模試の結果を正しく振り返る(学習行動の改善)

以前の記事「模試や考査の事後学習~間違え直しだけでは不十分」でも書きましたが、模試や考査の結果を戻すとき、所謂「間違い直し」に取り組ませるだけでは不十分。学習行動の十分な改善は期待できません。
テストの結果を通じて振り返るべきは「これまでの自分の勉強への取り組み方や学習方法」であり、振り返りを行う目的は「より良いパフォーマンスを得るにはどのように行動すれば良いか」という自分の課題を見つけること。ひいてはその繰り返しの中で、自律的に自らの学習行動を改められるよう、メタ認知・適応的学習力を育むことにあります。
当然ながら、第三要素「学びに向かう力・人間性」もきちんと評価を行い、その指導が十分に効果を得ているか検証を重ねる必要があります。

2019/10/29 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 間違えた問題をやり直す/間違い直しだけでは…

模擬試験を終えると、生徒には「『解答と解説』を読んでしっかり復習しておきなさい」と指示をすることが多いと思いますが、実際に生徒が何をやっているかというと間違い直しだけだったりします。
先生からは「間違えた問題をやり直しなさい」という指示しか出ていなかったとしたら、『解答と解説』から正解を書き写すだけで、やり切った気になっている生徒がいたとしても無理からぬところでしょう。
もちろん、欠けていた知識や理解は補っておくべきですが、これだけでは「絆創膏を貼った」だけ。転んだ原因は解消には繋がりません。
転ばないようにする方法(何をどう学ぶか)や、転んだ時の立ち上がり方(不正解や成績不振にどう向き合い、行動するか)を考えさせ、学ばせることを優先すべきです。(cf. 失敗から正しく学べているか

❏ なぜ解けなかったのか、何をすべきであったのか

模試の問題に正解できなかったのは、必要な知識や理解、思考力や表現力を獲得していなかったからですが、それら獲得を妨げた「これまでの学び方」にこそ、修正すべき点があるはずです。
ここに成績が伸びない根っこの理由がある以上、いくら間違い直しに励んでも学び方が改まらなければ同じことの繰り返しになりかねません。
観点別学習評価の第3対象である「学びに向かう姿勢」は、「粘り強く取り組む姿勢」と「自らの学びを調整しようとする姿勢」の2つで構成されますが、後者がまさにここで問われているものでしょう。
必要な知識を備えていたとしても、題意を正しく理解し、解法を考え出す力がなければ、初見の問題に正解を導くことはできません。
その力は習ったことを覚えるだけでは身につかず、予習を含めてどこまで自力で思考を重ねようとしていたかで結果に違いが生じたはずです。
すでに授業で習ったことなのに思い出せなかったのなら、覚えるべきものをきちんと覚えられるだけの反復(=再記銘)の機会を確保した復習のサイクル形成も必要でしょう。

そもそも、日々の時間の使い方に戦略性を欠き、タスクマネジメントがきちんとできていないことにも原因があるはずです。
こうした平日・休日の時間の使い方を工夫したり予習・復習のやり方を改めたりといった、学習行動の改善こそが同じ轍を踏まないために必要なことであり、模試の振り返りの目的はここにもあるはずです。

❏ 正しい振り返りができるまで継続的に指導を重ねる

模試の結果に向き合いこれまでの自分の学習生活を振り返る場を持たせると言っても、振り返りそのものがメタ認知を用いた高度な知的作業であるため、単にやらせるだけでは着実な進歩は望めません。
たまたま好適な方法に行き当たり自分のものにできる幸運な(?)生徒ばかりではないはず。振り返りの着眼点を示した上で、実際にやらせながら生徒自身に工夫を重ねさせる継続的な指導が必要です。

このような指導の場をホームルームの中に設けるにしろ、各教科の授業時間内に設けるにしろ、いずれにしても「模試の振り返りでは何をさせるべきか」を学年や時期に応じて段階的に見極める必要があります。
模擬試験の結果や、別の機会に行った家庭学習の質と量(方法と時間)の調査で得られたデータなどを突き合わせて分析してみれば、生徒の学習行動上の課題には時期ごとの特徴が見て取れると思います。
こうしたデータで得られた知見を十分に活用した指導と、経験則と直観に頼った指導とでは、3年/6年の積み上げに大きな差が生じます。

❏ 的確な振り返り/内省に導くためのアンケート

模試の振り返りを指導する場面での基本方針(こだわり)の打ち出しやそこで使用する資材(ワークシートなど)の用意は、模試の実施計画を作る分掌(多くの場合、進路指導部だと思います)の重要な仕事です。
3ヵ年/6ヵ年を通して模擬試験の実施計画を作る際に、それぞれの模試を受験するのを機に、生徒に学習者としてどんな成長を遂げて欲しいかをイメージするようにしましょう。
学習者としての成長を段階的にイメージしておけば、模試の振り返りを行うときの観点も、学年や時期に応じたものが設定できるはずです。
学習機会としての模擬試験に、こう取り組んでもらいたい、こういうことに気づいて欲しいといった期待を、「生徒が主語にしたセンテンス」に書き出してしまえば、評価規準も出来上がります。
そのセンテンスにYES~NOとその中間段階でいくつか回答選択肢を与えれば、ワークシートに組み込むアンケートにも転用できます。
アンケートには「問うことで気づかせる」という機能がありますので、生徒は質問文を読み、それに答えようとする中で、我が身を振り返り貴重な気づきを得ることもありそうです。

❏ 振り返りそのものを「やりっぱなし」にしない

振り返りの結果は次の模試に向けての学習計画に反映させることになりますが、計画だけ立てて実行しない、ちゃんと実行できたか点検しないというのでは、餅を絵に描かせているだけです。
模試の振り返りに際しては、以下の点検を求めていきましょう。

  • 前回の模試の後で自分が立てた計画をきちんと完遂できたか
  • 立てた計画そのものに改めるべき点(無理や不合理)がなかったか

次のチャレンジ機会では、自分で立てた作戦が「妥当だったのか」「実行できたのか」を点検させる必要があります。別稿でも書きましたが、考え出した「仮説」は、実際に試してきちんと「検証」させましょう。立てた作戦が間違っていたら、いくら粘ったところで次の機会での成功には近づけません。他方、作戦が正しくても、きちんと実行しなかったら、それはまさに「絵にかいた餅」。腹の足しにはもなりません。(振り返りのためのアウトプット

この点検を繰り返す中で、より合理的な計画作りができるようにもなれば、その実行に必要な自己管理能力(=主体的に学ぶ姿勢の一部)の獲得への意識も高まることが期待されます。
振り返りの結果はポートフォリオに残すこともあれば、別稿でご紹介した進路の資料やワークシートを綴じ込む進路ファイルに残させることもあるでしょう。
学習行動が顕著に改善した生徒のリフレクション・ログには、他の生徒にもシェアしたい好適な記述があるかもしれません。学年通信などで紹介して相互啓発に役立てることもご検討ください。先生の指導よりも生徒同士の啓発の方が、良い気づきをもたらすことも少なくありません。
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ちなみに、次の模試に向けての学習計画では、安易に新しいものに飛びつくことは控えさせたいところ。生徒には「やりきらずに放置してきたことを仕上げさせる」ことこそ、優先すべきだと考えます。
既に十分な教材(主副)を与えている以上、仕上げておくべきなのに放置してきたものを完遂するという「当たり前」さえきちんと行えば、新たに問題集や参考書を買い込んで手を付ける必要はないはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一