定期考査の失敗を繰り返させない~リベンジ自習会

そろそろ中間考査の時期です。新学期を迎えてからここまでに生徒が学習の正しい方法と習慣を身につけることができたか、この機にしっかり確認しましょう。特に1年生は、生活環境も学習内容も大きく変化した中で、学びのスタイルを上手くアジャストできたかが試されます。
年度が替わって初めての定期考査にきちんと結果を出せた生徒はひとまずこれまでのやり方で構わないと思いますが、成績下位に止まった生徒や前年度に比べて不振が窺える生徒がいたら、ここで巻き返しを図らせる必要があるはずです。
成績不振は、学びのスタイル(方法と習慣)を改めなければ、次回も繰り返す公算が高いはず。積極的な働きかけなしに期末テストで同じ失敗を繰り返し、そのまま夏休みを迎えさせないようにしたいところです。

2018/09/13 公開の記事をアップデートしました。

❏ 答案返却時に間違い直しだけを求めたところで…

考査の答案を返却したとき、間違い直しを徹底させて既習事項の定着を図ることは大切ですが、それだけでは満たされないものがあります。

間違えた個所を直させて「後始末」をつけさせることよりも、日々の授業の予習や復習を生活サイクルの中にきちんと組み入れさせることや、非効率的な学び方を改めさせることにこそ、注力すべきです。
次の考査でも生徒が同じ失敗(準備不足による成績不振)を繰り返すようなら、先生方のご指導は、生徒に学びの方策やタスク管理のスキルを身につけさせることができなかったということになるはずです。
別稿「勉強を好きにさせる学ばせ方」でご紹介した通り、「テストで間違えた問題をやり直す」という【調整方略】は、十分な習慣化が伴わなければ、学びに対する姿勢や意識を好転させる効果はありません。
先生に言われたから仕方なくやるという状態で「間違い直し」に臨ませても、学びへの姿勢に好ましい変化は期待できないと考えましょう。

❏ 成績不振の生徒を対象にした教え直し(補習)も…

成績下位者を集めて補習を行うのも「間違い直し」のタスクを課すのと大差ありません。ペナルティ色が強く出て、「勉強はやらされるもの」という認識を強めるだけの結果も予想されます。
呼び出されたから仕方なく参加しているという「主体性とはかけ離れた姿勢」では、補習が終わって解放されればそれで終わり、ということも少なくないはずです。
そもそも、一度教えて定着しなかったことを、もう一度同じように教えたところで、ドラスティックな進歩が期待できるとは思えません。
成績不振の根本的な原因は、今期の学習の前提になった既習内容の理解や定着の不足か、学習の方法や習慣の未確立のいずれかであるはず。
前者であれば、今回の定期考査の範囲を学習させる前に立ち戻らなければならない箇所があったはずです。新単元に入る前に、既習内容の定着確認と、必要な生徒への事前補習を行うべきだったかもしれません。
後者なら、内容を理解させるのとは別の所に問題解消の鍵があります。
いずれの場合も、成績不振者を集めた、事後補習(教え直し)は、処方として合理性を欠いている可能性が高そうです。

❏ 代案は、次の考査でのリベンジを目指した自主勉強会

ある学校では、いわゆる補習の代わりに「次の考査でのリベンジを目指した、生徒による自主勉強会」を開催していました。
お話を伺ったところ、考査で失敗した生徒が多少なりとも抱えている反省や後ろめたさのようなものを、自習の場を用意することで次の考査に向けた具体的な行動に転じさせようとのお考えで始めた試みとのこと。
先生が教え直すでもなく、新たな課題を与えるわけでもありませんが、回を重ねるごとに成績不審者の数が減っていることから、一定の成果は出ているように見受けられます。
前回の定期考査での成績不振のツケを返すべく間違い直しや補習参加で過剰な時間を取られては、明日の授業の予習や今日の授業の復習が後回しになり、次の考査ではまた失敗する可能性が膨らむばかりです。
一方、教科書、ノート、副教材しか持ち込めず、他には何もできない環境に置かれ、授業の予習・復習などに取り組めば、それまで学習の方法や習慣を確立できずにいた生徒も、自分なりのスタイルを作り出していけるのではないでしょうか。
周囲の生徒が頑張っている姿も刺激になりますので、自宅の勉強部屋よりは集中も持続するでしょうし、わからないところはお互いに教え合うこともできますので、躓いて立ち止まる時間も少なくなるはずです。
こうした環境の中で過ごす中、以前なら「わかんねぇ、まあいいか」と諦めていたようなことがクリアできるようになっている自分に気づくことで、さらに頑張る気持ちも生まれてくるのだと思います。

