生徒にもやるべきことが山ほどあります。日々の勉強に加え、部活動や生徒会活動、家事や家業にアルバイトなど、タスクの多様さは社会人を上回るかもしれません。時間を効率的に使い、手持ちの時間の中にやるべきことをきちんと配列できるようになってもらいたいところです。
多彩なタスクの中で、生徒が自分を成長させ、未来を拓く力を身につけていくのに必要なことを後回しにさせないよう、しっかりとタスク管理とスケジューリングの姿勢と方法を学ばせていきましょう。
確かな学力は、生徒一人ひとりが自らの未来を拓くための鍵。多忙などに紛れ、日々の勉強を後回しにさせては未来への扉も開きません。
2015/12/02 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 課題量の適切なコントロールが計画的学習を可能に
生徒には、自律的に、できれば計画的に日々の学びに取り組んでもらいたいところですが、授業を受けていると、ルーティン化された予・復習以外にも、それぞれの先生が「思い思い」に宿題を課してきますから、生徒には日々「予期せぬタスク」が生じていることになります。
日々の授業の予復習については、その内容や取り組み方が概ね決まっていて、分量もきちんとコントロールされていれば、一週間の生活サイクルの中で、生徒が学習計画に落とし込むのはさほど難しくないはず。
平常授業期間中には、週末課題や小テストといった授業付随のタスクもありますが、これらも計画に組み込むのは比較的容易と思われます。
しかしながら、実験レポートが宿題になったり、授業中に扱った問題の仕上げが翌日までに課されたりと、ちょっとヘビーな宿題が加わるのもよくあること。生徒が立てた学習計画が崩れるリスクが高まります。
こうした状況の発生を防ぐには、指導計画を作るときに、生徒側でのタスク量をきちんと把握して、コントロールしていくことが大切です。
当然ながら、タスク量の把握は「教科を跨いで行う」必要があります。ボリュームのあるものを課すことが予想される場面では、事前に他教科の先生方とも情報を共有し、すり合わせておくべきだと思います。
- 教科間で行う、課題量の把握と調整(全3編)
❏ 個人差を考慮して、タスクは必達+任意の2段構え
よく見かける指導に、「平日は一日当たり〇時間以上」といった具合に学習時間に関する目標を示しているケースをよく見かけますが、投じる時間を目標値とするなら、課題の総量をそれに見合ったものにきちんとコントロールする必要があるはずです。
とは言え、課題を処理するスピードは生徒ごとに差があり、一律の課題付与で「すべての生徒に適正な時間を学習に投じさせる」のは論理的に不可能。やりきれない生徒と余力を余す生徒が出てきます。
基本的な考え方としては、処理速度が最も遅いグループを想定し、目標時間を大きく超えずにこなせる量を必須の課題として与えた上で、余力のある生徒が取り組むプラスアルファの課題を用意するのが好適です。
別稿で申し上げた、「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計が必要である理由はここにもあるとお考え下さい。
❏ 必須のタスクをこなした先の主体的学び
先生方から与えられる課題の量がきちんとコントロールされているのであれば、生徒はそれぞれ、所与の課題をこなすのに全部でどのくらいの時間がかかるのか、見込みを立てることができます。
この見込み所要時間を、自分の持ち時間(自習室にいる時間、寝る前や起きた後に机に向かう時間)の中に割り振ることが、授業外学習の計画を立てることにほかなりません。
だらだらやったら2時間かかることでも、やり方を工夫したり、集中力を高めて取り組んだりすれば、1時間半で済むかもしれず、浮いた時間は自分の好きなことに使えるはず。学習時間ではなく、こなすタスク量を目標にすれば、工夫と集中へのインセンティブにもなると思います。
ここで言う「自分の好きなこと」がスマホゲームやSNSではなく、総合的な探究の時間などで取り組んでいる課題研究だったり、志望校合格を目指した勉強だったりすれば、言うことなしですよね。
