あらゆる指導機会は、時期や段階ごとに目指すべき「到達状態」に生徒を導くために設けられるものである以上、年間行事予定に記載されるすべての行事は、学校の教育目標と「生活」「学習」「進路」の三領域のいずれかで関連付けられていなければなりません。
これを着実に実現するには、本稿でご紹介するような前工程をしっかりと踏んでおく必要があると考えます。
2014/07/28 公開の記事を再アップデートしました。
❏ まずは、個々の行事が目指しているものを明らかに
生徒は多様な体験を重ねる中で、能力や資質を育み、知見を広げていきますが、教育リソースには限りがありますので何でもかんでも体験の場を設けるという戦略はどこかで破たんします。「目標との結びつきの強さ」を基準に、行事に優先順位をつけた取捨選択も必要になります。
学校全体での教育目標やグランドデザインとの関係性が不明瞭なまま、前例踏襲だけで続けられている行事や指導機会はないでしょうか。
一つひとつの行事/教育機会について、どのような到達状態に生徒を導く(=どのような評価規準を満たす)ためのものなのか、きちんと確認をしておかないと、貴重な教育リソースを無駄遣いしてしまうかも。
無駄と断じることができる行事はそれほどないはずですが、点検を始めてみたら、長期間、意味合いが省みられることなく、いつのまにかその目的があいまいになっているものも意外なほどに出てくるものです。
❏ 年間行事予定を立案するときの土台
時期ごとの目標到達状態というのは、3ヵ年、あるいは6ヶ年を見越して、段階的に生徒を導いていくときの「指標」です。その達成を確かめるためのモノサシとして用いられるのが、評価基準です。
もし、観点別の段階的評価規準が、整合性のあるものになって全体像を構成し、きちんと機能していなければ、一つひとつの指導が、場当たり的、形式的に配置されている可能性があります。
以下のようなフォーマット(マトリクス)を用意し、生活・学習・進路の3領域に分けて、各時期(学年・学期)に目指している「到達状態」を、生徒を主語にしたセンテンスに書き出してみましょう。
校内ですでに共通理解が確立していれば、簡単に埋まっていくでしょうが、実際に作業をしてもらうと、必ずしもそうとは限らないようです。
❏ 到達状態を段階性・整合性をもって配列する
例えば「学習」の領域では、1年の1学期前半を高校で求められる学習方法へのスムーズな切り替えを図る時期と位置付けることも多いかと。
中間テストを終えたところで、高校生としての学習方策が身についているかを評価し、不足があれば学期の後半での指導で、補完を図ることになるはずです。
となれば、それぞれの欄には、「各科目で課された予習・復習を正しく履行できる」「規則的・自律的な学習生活のスタイルを確立する」などの文言が入ってくることになります。
そのための指導の機会として、入学直後のオリエンテーションがあったり、中間テストの振り返りや学習生活記録の点検、それらの結果に基づく面談指導などが配置されているはずです。
ちなみに、ここで登場したオリエンテーションや面談も、その場の優先課題や目標(=目指すべき到達状態)に照らして、時期、内容、方法などが妥当なものであったか常に点検が必要です。
教育資源には限りがありますので、「これまでもやってきたから」という理由だけでは存在を正当化できません。目的をはっきりしたうえで、投資に見合った効果が得られているかシビアに検証することが、生徒の成長にも、先生方の働き方にも大切だと思います。
❏ 成否判断できるセンテンスで評価規準を書き出す
目指すべき到達状態、すなわち目標を記述するときの原則は、「生徒を主語に」「センテンスの形で」の2つです。
卒業までに獲得させたい資質や能力、姿勢を、具体的な生徒の行動として書き出しておき、ゴールから逆算してその前の各段階でどんな状態に到達しておくべきか考えていくというのが基本的な進め方です。
ゴールでの到達状態は、学校案内やホームページで表明した教育目標や理念とするところと一致しなければなりませんが、先生方が観察を重ねてきた記憶を持ち寄れば、それらを具現した生徒の好ましい行動が思い出されるはずです。それを一般化してセンテンスに起こしましょう。
先生方が集まってワイワイと、記憶の中にある「好ましい行動や変化」を付箋に書き出して、ホワイトボードに並べていくのも結構楽しいかもしれません。