❏ 指示を出さずにやるべきことを考えさせる

自主勉強会を効果的に機能させるポイントは、「勉強以外にできることがない」という環境に生徒をおきつつ、何をすべきか具体的な指示をできる限りしないという「先生方の我慢」にあります。
前回の定期考査の反省から、生徒は何が足りなかったかおぼろげながらイメージしているでしょうが、そこから具体的に何をどう進めれば良いかを考えられるかどうかが分岐点。21世紀型能力の「思考力」の一部である「メタ認知・適応的学習能力」を獲得させることが肝要です。
不用意に教えることが学ぶ力の伸びをスポイルするのと同様に、指示を出すことが行動を考え、選択する力を伸ばす機を奪うことがあります。
今日の授業で指示された復習や課題、明日の授業に備えた準備、週末課題や定期的に行われる単語テストなど、日々の学習の中には、次の定期考査に直結するタスクがいくらでもあるはず。それらをリストアップして、持ち時間の中に効率よく並べるところから求めていきましょう。
何をすべきか迷っている生徒も、暫く放置しておけば、他の生徒のやり方を真似たり、周りの生徒と相談したりと、自分で知恵を使い始めるもの。内容にわからないことがあれば自分から質問すれば良いだけの話。どうすれば必要な知識や情報に行き当たれるかを考えるのも勉強です。

そもそも、定期考査で成績が振るわなかった生徒の多くは「やるべきことをやらずに放置してきた」はず。新たな指示を出す必要はなく、何を放置してきたか、生徒自身が気づくことこそが大事だと思います。

❏ 自主勉強会の意義に対する校内の理解形成

自主勉強会は時間帯の上で、たいていは部活動ともバッティングしますが、如上の取り組みを行った学校では、部活動の顧問の先生方を含めて学校全体で、「学力は生徒一人ひとりが自らの未来を拓く鍵」であるとのコンセンサスが形成されており、特に問題は起きなかったそうです。
生徒にしても、自主勉強会への参加を通して身につけた授業の予習・復習の効率的なやり方を駆使して、上手に時間をやりくりするようにさえすれば、大手を振って部活動に参加できるメリットを得ます。
部活動も周囲の友達との交流も、趣味に没頭する時間も大切ですが、タスク管理のスキルを身につけていかないと、多忙のたびに何かを諦め、切り捨てることしかできません。多忙な時期こそ、こうしたスキルを獲得する練習の好機と考えるべきではないでしょうか。
部活動の延長上に「職業」がイメージできるようなエリートアスリートであっても、「学ぶ力」やタスク管理のスキルは、競技生活を終えた後の人生を考えるまでもなく、欠かせないものだと思います。
別のある学校では、次の考査期間の直前に、部活が休みになっても切り替えが上手にできず、考査準備に集中できない生徒へのサポートの一環として、部活動顧問が監督する自主勉強会を開催したところ、上々の効果が認められ、その後、定期的な取り組みに「進化」したそうです。
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本年度に限っては、緊急事態宣言を受けての分散登校などの影響で中間考査を行わないことにした学校も少なからず見受けられます。
定期考査の結果を材料に生徒の学習状況を把握できない分、日々の授業での観察、提出物や課題の点検、学習時間調査などを代替手段として、生徒一人ひとりの学びの様子をしっかり把握する必要があります。
生徒の立場でも、そこまでの学びを復習する好機(=考査)が失われたことの補完を必要とします。単元テストを行ったり、章末課題にじっくり取り組ませたりすることで、学びを仕上げ、成果を確認するための、定期考査の代わりとなる機会をしっかりと作ってあげましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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