教材づくりは、学習活動の配列を想定して

授業で用いる教材(プリントやワークシート、スライドなど)を作るとき、「わかりやすい」ものを目指すのは当然だと思いますが、それだけでは「学びに資する有益な教材」にはならないことがあります。
わかりやすさ(≒着実な理解の形成)は、掲載する内容の精選、関連性がつかみやすい配列・構成などで高められますが、授業/学習を通して獲得を図るべきは「知識・理解」だけではありません。効果的な伝達に偏ると、ほかの部分の学びを薄いものにするリスクを抱えます。
資料を読み、必要な情報を集めて知に編む(=読んで理解する)力や、対象を観察(本文を読むのもその一つ)し、そこに問いを立てる力、理解したこと、考えたことを整理・構造化する力などの育成も重要です。
自前の教材作りには、何を教える/伝えるかだけでなく、生徒にどんな学習活動を経験させ、どのような能力・資質を育むのか(=授業をどうデザインしていくのか)をしっかりとイメージして臨みましょう。

❏ 空所を埋めるときの生徒の行動(サブノートタイプ)

例えば、所謂「サブノートタイプ」のプリント。カッコや下線で空所を設け、用語や説明を補わせる、最も一般的な教材の形の一つでしょう。
このタイプは、覚えるべきことを焦点化し、抜け落ちなく記憶に刻ませる(=覚えさせる)には有利ですが、授業で使うとき、「埋める用語を先生が提示し、説明を聞かせるだけ」になってしまいがちです。
空所に何を補うか、先生が教えてくれるのを待つだけで、教科書や資料を自力で読みもしないのでは、「必要な情報を集めて知に編む力」は獲得できません。自力で学べるようになるのも大事な目標の一つです。
生徒の意識も、埋めた語句(示された答え)にばかり向いてしまうことが多く、文脈から離れた「知識の断片化」が進むリスクを抱えます。
こうした問題を回避するには、プリント作りと並行して、「どのように空所を生徒自身に埋めさせていくか」を考えておくべきです。
埋めるべき語句を先生が提示するのと、生徒自身が教科書を読んで探し出すのでは大違いです。「空所という形で問われたこと」への答えを、教科書の中に探す過程で、自ずと用語の前後にも目を通すことになるため、「文脈の中においた用語の理解」も一段と進みます。
その「準備」として、教科書の該当範囲を声に出して読む場面を前もって作っておくと、文脈理解と用語探しの効率が同時に上がります。まさに一石二鳥でしょう。(cf. 声に出して教科書を読むことの効能
こうした活動を重ねて、生徒が自力で空所を埋められるようになってきたら、次のフェイズに移行するタイミングです。授業の準備として必要な知識を整えるための「予習タスク」として、穴埋めを課しましょう。

最初の内は高いハードルかもしれませんが、生徒それぞれが埋めてきた語句をグループで突き合わせ、何をどう調べれば答えに行き着けたか、互いの工夫に学ばせていく中で、徐々にできるようになってきます。

❏ 問いで観察や思考の方向付け(ワークシートタイプ)

サブノートタイプより、生徒の活動(調べる、観察する、話し合う等)の拡張を想定した作りを備えるワークシートタイプも一般的です。
空欄を埋めていく過程で学習活動が生まれる仕掛けですが、必ずしも、読む/調べる、考える、話し合うといった学習活動の「方向付け」が、上手く機能しているケースばかりではなさそうです。
ワークシートに生徒が書き込んだものを見ると、授業者の意図や本時の主眼から外れたり、センテンス(思考が言語化されたもの)にならず、断片的な言葉が並んでいるだけになっていたりするのもしばしばです。
情報は拾えていても、それらを文脈の中に配置し、構造づけることができていない状態、つまり「理解としては不十分な状態」でしょう。
こうした「意図しない方向への学びの分散」を避け、「狙った学び」により近づけていくためには、記入欄に添える「指示」に、さらなる熟慮と工夫が必要ということです。例えば、
「地図を見て、気づいたことを書きだしてみよう」
という指示では、どこに意識を向ければ良いかわからず、思いついたことを断片的に書き出すだけになるのも、半ば当然かと。これに対し、
「破線で囲んだ範囲を中心に地図を読み、土地利用の特徴を三つ

