進路指導計画の体系化とスリム化

進路指導計画に組み込まれたイベントは「体験の機会」「選択の機会」の2つに大別できます。進路講演や大学訪問などが前者の代表格、出願指導や履修科目選択が後者の代表でしょう。これらがしっかり体系化され、スリムな状態に保たれているかは定期的な点検が必要です。
長年にわたる試行錯誤で「増改築」を繰り返した結果、進路指導計画が複雑で過密なものになっているケースも少なくありません。生徒も先生も十分な準備ができずに指導機会に臨んでいるようでは、せっかくの指導も所期の成果を得られないもの。後になってやり直しの必要が増えては、計画全体でのコストが膨らむばかりです。

2018/01/26 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 過密スケジュールが招くコスト増と形骸化

進路意識を形成し、進路希望を実現する工程は、体験で膨らませた知識や気づきを携えて選択を重ねることで構成されますが、一つひとつの機会が十分な成果を得ないことには、せっかくの設計も所期の性能を発揮してくれません。
個々の指導機会が十分な成果を得なければ、当然ながら次のステップに進む前に(あるいは進んでから後戻りして)やり直しや補完が必要になるため、新たなコストが発生します。
コスト増も、多忙な学校生活/校務で教育リソースが枯渇しがちな中で避けたいところですが、体験からの学びを再構成できないうちに次に控える選択の機会に臨ませては、後述の「取り敢えずの選択」を助長してしまい、その後の選択が出口を失うことにもなりかねません。
こうした「悪循環」を断ち切るためにも、進路指導計画の中で体験の機会と選択の機会が体系的に関連付けられているか、不要なパーツをそぎ落としたスリムな構造になっているか常に点検する必要があります。

❏ 取り敢えずの選択が先の可能性を狭める

十分な準備なしにその場しのぎに行った「取り敢えずの選択」が、後々になって生徒の可能性を狭めてしまうリスクは避けたいところです。
選択の機会に十分な準備をして臨めなければ、当然ながら判断に必要な情報が不足し、正しい選択が行えないリスクが高まります。自ら選択した結果に向き合う覚悟も決まらないのではないでしょうか。
場所を移すと別の光景が見えるものですが、間違った位置に動いてしまえば、本来見渡すべきだった景色に出会えなくなってしまいます。
袋小路に入り込んだことに気付いて道を引き返し、改めて別の道を辿り直すのが楽しい体験になるのは、余裕のあるときの散歩だけです。

❏ 体験の場、選択の場に臨む準備とは

以前の記事で書いた「先に控える選択の機会をいつ認識させるか」は、その準備をいつから始めさせるかということにほかなりません。
ここで言う「準備」とは、選択に必要な情報をしっかり集めることだけではありません。選ぼうとしている道に自分がどれだけの価値を見出せるか、選択の先にあるリスク(不確定要素)への覚悟があるか、しっかりと自分に向き合うことも含むはずです。
選択の機会に臨ませようとするときには、

  • ここでの選択がその先にどう影響するかを正しく理解する
  • 必要な情報をあらゆる手段を講じて集める
  • 集めた情報を理解し、吟味できるだけの知識を備える
  • 多様な意見に触れて独善や思い込みから離れる
  • 選択の結果に向き合えるかきちんと自分に問う

といった要件を満たしているか、先生が注意深く観察すると同時に、生徒にもしっかりと自己点検させましょう。
自分では大丈夫と思っている生徒でも、多くの生徒の選択を見守ってきた先生方の目には不足が映ることも多々あるはずです。生徒の自己認識と先生の見立てとのギャップを埋める面談などでの対話は、生徒が自分の状態を正しく、客観的に理解する力を育む機会でもあります。

進路希望調査で志望学部や大学名を挙げさせるときにだって十分な準備が必要です。指導者側は「単に、現在の状況を把握するため」と考えていたとしても、生徒の側では「文字や言葉にする」ことを機に意識を固定してしまい、その後の検討や選択の範囲を狭めることもあり得ます。
よく考えてもいなかったのに、言葉にしたことであたかも自分のうちにもとからあったかのように錯覚しては、自己暗示で道を誤ります。
体験の場に臨むにしても、きちんと準備させて問題意識と認知の網を整えさせないと得られるものが小さくなってしまうのは、別稿「進路講演などに向けた事前指導」でも書いた通りです。

❏ 体系化してみてスリム化のポイントを探す

指導計画をスリム化するには、一つひとつの指導機会が全体計画の中でどんな位置づけにあるか判断し、体系づけて捉え直す必要があります。
個々の指導機会は、それぞれが独立して機能するものではありません。
3ヵ年/6ヵ年で重ねていく大小さまざまな選択の機会を軸に、他の指導機会がそれぞれどのような役割を担うのか、来年度の年間指導計画を立てるときには、冷静に見直してみるべきだと思います。
きちんと調べ直してみたら、「以前からの慣習」で存在しているだけで目的や効果がはっきりしないもの、指導計画全体の中でポジションが不明確なもの(行事)が含まれているかもしれません。
次の体験や選択に不可欠なものが漏れてしまっては指導目標を達成できませんが、ある指導機会で体験させたことが後の選択に活きていない/それほど必要とされてこなかったようなら、思い切って計画から外してしまうことで、重要な指導機会にリソースを集中できるはずです。
こうした取捨選択/再構成の議論の経緯や結果は、計画立案に当たる分掌や学年の先生が理解し、認識しているだけでは不十分です。校内向けの広報をきちんと行い、目線合わせができてこその指導計画です。
多忙な日々を考えると、新年度を迎えるまでそれほど時間の余裕はないはずです。この機にこれまでの年間指導計画を眺め直して、指導機会の一つひとつについてその目的を確認しましょう。



進路指導に限ったことではありませんが、指導計画の体系化とスリム化は、先生方と生徒の多忙解消にも欠かせないことだと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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進路希望の具体化と実現へExcerpt: 1 選択の機会ひとつひとつに備えさせる1.1 大きな分岐(選択の機会)を前に整えるべき指導機会 1.2 先に控える選択の機会をいつ認識させるか 2 進路希望の実現をあきらめさせない2.1 どこまで伸びるか見立てる 2.2 第一志望をあきらめさせない指導 2.3 生徒が互いの頑張りを支え合う集団作り 3 早すぎる選択は視野と可能性を狭める3.0 進路を意識させるタイミング(序) 3.1 進路を意識させるタイミング(その1) 3.2 進路を意識させるタイミング(その2) 4...
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