活動の成果を可視化する(英語の音読を例に)

学習成果のうち、獲得した知識の量や解けるようになった問題の範囲などは、テストで点数に変換される「目に見える学力」です。否が応でも定期考査のたびに、成果を実感したり結果を突き付けられたりします。成績が伸びればモチベーションにもつながります。
これに対して音読の練習などは、もちろんテストで成果を測ることもできますが、実施・採点の手間も小さくないこともあって、客観的に効果を測定するのはそれほど頻繁にではないようです。

❏ 成果を実感できないことがモチベーションを下げる

また、音読テストを行ったとしても、生徒の側で採点基準(=目指すべき状態)がはっきり捉えられていないケースが多いようです。
万が一、生徒の認識が「大きな声を出して、つっかえることなく読めたかどうか」という段階にとどまっては、目的を持った正しい練習にはつながりません。
音読テストが行われた直後の教室で、「きちんと音読できるってどういうこと?」と生徒に訊いてみると「外人っぽく?」という珍答も聞こえてきたりします。
達成感はモチベーションの原資です。努力して規準をクリアできた、部分的にではあっても昨日よりたくさんのポイントを満たせたという実感が大切ではないでしょうか。
練習を通じて「昨日まで出来なかったことが今日はできるようになった」と認識できることが、次に向けた意欲を引き出します。
授業のたびにかなりの時間を音読練習に割いて繰り返す中、成果が実感できなかったり、成果そのものがなかったりしたら…。意欲が喚起されないまま、言われて仕方なく行う作業になってしまいかねません。
レシテーション・コンテストなどは成果を発表し、強い充足感を得る好機ではありますが、日常ではありません。日々の授業の中でも達成を可視化できる仕組みを取り入れたいものです。

❏ そもそも音読練習の目的は?

英語や国語では、授業中に時間を設けて音読の練習をします。言うまでもなく、目的とするのは、元気に声を出すことだけではありません。
音読練習の目的には、以下のような要素も含まれます。

  • 発音の正確性や流暢さを高めること
  • 声に出して読むことで教材中の言語材料の理解を定着させること
  • 音韻上の特徴を理解/実践することで、聞き取りの力を高めること

万が一、教える側が目的を曖昧にしか把握していなかったら、その次には進めません。目的があるからこそ、本時で達成する個別の目標が設定でき、その目標に照らして評価基準が作られるはずです。
教える側の認識が「元気に声を出す」に止まっていたら、その先のこと(目標の設定、規準の提示)は成立しないことになり、当然ながら、生徒は自身の取り組み(練習)についてその成果を検証できません。

❏ 練習に明確な目的意識を持ち込むことが好循環を作る

このように考えてくると、音読練習という「活動」に積極的に取り組ませるための必須要件は、教える側での目的意識ということになることはご理解いただけるはずです。
短いパッセージでも着目すべき音韻上のポイントはたくさん。最初から一度に書き出して生徒にその充足を求めても、達成可能性は上がりません。むしろできないことの多さに気づかせるのが関の山です。
様々なポイントの中から本時の主眼を選び出し、その部分に焦点化することが大切です。そこで達成を検証させることが、次の意欲に繋がり、真面目に練習することでまた成果を得る。そんな好循環をいかに早く作れるかが、指導の成否を分けるとお考え下さい。
音読練習に明確な目的意識を持ち込ませる指導の例は、活動を配列するときに考えるべきこと(その2)でご紹介した内容もご参照ください。


❏ 実際の指導の場を拝見して

ある学校をお訪ねして授業を参観したときのことですが、前回の授業で扱った本文を対象にディクテーションのテストを課しているクラスがありました。テストの前に、全体読み→ペア読みと復習を兼ねた練習をしてから、用紙が配られ書き取りのテストが行われます。
この練習のときと、授業後半で次のセクションの導入で音読するときの様子を比べてみると、生徒の音読には確実な違いがあります。テストに備えて幾度も読んだり書いたりしながら復習したことで、英文の構造や意味をしっかりと理解したことが確かな音読に繋がっているように見受けられました。
その差は、おそらく生徒も実感できているはずです。だからこそ、音読練習にも身を入れて頑張り、それが次の成果をもたらすという好循環が築かれていたように思われます。
高校1年生のうちに、きちんと声を出して読めるようにしておくことは、学年が進んでから黙読に転じて読解速度を上げるときにも重要な意味を持ちます。
黙読は、頭の中で音声化して読み進むこと。実際に声を出して読めない限り、黙読はうまく機能しません。学年が上がって入試対策を念頭に置けば、1時間あたりの読解語数もおのずと増えます。この段階に至ってなお、音読練習に多くの時間を割くことは授業設計上、大きな制約となりかねません。如上の指導意図には大いに倣うべきものを感じました。

 教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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