家庭学習の習慣化を妨げるもの~原因から考える対処 #3

家庭学習の充実を妨げる「生徒が家庭学習に十分な取り組みを見せてくれない理由」を5つに大別し、その4つを前々稿前稿の2回に分けて考えてきました。本稿は、最後に残った5番目、「家庭学習に取り組む喜びが見いだせない(達成や自分の進歩の実感なし)」を考えます。
もしかしたら、家庭学習の延伸や習慣化にブレーキを掛けている最大の要因は、本稿で取り上げるものかも。家庭学習のタスクには、達成感を得たり、自分の進歩を実感できたりする仕掛け(工夫)が必要です。

❏ 真面目に取り組んだことの成果を実感できるか

指示された予習や復習、与えられた課題に真面目に取り組んでも、

「新たに何かができるようになったとの認識が持てない」

「学ぶ前の状態との変化(自分の進歩)を感じ取れない」

といった状態では、それらに真面目に取り組む意義を見出せません。
頑張って取り組んだことに、達成感が得られたり、学んだ中に新たな興味を見出したりしてこそ、次の学びにモチベーションが持てます。
当然ながら、中長期的には、感覚的なところでなく、学力向上や成績伸長という「目に見える(数値に現れる)成果」も意欲維持に必要です。
時間をやりくりし、苦労を重ねて、与えられたタスクに取り組んできたのに、いつまでも効果を実感できなければ、先生が指示するタスクに対し、本当に役立つのかとの「疑念」を持ち始めることもあり得ます。
こう考えてくると、予習・復習で取り組むことや授業外の課題は、以下のような要件を満たしたものである必要があるということでしょう。

  1. 課題を仕上げたときに、取り組む前との違いがはっきりわかる
  2. こなしただけではなく、何かを達成できたとの実感が得られる
  3. 真面目に取り組めば、学力の向上/成績の伸長という結果が出る

但し、実際には学びの成果が出ているのに、それを生徒が実感していないこともあります。きちんと振り返りを行わせて、学びを通じた自分の成長(進捗)を改善課題と共にしっかり認識させていきましょう。

❏ 自分の進歩や可能性の広がりを感じ取れる課題か

授業で教わったことを覚えるだけの「勉強」では、真面目に取り組んだ/知識が増えたとの実感はあっても、それによって新たに何ができるようになったかピンとこないとしても、不思議ではありません。
覚えたことを活用する場面すら、想像できていないかもしれません。
習ったことを用いて「自分事として感じられる課題」(一番、直接的なものは志望校の過去問や、その改題かもしれません)が解けた/自力で解法を考え出すことができたという体験は、科目学習への自己効力感を大きく高め、頑張る気持ちを強くすると考えられます。
自分にもこんなことまでできるんだという、新しい可能性を見つけることは、大きな喜びです。予習にしろ、復習にしろ、単なる作業の繰り返しや、習ったことを覚えるだけのタスクでは、こうした自分の進歩や、新たな可能性に出会うことはありません。
予習のタスクにも、如上の課題や問いをターゲットに示すことで、学びを「自分事」にさせることが必要であり、復習に際しても、そこに立ち戻り、学び始めるときと学び終えたときで、自分が導けた答えにどれだけの違いが生じたかを確かめさせましょう。

これまで与えていた課題が、作業的なものに偏っていたなら、課題解決型の要素を持つものとのバランスを取り直すところからだと思います。

❏ 予習・復習のタスクの妥当性を確かめる「効果測定」

授業開きなどで指示した予習・復習の方法や、授業外学習で取り組ませている課題についての効果測定も欠かせません。
指示した方法にきちんと従っている生徒は、そうでない生徒と比べた場合に、成績や学ぶ意欲、学びの方策といった観点で、より大きな伸長が見られて当然かと思われますが、実際のところは如何でしょうか。

予習や復習で課しているタスク

指示をきちんとこなしている生徒(A群)、通り一遍しかやっていない生徒(B群)、ほとんど/まったくやっていない生徒(C群)に分けた場合、模試成績の伸びに各群の間で差が生じているでしょうか。
半年前の模試と直近の模試の成績差をサンプル(データ)に、A群とB群+C群の間で「伸びの量」の分布に有意差が生じていないようであれば、その指示は成績伸長に寄与していないことが疑われます。

全生徒の成績一覧をもとに、前回偏差値、今回偏差値、予習状況を列方向に並べて、ピボットテーブルで整理しておけば、エクセルに実装されている関数(ttestなど)で有意差の検定は簡単に行えます。
なお、生徒一人ひとりの予習への取り組み状況は、授業への準備として調べ、考え、まとめたものをグループワークに持ち寄らせると同時に、クラウドに提出させれば、AIを使った効率的な点検・評価も可能でしょう。復習に課した、答えの仕上げや振り返りについても同様です。

週末や長期休業期間に取り組ませる課題

週末課題や長期休業期間中の課題についても同様の検証が必要です。
宿題にきちんと取り組んだ生徒と、形を整えただけの生徒、提出すらしなかった生徒との間で、科目への興味や学びに向かう姿勢に改善が見られなかったとしたら、その宿題を与えたことの意義が疑われます。
もしかしたら、面白くないことに取り組まされたことで、その科目の勉強が嫌いになっている可能性もゼロではないはずです。
生徒に負担を強い、先生方も点検や採点に手間をかけながら、モチベーションの低下など、負の影響が出ては、「投資」の意味もありません。
長期休業中の課題には、大学訪問などの「体験的な学び」もあろうかと思います。その効果測定にはポートフォリオの活用も必要でしょう。

平均家庭学習時間の目標値や、実際の課題量は合理的?

少ならかぬ学校に見られる「平日は1日平均2時間以上」「学年プラス1時間」といった数値目標も、どの辺が現実的で且つ合理的な線引きなのか、各校の事情に合わせて再検討してみる必要がありそうです。
ちなみに、生徒は一週間に50分の授業を6コマ×5日で1,500分(25h)の勉強をします。これに加えて、部活動に90分×5日(450分=7.5h)を投じたとすると、合計で32時間30分。
サラリーマンの法定労働時間と同じ週40時間が上限だとすると、残りは7.5時間です。平日1時間+週末2日に2.5時間で「枠」はいっぱいです。
各科目が課している予復習のタスクや追加の課題について、想定される所要時間を想定して、総時間が上限を超えているようなら、教科間での調整も必要です。枠を超えたところに高い履行率も期待できず、準備や仕上げを伴わない学習を生徒に強いることになりかねません。

このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一