授業で使った教材・課題や考査問題の引き継ぎ

新年度の引き継ぎに際し、これまでの指導で使用した教材や課題、考査問題などを必要に応じて次年度以降も利用や参照ができるように整えて残しておくことはとても重要です。日々の指導の中で積み上げてきた工夫には成果と反省の両方があり、それらを踏まえた上で「その先」を考えることが、継続的な指導の改善に繋がるからです。

2019/03/18 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 効果的な設問や課題を継承してブラッシュアップ

授業デザインはどのような問いをターゲットに設定するかで決まりますので、生徒の興味を刺激し、思考を促すことに成功した「設問」や「課題」は、翌年以降の指導にもしっかり活用したいものです。

先生が変わるごとに、それぞれが新たに考案したものを使うだけでは、試行錯誤の繰り返しに生徒を巻き込みかねません。
納得いく教材を自作できたという充足感も大事ですが、どれだけ生徒を成長させられたかという実利こそ、優先すべきものだと思います。
前年度の指導で効果的であった設問や課題をベースに、年度を跨いだ先生方の協働でさらにブラッシュアップをかけていきましょう。
また、それらがなぜ効果を得たのか理由を考えてみて、その仮説に基づいて新たな問いや課題を考案すれば、材料のないところでゼロから作り出すよりも、成功率は各段に高まるはずです。
設問や課題そのもののブラッシュアップに加えて、生徒に課す事前学習や授業内での活動、答えの仕上げとその共有など、設問・課題の「使い方」においても更なる工夫の余地があるかもしれません。

❏ 使った結果を添えて、検索と再加工が容易な形で

こうしたことの積み重ねが、継続的(加えて組織的)な授業改善をより確かなものにしますが、そのためには、

  1. 設問と課題が、検索や再加工が容易なデジタルデータで、誰もがアクセスできる場所に保管されていること。
  2. 実際に使ったときの正答率、頻出した誤答、生徒の優れた答案例などが添えられていること。
  3. 指導に使ってみたときの工夫や反省点、より良い活用のためのヒントなどを伝えていること。

などに留意した引き継ぎが必要だと思います。
プリントを印刷したときの文書ファイルを、単元名や教材タイプなどの情報をタグ付けして(あるいは文書内やファイル名に添えて)サーバーに保存することで1の条件はある程度まで満たされます。
サーバー内を文字列検索すれば、単元名や重要語句で該当する設問・課題を探しやすくなりますし、「目録」を別の電子ファイルで作り、文書ファイルのパスでリンクを設けておけば、もっと便利です。
文書内の末尾などに指導に使ってみたときの所見や記録などを追記しておけばば、2や 3の要件も満たせるはずです。
教材の電子化とサーバーの整備も進んできていると思いますが、まだなら取り敢えず本年度は、出力紙のファイリングとメモの付与までという見切りも致し方ないところですが、見送るという選択はないはずです。

❏ 考査問題と設問別正答率で、生徒の状態を伝える

定期考査でどのような問題を課し、どのくらいの正答率であったか、どのような誤答が発生していたかは、既習内容の定着度や学力の傾向を伝える貴重な材料の一つです。

定期考査問題をきちんと見れば、そのクラスを担当した先生方がどのような指導をしていたか(=生徒がどのような学びに取り組んでいたか)が、かなりの精度で推測できます。
先生方の頭の中には、固有の学力観/指導観があり、それに基づき授業が設計され、考査問題が作られます。如上の推測が可能なのは、両者が同じところから生まれた「双子」のようなものだからです。
年度替わりに異動などで担当者が変わるときには、模試の成績データに加えて、前年度の定期考査問題一式にそれぞれの採点結果、点数一覧くらいは、引き継ぎ資料として調えておくべきです。
考査問題そのものも継続的に改善を進めていくべきであり、過年度の優れた問題やその背景にある発想にはどんどん学んで行きましょう。

特に、新課程への移行を機に、問題作りにも新たな発想が要求されたはずです。個々の先生の発想と工夫をきちんと共有し、それを土台にしてより良いものを目指す協働は、変革期にこそ重要です。

❏ 1年後の引き継ぎに備えて、記録と保存のルールを

ただでさえ多忙な年度末にあって、ここで書いたことを進捗度ゼロからすべて満たすのは無理だと思いますが、少なくとも1年後に再び「今年も無理だね」とはならないようにしたいもの。
年間を通して「年度末の引き継ぎ」を念頭に置いて、場面ごとの作業を重ねていく必要があります。本稿をお読みになり、一部でも得心のいく箇所があれば、1年後を目指して新年度のルールを作りましょう。
授業内外で課した課題や、授業中に用いて手応えを感じた問いなどは、意識してレコードに残さないと、どんどん散逸/埋没して行きます。
生徒にも、学習活動における様々なログをポートフォリオに残させ、振り返りを通してより大きな成長を促していますが、同じことが先生方の教育活動にも言えるのではないでしょうか。
授業改善は個々の先生の責任において進めるべきものだと思いますが、協働で取り組み、互いの成果を共有/継承するところにこそ大きな進歩が期待できるはずです。
ご自身で教材を新たに作ることはとても楽しいことだと思いますが、先人(前任者)の成果と反省の上に立つことで、より遠くに歩を進めることができますし、何よりも試行錯誤に生徒を巻き込むリスクはできるだけ避けるべきだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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