大学入学共通テストの導入に向けた試行調査では、その試行結果の報告において、「探究の過程等の設定を通じて、知識の理解の質を問う問題や思考力、判断力、表現力を発揮して解く問題を、各科目における全ての分野で重視した」とのこと。
“探究の過程等の設定”(…行政文書らしい言い回し!)と言われても、具体的なイメージがわきにくいところですが、添え書きをみると、
- 授業において生徒が学習する場面
- 社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面
- 資料やデータ等を基に考察する場面
などを設定すること(らしい)です。
❏ 根っこで求められるのは読んで理解する力
探究の過程の第一歩は、ある事柄について既に解明されたことや所与の条件を踏まえた上で、「わかっていないこと/解決すべき問い」を見つけ出していくことです。
各教科の入試問題でも「学習型問題」がちらほらと登場していますが、まずはテクストや資料を自力で読んでしっかり理解することが大前提。
異なる立場から書かれたテクストを読み対立点を探って、双方が納得できる解は何かを論じさせる問題も、その数を増やすと考えられます。
自力で読んで理解したことをもとに考え、その結果を表現するというのが新テストの根っこに横たわる出題の意図です。
少なくとも、単元の内容を一から十まですべて先生が説明してしまい、それを覚えて答案の上に再現できれば良いということにはなりません。
❏ 探究活動や課題研究を通して自力で理解する力を磨く
教科学習指導と異なり、探究型学習や課題研究では、生徒がそれぞれにテーマを決めて取り組みますから、否応なく、教えてもらうのを待つのではなく、自分で読んで調べることになります。
やってみれば、それに対する方法はおのずと学ぶもの。
教科学習指導の中で養った「読んで理解する力」「問いを立てる力」を、実地に試して磨いていく絶好の機会です。
繰り返しになりますが、探究しようとすれば、当然ながら先行文献に当たって、どこまでわかっているのか確かめる必要があります。
巨人の肩の上に乗らないことには、遠くは見渡せないことを様々な場面で生徒に伝えたいと思います。
❏ 調べ学習は探究の入り口、ここで立ち止まらない
しかしながら、探究活動の成果発表会のはずなのに、調べ学習で終わっているパターンも少なくありません。
自分が知らなかったことを新たに知ったのは立派ですが、わかっていないことを新たに解明したわけではありません。
誰かがすでに導いた正解や仮説を知っただけですから、教科学習で先生の話を聞いて理解できたのと同じではないでしょうか。
くれぐれも、自分が知らないことと、その事柄について解明されていないことを混同させないことが大切です。
❏ 書かれていることを鵜呑みにしない
ここで大切なのは、書かれていることを鵜呑みにさせないことです。
たとえ権威ある人が書いていることでも、どうしてこういうことが言えるのか考えてみる必要があります。
微に入り細に入り説明してあったとしても、行間をつなぐパーツがすべて表現されているとは限りません。
特に教科書はページ数の制限もあって、極力シンプルに書いていますので、肝心なところが行間に埋まっていることが往々にしてあります。
それに気づかず文字面だけを読んで、「ああ、そうなのか」と納得しているのは、鵜呑みにしているのにほかなりません。
❏ ツッコみを入れながら思考を掘り下げる
もう一歩踏み込めば、もっと合理的な説明があるのではないかと思考を深めていくこともできるはずです。
これをなんの事前指導もなしに、生徒にいきなりやれと言っても、さすがに無理というものです。
守破離の段階を踏む必要があり、まずは、先生がモデルを示すところからです。
「こう書いてあるけど、立場を変えてみたらどうか」
「この理由付けだけで、〇〇の場合もちゃんと説明がつくのか」
…と問いを立てて、生徒が掘り下げて考えるきっかけを作りましょう。
ある単元を学び終えて、その中に改めて自ら問いを立ててみる練習は、そうした姿勢とスキルを養うのにうってつけではないでしょうか。
❏ 思考訓練を補う機会が課題研究
教科書は、簡素に記述されているので、表現されずに行間に潜んでいる論理を見つける思考訓練には好適です。
しかしながら、その一方で、既に検証されてて明らかになった事実を扱っている部分が大半なので、より合理的な説明/仮説を立てるのは高校生にとってハードルが高いのも事実です。
思考訓練の場を作るには、最適解がまだ見つかっていない課題や論点を内在するテーマが必要です。
そうした場とテーマを与えてくれるのが探究型学習や課題研究ではないでしょうか。
次の教育課程で、「総合的な探究の時間」のプログラムをきちんと設計しないと、新テストが求める学力をきちんと作り上げることは難しいかもしれません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一