教材の難易度などの「学習者への負荷」を抑え過ぎると、生徒の能力を十分に引き出せず、成長にブレーキをかけてしまうことがあります。
別稿でも書いた通り、「できた気にさせてしまうリスク」もあり、楽々とクリアできる課題ばかりでは、もう一歩先を目指す上での課題を見つける機会を持てません。
目的意識(学ぶことへの自分の理由)をしっかり持ち、学習方策を獲得してきている生徒には、ちょっと頑張らなければ届かないところに課題をセットし、伸びるチャンスを逃さないようにさせてあげましょう。
❏ 目的意識×学習方策∽負荷耐性
一般的に、学習効果を最大化するのに適した負荷は、授業内容や課題の難易度を生徒に{難しすぎる~易しすぎる}の5択で尋ねたときに回答の分布が「ちょうどよい」と「やや難しい」で半々になる手前です。
上図の通り、学習効果「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感できる」の集計値はアーチを描き、如上の負荷水準でピークを迎えます。
しかしながら、難易度が同じ水準(階級内)でも箱の上端と下端の位置にはかなりの差が生じています。箱の上端を超えるクラスでは「負荷耐性」が高く、下端に届かないクラスは逆に低いということです。
負荷への耐性は、教室で教え合い・学び合いがどれだけ機能しているかに加え、個々の生徒が備える学習方策と目的意識でも決まります。
ご担当されているクラスが、相対的にどのくらいの負荷耐性を備えているかは、同じ質問文で生徒のアンケートを取り、集計結果を上のグラフに当てはめてみることで、ある程度の推定ができると思います。ちなみに、回答選択肢と得点への換算方法は以下の通りです。適正な負荷を掛けているかも点検できますので、時々は調査してみましょう。
❏ 難易度の調整を「教材の選択」だけに頼ると…
難易度の調整を図るときの基本的アプローチは、大半の生徒が苦も無くこなせるタスクは、教室で扱うものから生徒が個々に取り組むものに切り替え、浮いた時間で少し歯ごたえのある課題に挑ませることです。
生徒が個々に取り組むにはちょっと歯応えがありすぎるようなら、生徒同士の話し合いを挟むことで達成可能性を高めていきましょう。
ただし、クラス全体に与える課題を変更するのは、「ちょっと難しいもの」との想定だったのに、その「ちょっと」が思いのほか大きなものになり、「難しい」と答える生徒を急増させてしまうのもしばしばです。
クラス全員に挑ませる課題はいじらず、それをクリアできた生徒にに対して「追加の一問」を与えて挑ませるというやり方もお試しください。
❏ 全員に与える必達課題をクリアした生徒に追加の課題
追加といっても、まったく新しい問い/タスクを与えることばかりではないはずです。そこまでの思考をさらに深めさせる「問い」を重ねて、その答えを考えさせるのも好適です。
ひとつの答えが出ていても、もう一段深いところに理解すべき問題が隠れていることも少なくありません。先生ご自身の教材研究の深さが、こうした問いを作れるかどうかを分けるのだと思います。
既に学んだところに、新たな問いを立てさせてみたり、違う切り口からの問いを与えて、もう一度教材に向き合わせたりするのもできるはず。
題材(本文など)が同じでも、どこまで対話を深めるかで、難易度は変わります。「問いを重ねる=対話を深める=思考を掘り下げさせる」であり、その匙加減が求められるということです。
また、関連する資料を与えて、より広く学ぶチャンスを与えれば、「深さ」に加えて「広さ」も拡充できます。時には、資料を探してみるタスクを与えることで、情報を集めて知に編む訓練もさせましょう。
なお、追加の問い/タスクに自ら取り組んだ生徒には、きちんと評価/フィードバックを行い、「やらせっぱなし」にしないことも大切です。
❏ 難易度を抑えるときも、学習内容の出し入れに頼らない
前段までは、不足していた負荷を高めるときに取り得る方策についてでしたが、逆に負荷を抑えなければならない時もあります。
そうした必要が生じたときに、「本当は取り組ませたい課題」を引っ込めてしまうのでは、年度末/卒業までに身につけさせなければならない学力(知識・理解×能力・資質)を諦めることになりかねません。
変更すべきは、学習すべき内容/達成すべき課題ではなく、それらへの取り組ませ方だと思います。
ここでのアプローチは大きく分けて、
「集団知の活用」
「問いの分割(スモールステップ化)」
の2つです。当然ながら、両者を併用しても何ら問題ありません。
それまで個々に取り組ませて返り討ちに会う生徒が続出した課題でも、グループなどでの話し合いを挟むだけで達成可能性は高まります。
また、問いが大きすぎるなど、生徒が見通しを立てて解決までの工程を描き出せないときは、先生方が問いを分割して見せて、ワンステップずつ思考を重ねられるよう、手助けしてあげましょう。
分割したとはいえ、一つひとつの思考を生徒は経験しますので、そこで得たものは生徒の内に残るはずですし、問いを分割する方法を「見せて学ばせる」ことができますので、その力も育めます。
学習方策と目的意識が十分に高まっていれば、より大きな負荷にも耐えられるのは既に書いたことです。学習内容が難しくなる時期を見越し、そこで必要になる学習方策をきちんと獲得させておけば、その時期を迎えても、取り組ませるべき課題(絶対的な負荷)を変えることなく、生徒が感じ取る負荷を相対的に抑えることができるはずです。
不明は参照型教材を利用して自力で解消できるかどうか、わからないことはきちんと言語化して質問できるようになっているかどうかは、指導の中で先生方が生徒にそれを求めているかどうかで変わります。
- 参照型教材を徹底して使い倒す(全5編+1)
- 自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”
- 質問や相談が上手にできない生徒
- 質問に答えて不明を解消してあげる前にやるべきこと
- 難易度からの得意/苦手の意識が受ける影響
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一