活動を配列するときに考えるべきこと(その2)

チェックポイントを意識した練習や作業

授業中に配列する活動は、くれぐれも自己目的化させないようにしたいもの。漫然と活動したところで成果は大きくならず、目的を達成できたとの実感を得なければ次へのモチベーションも生まれません。
活動の一つひとつに目的意識を持ち込ませるというのは、「できるようになること/気を付けるべきこと(チェックポイント)」をあらかじめ生徒にしっかりと認識させることにほかなりません。
チェックポイントを認識させるタイミングには、これから練習や制作などの活動に取り組もうとする段階(導入フェイズ)、仕上げに向かおうとする段階、さらには学びを振り返る段階の3つがあると思います。
また、チェックポイントを先生が示して認識させているだけでは、生徒は自力でそれらを見つける/作り出す方法や姿勢を獲得する機会を持てません。学習者としての自立を促すにも、何を目指すか/何に気をつけるかを生徒自身が探し、見つけ出す練習の場を設けることが大切です。

2015/06/24 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 練習を始める前にモデルをしっかり観察

例えば、英語で本文の音読をさせる練習も「活動」の一つです。音読を重ねることで、内容の理解も進むでしょうし、個々の言語材料の知識も定着が進みますから、練習を経て正しく音読できるようになったことを以て、学習が一定の成果を得たと評することもできると思います。
しかしながら、教室で音読練習の場を拝見していると、ただ読んでいるだけ、特に一斉読みでは口が何となく動いているだけというのも少なくないように感じます。
これでは、貴重な時間を割いて音読の練習に取り組ませても、費用(=時間)対効果という点で、最適化された活動とは言えない気がします。
音読練習の導入にはCD音源などを使ってモデルを提示するのが一般的ですが、この場面でしっかりモデルを観察させているかどうかが、その後の練習の成果を分けているように思えてなりません。
CDや先生のお手本を聞かせながら、音韻上の特徴を観察させ、気づいたところを本文に書き込むというタスクを課すだけでも、「気を付けるべきところ」への生徒の認識はぐんと高まるはずです。
練習を始める前の段階で「モデル」をしっかり観察させ、どこにポイントがあるのか/何に気を付けて練習すべきなのか、生徒自身が気づいて認識するように、相応のタスクを導入フェイズに置くことは如上の英語の音読に限らず、実技要素を含むすべての学習の場面で効果的です。

❏ 実際の練習に移行する前/練習の途中で

導入フェイズでの観察を通して、留意点/ポイントを見つけ出したら、いよいよ練習に進むことになりますが、ここでもうひとつ手順を挟んでおくと練習の効果はより大きなものになりそうです。
観察を通した気づきには、生徒の間で大なり小なりの違いがあります。一般に、得意な生徒は観察を幅広く深くできる傾向にありますが、苦手な生徒は同じ観察をしても有効な気づきを中々得られないものです。
このまま練習に進ませては、得意な生徒はさらに伸びる一方、苦手な生徒はピントのずれた練習でちっとも成果が出ず、おいて行かれるばかりという状況だって予想されます。
モデルを観察して個々の生徒が気づいたところを、互いにシェアさせておくことが、こうした問題をある程度まで解消してくれるはずです。
タイミングとしては、導入フェイズでの観察の直後も結構ですが、少し練習が進んで、さらに気づきが膨らんできたところ、「練習の途中」で行うのも好適です。(cf. 途中でも、その時点で成果を共有

❏ 気づきをシェアするためには、まず言語化

シェアするには、まずは言語化が必要です。感覚だけで捉えていては伝えられるものは限定的です。メモでかまいませんから、気づいたところをチェックリストのような形で書き出させておくようにしましょう。
書き出したものは、生徒を指名して発言させてもよいし、生徒同士で集まって互いに見せ合う形にしても良いと思います。そこで得られた気づき(シェアしたもの)を、自分が起こしたリストに加筆させましょう。
生徒を指名して発言させることでシェアを図るなら、事前に机間指導で生徒の手元をのぞき込んでおき「ほかの生徒にも有益」なことを書いている生徒を探し出しておきたいところ。変なことを書いている生徒に発言させても、教室が笑いに包まれるくらいで、学びにはなりません。

発言に代えて「見せ合う」という方法を採ることにも意図があります。
口頭だけでシェアしようとすると、「書き出す=明確な言語化」という段階を十分に踏まないだけに、「腰はこう、後はバーっと振れば良いんだよ」と昔の某監督(野生の直観型?)のようなことにもなりかねず、聞いている側は「??」です。

❏ 仕上げの前にチェックリストに照らした課題形成

導入フェイズでのモデルの観察から、気づきの言語化とシェアを経て、目的意識をもった練習に取り組ませたら、いよいよ仕上げの段階です。
ここでも、再びチェックリストに立ち戻り、仕上げに際して気を付けるべきところ、実現しなければならないことを改めて認識させておくようにしたいところです。
活動が「学び」という成果を結ぶには、きちんと仕上げに取り組ませることが重要であるのは言うまでもありませんが、目的意識をしっかりと持たせておかないと、仕上げもいい加減になり、学びは中途半端なものになってしまいます。

仕上げを終えたら、今度は「振り返り」で成果のたな卸しと次に向けた課題形成を行わせることになりますが、練習前/中にチェックリストを作ってきていますので、振り返りの観点も具体的になっているはず。
リフレクション・ログを読んで、「頑張った」「うまくいかなかった」といった感想レベルのものが多いようなら、目標を予め認識させる働きかけが足りなかったはず。これではログを起こす時間も無駄かも…。

学びの工程の終端に設定されている「振り返り」までしっかり見通して授業をデザインしましょう。活動の配列を考えるときには、どうやって目的意識を作り、課題を具体的に認識させるかを同時に考える必要があるということです。



本稿で取り上げた、チェックリストを利用した活動への目的意識を高める指導には、様々な場面への応用も可能だと思います。
イシューを扱うディスカッションの場なら、別の題材で行われた「優れた議論」と「拙い議論」を動画などで見せて、なぜ一方の議論が他方より「まとも」「好ましい」と感じたかを考えさせておければ、「主張には根拠を添える」「反論を予想しておく」といった押さえるべきところ/ポイントにも生徒自身で気づけるかもしれません。
先生に言われて気を付けるのと、自分たちで気づいて気を付けようと思ったのとでは、「主体性」にも大きな違いが生じるように思います。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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