 挙げなさい。そのうち一つを選び、地図から読み取れる情報を

 根拠に、なぜその特徴が生じたのかを推定して説明しなさい。」
というのであれば、どこに着目すべきかを考えながら地図を読み、その特徴を捉えるという「狙った学び」に近づけやすくなります。
但し、解答条件などで「どこに焦点を置いて考えるか」を誘導すれば、狙いから外れることは減らせますが、誘導が強すぎると、観察を通して問題を見つける力などを試しにくくなります。どこに主眼を置く学習活動か明確にした上で、指示の出し方を熟慮する必要があります。

❏ 活動を通して獲得させたものをどう確かめるか

学習活動に正しいフォーカスを持たせると、達成(指示で求めたものがどこまで充足できたか)検証もより正確に行えるようになり、その結果を踏まえた「学びの仕上げ」も確実に進めることが容易になります。
達成検証には、ワークシートに書き込んだものを評価する「基準」が必要です。「指導と評価の一体化」を効果的に進めるためにも、生徒のアウトプット(記入)をどう評価するかまで、想定しておきましょう。
また、学びはじめに作った答えは、その後の気づきなどを織り込み、バージョンアップするもの。最初の答えと仕上げたときの答えの差分に着目した、「その日の学びの成果」の測定もきちんと行うべきです。

また、サブノートタイプのプリントでも「初期の成果が達成できたか」の確認は欠かせません。空所をすべて埋めきったとしても、埋めた語句を正しく理解し、生きて働くものとして獲得したとは限りません。
獲得させた(はずの)知識・理解を用いて、答えを導き出すべき問いを用意し、生徒に思考をさせ、その結果と過程を言語化させることでしか理解を確認するすべがないのは別稿でも申し上げた通りです。
自前の教材(プリント等)を整えるときに、先生方が自らにしっかりと問うべきことの2つめは、「活動を通じて獲得させたものを、どのように確かめるか」です。言い換えれば、「どんな問いを用意し、どんな基準で採点・評価するか」の答えをきちんと用意するということ。
ちなみに問うべきことの1つめは、言うまでもなく、本稿冒頭の「どんな学習活動を経験させ、どのような能力・資質を育むのか」です。

❏ 学びに足りなかったところをどう補わせるか

学びの成果を確認する中で、不足していることの所在も明らかになります。それをどう補うかまで想定してこその「授業デザイン」でしょう。

知識の獲得、理解の形成に不足があれば、教科書や副教材に当たって、足りないものを生徒自らが補う(読む、調べる)のが先決。
それでも残った疑問は、周りと話し合って解消するのが好適。生徒同士で答え合わせをさせるのは、教え合いを働かせるためでもあります。
サブノートタイプの「求答式」よりも、解答の幅が大きくなるワークシートタイプでは、不足に気づくのに「模範解答」を提示して、それとの異同に着目させるだけでは不十分でしょう。
生徒それぞれが作った答えをシェアして、それらを比較(必要なら検討も)させる中で、彼我の違いから自分の答案に不足しているもの、より良い答案にするのに必要なことを気づかせていきたいところです。
先生が用意した模範解答の斜め上をいく答案だってあるはずです。
こうして得た不足への気づきを携え、知識を広げ、思考を深めながら、自分の答えをブラッシュアップしていく中に学びの深まりがあるはずです。(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる



教材を作るときに「それを使って教えておしまい」(後は生徒が覚えるだけ)ではなく、どう学ばせ、どう確認し、どう仕上げさせるか、生徒による学習活動の配列をきちんと想定しておくことが何より肝要。
必要なのは「教えるための教材」から「学ばせる教材」への発想転換。
学び終えたあとにも、生徒が個々に(能力に応じて)取り組める課題もあるはず。どれだけ手札を持てるかは、先生方の力量の一部です。

また、自前の教材(プリント)で「生徒の学びを方向付ける」だけでなく、生徒自身に問いを立てさせ、それに沿った学びを進めさせることにもチャレンジしたいもの。自分事としての学びが実現します。

こうしたタスクを組み込むにも、プリント/ワークシートに指示とともに欄を設けるのが好適。生徒は配布されたものを見て、これからの学びに見通しを立て、自ら準備を進めたりできるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一