学ぶことへの自分の理由(後編)

当ブログでは「学ぶことへの自分の理由」という表現をあちこちで使っていますが、「自分」の反対は言うまでもなく「他人」です。
先生方が入念に起こした学習指導計画も、生徒にしてみれば他人が考えるところに基づくもの。いわば「他人の理由」で作られたものであり、そこに「学ぶことへの自分の理由」を持てるとは限りません。
内発的な動機(知りたい、解明したい、できるようになりたいといった欲求=自分の理由)から生まれた学びには、取り組み方でも、そこから得られる成果でも、及ばないところが生じて半ば当然かと思います。
新課程への移行でクローズアップされている「主体的に学ぶ姿勢」を育むにも、「学ぶことへの自分の理由」を生徒一人ひとりに持たせられるかどうかで行方が左右されるはずです。

2017/05/25 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 自分の中に芽生えた疑問、答えを導きたい問い

何かの問いを目の前にして、知らないことの存在に気づき、その不明を解消したい/もっと深く知りたいという欲求を抱くことが最も原初的で誰もが見出し得る「学ぶことへの自分の理由」ではないでしょうか。
隠されているものは覗きたくなるのは人の常(?)。問いを投げかけ、隠されているもの(=まだ知らないこと)の存在を意識させることが、生徒を学びに向かわせます。
何の問いも与えず/生徒に問いを立てさせることもなしに、体系立ててわかりやすく説明を重ねるだけでは、生徒の中に「解消したい疑問」は生じません。
これから学ぶことを使って解くべき問いを示して、その場で答えを考えさせてみることが、効果的な導入になるのはこのためです。「なんだろう、どうしてだろう、どうなるんだろう」と感じてこそ、その後の説明にも耳を傾けようとしますし、自分で調べる姿勢も生まれます。

まずは、その日の授業や単元を学び終えたときに生徒が答えを作る、本時の学びを俯瞰し得るターゲット設問をしっかりと用意しましょう。

❏ 疑問の解消、課題の解決を重ねて生まれる進路希望

自分の中に生まれた疑問を解消できた、目の前の問いに会心の答えを導くことができた、という快体験を積み重ねていけば、やがてはその科目への興味や自己効力感に転じていきます。
そうした興味が一定程度積みあがってきたら、教科書からちょっと飛び出して、調べ学習、課題研究、探究活動と展開していくチャンスです。
興味に任せてあれこれ調べてみれば、そこには思いもよらぬ新しい興味とも出会うはずです。こうした「偶然との出会い」を重ねる中で、やがては、「大学で学んでみたいこと」の発見にも繋がり、進路希望が具体的な形と内容を伴うようになります。

拙稿「カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ」で申し上げた通り、頑張らせるために目標を作らせるという戦略は「目標が決まらない限り、頑張りは引き出せない」という矛盾を内包するだけでなく、避けさせたい「とりあえずの選択」を助長するリスクも招きます。

❏ 自分の理由を持たせないと、手放すこともできない

自分の理由を持たない学びは、誰かに与えられたものをこなす勉強ですから、先生からの指示など、「やらなければならない理由」がなくなった途端に、学びを続ける理由はなくなります。
この状態で勉強させるには、いつまでたっても指示を出し続け、履行を管理していかなければなりません。
卒業させるまでは、手をかけ続けることはできるでしょうが、その後で困ることになるのは生徒自身ではないでしょうか。
自ら学び続けられる生徒を育てるためにも、最初はしっかりガイドを行い、少しずつ手を放していく(ただし、目は離さない)という「学び方における守破離」を教える側がしっかり意識することが大事です。

❏ 学ぶ理由を持ったときに学びに取り掛かれる準備も

自らの進路探究に踏み込む入り口になり得る興味を見つけ、いざ何かを調べようとしたとき、文献に当たり自分で読んで理解できるようにしておかないと、生徒はここではじき返されます。
せっかく「学ぶことへの自分の理由」を見つけたのに、それを満たす方策を身につけていないのでは、不明を解消したい/興味を掘り下げたいという欲求は満たされることがありません。
欲求は満たしてこそ大きくなるもの(「持てば持つほど欲しくなる」のは世の常?)です。満たされなければ膨らむこともなく、やがて意識の中から消えて行きます。むしろフラストレーションの種になるかも。
疑問を持ってもそれを解明するだけの方策を獲得させておくことは、生徒が「学ぶことへの自分の理由」を見つけたときに、それを膨らませていけるようにすることにほかなりません。
教室でできる最小限の備えは、日頃から「教科書をきちんと読ませる」ことと、「参照型教材を徹底して使い倒す」習慣を持たせることの2つだと思います。
プリントを使って効率よく説明を理解させるだけでは、必要な情報をピックアップして編む工程を先生が肩代わりしてしまうことになります。テクストやデータを生徒が自力で読んで理解する力、不明を解消する方法と姿勢を獲得する機会を生徒から奪わないようにしたいものです。
教科固有の知識・技能を学ぶ中で獲得する様々な能力やスキルというものもあります。学び方の獲得も重要な目標であることを大前提として、授業をデザインしていきたいものです。

❏ 生徒が自ら不明や興味を見つけ出す力=問いを立てる力

問いは先生方が用意するだけでなく、生徒自身にも学んでいることの中に問いを立てられるように導いていきましょう。
身の回りのことや、資料やデータを通して知ったことの中に問いを立てることは自分事としての興味や関心を見つけることにほかなりません。
21世紀型能力の中核をなす「思考力」では、問題解決力と並んで「問題発見」の力も構成要素の一つですし、周囲や社会に解決すべき問題を見つけることは、「社会参画力」や「持続可能な未来への責任」といった「実践力」にも繋がります。
新たに学ぶ/学んだことの中に、調べてみる/考えてみるべきことを見つける力は、生徒に問いを立てさせることの繰り返しで身につきます。
導入フェイズでの活動にするほか、単元内容をひと通り学び終えたところで、さらに学びを深め、広げるために質問を引き出すのも有効です。



新しい科目や単元をこれから学ばせようとするときには、生徒がそこでの学びを自分事として認識できる効果的な仕掛けが必要です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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