付箋を並べて構造化してみると、一本の直線状ではなく、途中で分岐したり、合流したりすることもあるでしょう。どこでも交じり合うことなく並行している「流れ」があれば、それは独立した観点として扱うべきものと判断できます。
こうした作業を重ねて行けば、いずれ「ルーブリック」の形に調うはずですし、自校の生徒の実態に即した「現実的な」ものに仕上がっていきそうです。(cf. 学習者としての成長を促す”活動評価”と”振り返り”)
❏ 学習領域の目標は、結果(可視)学力だけではない
年間行事予定の中には、学習習慣や正しい学習方策の獲得を目的としたものも含まれるかと思います。学習法ガイダンスや学習時間調査、あるいは考査や模試の振り返りなどがこれらに相当します。
これらを通じて、生徒が自分の取り組みと成果を振り返る中で、より良いパフォーマンスを得るための行動を考え出す[メタ認知・適応的学習力]の獲得を図っていくことが、生徒を自立した学習者に導きます。
学習領域に関わる指導における目指すべき到達状態の書き出しには、以下のような観点を携えて臨むべきであろうと思います。
- 予習や復習の方法、不明点の解消方法、メモの取り方、ノートの作り方などの「学習方策」
- 議論への参加の仕方、情報収集や整理の技能、論証の組み立て方などの「知の技法」
- 表現への意欲、学習に対する目的の持ち方、選択した結果に関わる姿勢、といった「学ぶ姿勢」
如上のマトリクスにおける「学習」の欄には、このような様々な観点/サブ領域の記述が含まれますので、列記するだけでは整理がつきにくい(指導時期ごとに目指すものの関連性が明確にならない)はず。カラムや色でカテゴリーを細分化しておくといった表現上の工夫も必要です。
❏ 進路領域の目標における段階性&他領域との関連性
進路への意識についても、高まった/高まらないと漠然とした捉え方では、何をどう評価しているのかわかりません。目標を記述するべき箇所に「学部・学科研究」とタイトルだけ書かれていても、何をするのか/何を目指すのか、さっぱりわかりません。
ここでも生徒を主語にしたセンテンスで、到達状態を「規準」として書き出しておきたいところです。疑問文スタイルに改め、アンケートの形に整えれば、生徒に内省を促す指導のツールにも転用ができます。
3ヵ年/6ヵ年の指導には、進路意識を形成するフェイズと、そこで出来上がった進路希望の実現を図るフェイズとがありますので、それらを結び付けた段階的到達目標を、整合性をもって配列していきましょう。
前半のフェイズでは、進路希望を作るまでの活動を確かめるための行動評価で使用するチェックリストも整えたいところです。
途中の工程を飛ばしては後になって隣の芝生が青く見え始めてしまい、選んだ道の先が輝いて見えなくなることもあるのではないでしょうか。正しいプロセスを踏んで、選択した結果に向き合えるようになるには、段階的な到達目標を一つひとつクリアしていくしかありません。
目標を持った状態で巣立たせることは、最上位に置かれるべき教育目標の一つだと思います。そのための重要な指導の舞台に「総合的な探究の時間」も加わりました。進路における段階的到達目標を規定しようとするときには、探究型学習におけるプログラムの進行スケジュールとの整合性も意識しなければならないはずです。
■ご参考記事: 学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル
繰り返しになりますが、各段階でどんな状態に到達させたいかを規定しないことには、それを実現するためのプロセス(=指導計画)を決定することはできません。
山登りをするときには、目指すべき場所(大抵は山頂でしょうが)とそこに至るまでに通過する地点とその予定時刻を考えますよね。「さあ、キツイ登りになるから頑張ろう!」と気合だけで歩き出したら、どうなるか分かったものではありません。
ちなみに、「生活」の領域でも、家庭学習の習慣確立や協働的な学びでのふるまい方といった「他領域との関連」をしっかり踏まえて、時期ごとの到達目標を描き出す必要があるのではないでしょうか。各領域での指導を独立で考えないことが大切です。
その4に続く
このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一