先生方が、日々の授業で、探究から進路へのきっかけを作るプラスα の一問をきちんと用意して、そうした問いに自分の答えを作ってみることが「好きなこと」の一つにラインナップされるよう仕掛けましょう。
❏ タスクをリストアップ、タイムテーブルに落とし込み
先生方の十分な計画性と配慮によって、タスクの質と量をコントロールできていることを前提に、最初に生徒に求めるのは、取り組まなければならないタスクを手持ちの時間の中にどう配列するか考えることです。
登校から下校まで常に手帳を持たせておき、やるべきことが生じる(=与えられる、見つける)たびにその場でメモすることを習慣化させたいところ。その上で、家に帰ったら机の前で5分間、手帳を見て今日のうちにやるべきことを改めてリストアップさせてみましょう。
風呂に入ったり、食卓についたりする前に、この5分で「寝るまでに何をどう片付けていくか」を考える(見通しを立てる)ようにさせるだけでも、持ち時間の使い方はずいぶん違ったものになると思います。
少々ヘビーなタスクでその日のうちに片づけるのが難しいものは、どのくらい時間がかかるか想定して、どう進めるか予定を立て、カレンダーに計画を書き込ませるようにしましょう。単に「To Do リスト」に列挙しただけでは、結局、先送りにされることも多いはずです。
❏ 自分の中で浮かんだ疑問なども「管理すべきタスク」
タスクとして管理すべきは「与えられたもの」 だけではありません。
授業を受けていて浮かんだ疑問や解消の必要を感じた不明なども、後回しにする中で記憶から消えてしまえば、学びの起点になり得ません。
手帳(スマホのメモ機能でも良いですが)の使い方に習熟させて、こうした疑問や不明、自ら得た気づきをしっかり記録し、自分に対する宿題として管理する方法を身につけさせたいところです。
意識から消えなければ、少しずつでも考えは積み上げられていくもの。日々の経験と学びの中で、それらを結び付ける最後のピースに出会ったときに、自分が考えていることが形を得て現れることもあります。
総合的な探究の時間での学びなど、中長期に亘って生徒が自律的に取り組むべきタスクが増えています。大きな作業にあてる時間をカレンダーの中にドカッと配すると、他の活動にも影響は必至。
工程を分けて、少しずつタスクを進め、その中で瞬間ごとの気づきや思考をどれだけ積み上げられるかが、円滑な学びの進捗に欠かせません。
❏ 自発的な学習を計画する好機は長期休業期間
平常授業期は、先生から与えられるタスクをこなすだけで、生徒の手持ち時間はほぼ一杯になるはず。生徒が自分で設定した課題に取り組もうとするなら、長期休業期間は数少ない貴重なチャンスです。
長期休業期間まで宿題や補習をギュウギュウに用意して、こなすだけの学習姿勢を沁み込ませてしまうのは、好ましいこととは思えません。
日々の授業で感じた興味や疑問に改めてじっくりと向き合うのも良し、やりかけのまま放置していたものを仕上げていくのも良し。「自分への宿題」ともいうべきタスクに取り組む余裕を与えることも大事です。
以下の各稿でも触れたことですが、生徒自身に自分の学びをデザインさせ、その姿勢と方策を学ばせていきましょう。できないまま卒業させてしまったら、先生方のように面倒を見てくれる方が周囲にいなくなったときに、途方に暮れるのは生徒自身にほかなりません。
たとえば、模試の結果を正しく振り返ることにしても、受験科目すべてを対象とするなら、ある程度のまとまった時間が必要です。期末試験後の授業のない期間のタスクにすれば、そこで設定した「自分の課題」に夏休みを使って取り組むこともできるはず。
そうした、タスクのピックアップから、計画づくりを経て、実行していく経験は、そこで必要なスキルと姿勢を獲得させるための大切な学びの機会になるはずです。当然ながら、計画の期間を過ぎたら、自分の立てた計画や取り組みを振り返り、その改善を図らせるべきです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一