんですが、「~が~になるのはどうしてか」という理由を聞くときも、実は、思考の「結果」を引き出しているだけです。…

生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)

様々な答えやアプローチが予想される問題を扱うとき、生徒一人ひとりに個人ワークで取り組ませるだけでは、発想も広がらず、多様な考え方を踏まえた上での答えに辿り着くのは容易ではありません。生徒同士が互いの気づきを交換して、視野と発想を拡充する場として、協働や討論などの活動を授業に組み込むことが不可欠です。当然ながら、グループでの話し合いが盛り上がり、何となく答えらしきものが見えてきても、そこで学びを止め…

予想と違った結果が出てしまったとき~実験などの場面で

理科の授業では「実験」が欠かせませんが、そこで使用されているワークシートを見ると「うまくいったとき」「予想通りの結果が出たとき」だけを想定した書式になっていることが少なくないように思います。すべての実験が上手くいくとは限らず、ちょっとしたところで操作を誤っただけで、想定した結果にならないこともあれば、機器の扱いが拙いなどの理由で測定誤差が大きく出たりすることも少なくないはずです。こうした場面に遭遇…

判断力をどう考え、育て、評価するか

新課程が求める学力の3つの柱の2番目には「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」が挙げられていますが、この能力・資質の育成には各教科の学習指導でも常に十分に意識を向ける必要があります。育もうとする以上、それらが何を意味しているのか、校内で共通認識を作っておかなければ目標も明確に設定できず、指導の方向性が先生ごとにバラバラということに…

表現力を高める指導

表現力は、思考力・判断力とともに、学力の重要な部分を構成します。志望大学の入試に記述・論述問題が課されているかどうかに拘わらず、自分の考えに他者の理解と共感を得る必要は、日々の活動を送る中にも多々あります。合理的な思考がきちんとできていても、表現力の不足がボトルネックとなっては、持てるものを十分に発揮できません。各教科の学習指導のみならず、進路指導、探究活動、さらには学校行事や体験学習などあらゆる…

身の回りの問題を多角的に捉えさせる

身の回りに起きていることの中にも様々な問題があり、それらの多くは日々の授業や総合的な探究の時間の中に、学んだり、解決策を考えたりする機会を持ち得ると思います。各単元の学習の中で扱うことができるものもあれば、単元を跨いだ融合問題を設定することで学習機会が作れるものもありますし、他の教科と連携した合教科型学習、探究活動で扱うのが好適なものもあります。そうした問題について学んだり考えたりする中で、生徒は…

正解がひとつに決まらない問題

別稿で取り上げた「学習型問題」と並び、近年の入試で出題が見られるようになったものに「答えが一つに決まらない問題」があります。答えが一つに決まらないのと「答えが存在しない/解答不能」は全くの別物です。論理的に(=理屈で考えれば)成立する様々な答えがあり得る/一つに限られないというだけのことです。社会に出れば、こういったタイプの問題に多く遭遇しますので、様々な答え/アプローチを考え、それらが論理的に成…

学習型問題への対応力を養う

2020年の高大接続改革の前後から「学習型問題」をよく見かけるようになりました。教科書では扱われていない、つまり生徒がそれまで学んだことがない事柄についての説明や資料を読ませ、そこで得た理解を土台に問いに答えさせたり、意見を述べさせたりするものです。以前はごく一部の大学に出題が限られましたので、個別指導でも対応ができましたが、出題が一般化してくるとなると、授業のあり方や3年/6年を通した指導計画に…

問いのあり方に焦点を置いた授業研究

以前の記事で、教室でしかできない学びを充実させるべく、授業は問いを軸に設計するのが好適と申し上げましたが、これを裏返して考えるとターゲットに設定した問いによって、授業の質/生徒がそこで学べることが大きく変わってしまうということです。先生方が集まって「より良い授業」を目指した研究や研修を行うとき、教え方や学ばせ方に焦点を置くケースが多いように思いますが、学力観が大きく変化した今、問いのあり方をテーマ…

しっかり音読、問いを立てて理解の深化(英語の授業例)

ある学校を訪ねて参観した英語の授業では、教科書本文の音読を様々なバリエーションで徹底的に行った上で、生徒が3人1組になって本文の内容に関する「問い」をそれぞれ作っていました。A君の問いにはB君が、B君の問いにはC君がといった具合に互いに答えを作ります。音読を重ねる中で、英文の構造なども十分に把握し、内容を捉えていく様子が見て取れましたし、後半のQ&Aを作るパートでは辞書の活用や教え合いなどで不明を…