個人で取り組ませる活動、教室外に設ける活動
授業内外に配列する学習活動には様々なものがありますが、いくつかの分類軸を設けてみると整理がつきやすく、すべての活動について配列上の考慮を十分に巡らせているかの点検に抜け落ちを減らせます。
ひとつめは「個人で行うか、ペアやグループで行うか」での分類です。
個々に行う活動というと、練習や問題演習がすぐに思い浮かびますが、教科書や資料を読むことにも、基礎力(言語、数量、情報の各スキル)を高めたり、文字を介して先人と対話するという狙いがあります。
集団での活動では、意見を出し、考えを伝える「発信」も重要ですが、ほかの生徒の言葉に耳を傾ける中にも、大切な狙いがあるはずです。
もうひとつは、「教室の中で行うか、教室を離れて行うか」です。
前者はイメージもしやすく、授業案を考えるときに先生方の視点から外れることはあまりないと思いますが、後者への効果的な取り組ませ方にも同等の意識を向けているか、常に振り返ってみる必要があります。
教室外の活動でもICTを活用すれば、対話的な学びも実現可能(別稿参照)ですが、まずは日々の授業とセットになった予習、復習、宿題でしょう。家庭学習にも望ましい取り組み方をさせるには、その準備や土台作りの指導にも十分な思慮が欠かせないはずです。
2015/07/07 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 個人で練習や演習に取り組ませるとき
授業内で、練習や演習に取り組ませる場面は多々あります。知識の定着や技能の習熟には欠かせませんが、準備を整えてから取り組ませないと不明や戸惑いに阻まれて立ち止まっているだけの生徒が出てきます。
課題に挑ませる前には、そこまでの理解をきちんと担保するようにしましょう。例題を解説して概念などを理解させたつもりで類題に挑ませても、例題の解説に不明が残っていたら生徒はその先に進めません。
類題の解き方を考え、隣の生徒に説明させてみるといった小さな活動を挟めば、その様子を観察することで、理解の不備や誤解の存在に気づいてあげることができます。同時に教え合いもできますので、生徒同士で誤解や不明の解消を図ることもできるでしょう。
説明を黙って聞かせ、そのまま黙って解かせるというのでは、助けを求めるチャンスもありません。机間指導中に生徒の質問に答えるにしても一人に対応していたらあとの39人は順番待ちです。
また、練習や演習を終えるのを待たずに、途中まで進んだ段階では、それぞれの生徒がそこまでに得た成果をシェアすることも大切です。他の生徒の着眼点や考え方に触れることでの気づきは、学びをより深くしますし、仕上げに向かうにもより良いアウトプットをイメージできます。
なお、練習や演習は、教室内での貴重な授業時間をわざわざ割いてその場でやらせる必要が本当にあるのか、冷静に見極めたいところです。
生徒が個人の学習活動(≒家庭学習)でできることと、教室での対面学習で行うべきところの線引きをはっきりさせることは、教室でしかできない学びを充実させるためにも不可欠です。
事前に準備と土台を整えさえすれば、反復をメインとする練習などは、個々の生徒が自分のペースで行った方が効率に勝るかもしれません。
❏ 他の生徒の成果に触れるときには質問を考えさせる
生徒が個人/グループで取り組んできたことの成果を発表することもまた、重要な「活動」の一つですが、この場面で発表者だけが真剣に取り組み、聞いている側は(大人しく耳を傾けているでしょうが)目的意識をもった積極的な取り組みになっていないことも少なくありません。
聴く側での参画を促すべく、評価シートなどを配って書き込ませているケースでも、書き出したものには「深い学び」が実現しているようには見えないものが多かったりします。
発表を見せる/聞かせる場面では、聞く側には建設的な「質問」を積極的に発するように求めたいところです。
質問を考えるということは、与えられた情報(=ここでは「発表」の内容)に対して問いを立てることにほかなりません。
発言内容に対して「どうしてそう言えるのか」「こういう反論にはどうこたえるのか」などを考えることは、発表されている内容に対して深い考察を与えることですし、そうして生まれた質問は、発表者に戻され、その思考を磨き、深め、広げる働きを持つはずです。
発表の機会というと、ついつい発表者側のプレゼンテーションの内容やスキルにばかり目が行きますが、聞く側の学びや活動にもしっかり目を向けて、どのような活動/学びの場にするかを考える必要があります。
❏ 相互評価や自己評価を通して図るメタ認知の向上
せっかく相互評価を行わせても、互いに気を使ったり、空気を読んだりしてか、シビアなものはなかなか出てきません。
それでは発表者も育ちませんし、自分が発表する場に回る時に何に留意すべきかの視点も得られないのではないでしょうか。
相互評価/自己評価は「大切な学びの手段」です。活動の配列を考えるときには、先生がどのように評価をするかに加えて、生徒にどのように評価者としてふるまわせるかも考えましょう。
評価者としての視点とスキルを獲得させることは、メタ認知を高めることにほかならず、自律的な学習者に向かわせるうえでも不可欠です。
❏ 予習・復習、宿題に正しく取り組ませる
授業外の時間に取り組ませる「活動」には、予習や復習、宿題といったものがありますが、これらに取り組ませるにも、きちんと活動に取り組めるだけの準備と土台を整えさせておかないと、やらない生徒、手を抜く生徒、間違ったやり方で成果を結ばない生徒が出てきます。
予習を課すなら、生徒を予習ができる状態にしてから教室を離れさせることが必要です。少なくとも以下の3つは徹底を図りましょう。
- 前提となる知識や理解の有無を授業を終える前に確かめる
- 予習する内容に対してウォーミングアップで問題意識を持たせる
- わからないことがあったときの参照箇所を確認させておく
2. では、前の授業を終えるときに、次の授業で学ぶテーマについて、ミニディスカッションをしておくのも好適かと思います。3. では、予習のシミュレーションを授業内でやらせてみても面白いかも。
どのクラスでも説明しなければならないようなことは、解説動画に仕立てておき、予習で勉強させておくことだってできるかもしれません。
加えて、予習などを経て、答えを仕上げてくるべき課題をセットしておくことも忘れないようにしましょう。「教科書の〇ページまで読んで、わからないことは調べておくこと」という指示では、わからないところを見つけることすら容易ではないはずです。
ちなみに、新型コロナの感染拡大に伴う一斉休校の間、「課題を出したけど履行率はいまいち」「学習内容の理解や定着が進まなかった」という記憶(cf. 休校が続いて、何をやればいいのかわからない?)は、何年も経過した今でも、鮮明に残っているかと思います。
リモートでの指導がとん挫した(=教室を離れた学習活動を狙い通りに作れなかった)原因の一つは、如上の「指示の出し方」にあったように思います。既に昔の話ですが、今も活きる教訓ではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一