生徒一人ひとりにその日の授業を振り返らせるのは、できるようになったことを「たな卸し」して学びに対する自己効力感を高めると同時に、次に向けた自分の目標を設定させるためですが、そこに書き出されたことをしっかり読めば、生徒一人ひとりが抱えている課題や達成感を覚えた箇所などを知る手掛かりになります。
先日の「今日の授業でどんな気づきがあったか」で書いた、リフレクションシートを熟読して授業者が意図したことがどこまで生徒に伝わっていたかを点検することと併せ、日々の習慣としたいことの一つです。
❏ 40人を同時に観察するのはきわめて困難
何十人もの生徒が同時に練習や作業に集中しているとき、すべての生徒に満遍なく観察の目を向けるのは容易ではありません。
どれだけ観察にエネルギーを注いでも、一人に目を向ければ、その瞬間は他の生徒から目が離れます。
ある生徒を見ている間に、別の生徒が素晴らしいパフォーマンスを示していたり、また別の生徒は大ドジを踏んでくれていたりするのは日常的な風景です。
先生一人の目では、一定規模以上の集団を対象に個々の生徒の行動を観察しきれないということを前提に、それを補完する方法を講じる必要があります。
❏ 生徒は、自分の状況をよく理解してほしい
生徒にしてみれば、自分は「40分の1」の存在ではありません。上手くできたときは、褒めてくれないまでも、それに気付いて欲しいもの。
自分では進歩を感じているのに、周囲がそれを認めてくれないというのは、自己評価と他者評価のアンバランスというストレス要因のひとつでもあります。
また、頑張っているのにうまく行かないときに、なんの助言も励ましも届かないのでは、心も折れるというものではないでしょうか。
ずっと見守ってあげれば良いのでしょうが、パーソナルトレーナーではない以上、一人に視線を張り付かせるわけにはいきません。
❏ 生徒自身が書いたものを手掛かりに理解を深める
こうした問題を解決する方法のひとつは、リフレクションシートに書かれたことに目を通すことで、生徒一人ひとりの状況を継続的に把握することです。
本時の練習・作業でうまく行ったこと、上達を自覚できたことを文字に起こさせておけば、それに目を通すことで次の時間には、フォーカスすべきポイントにより強い関心を向けて生徒の姿を見守れます。
生徒の練習や作業を外からみて認識できるものと、生徒の内面で生じている認識とは必ずしも一致しません。
傍から見れば十分なパフォーマンスでも、本人はうまく行かないフラストレーションを抱えていることもあります。
生徒が感じていることを知ってこそ、それに沿った観察と支援ができるということです。
同様に、生徒自身がうまく行かなかったと感じていること、次の機会には頑張ってみようと思っていることも、知っておくべきです。
❏ 一人ひとりの進歩に応じた課題と助言
生徒の状況(達成した進歩、抱えている課題)を正確に把握できれば、その生徒が次に挑むべき課題を的確に与えるのも容易になります。
得意な生徒が、集団内での相対的なアドバンテージに胡坐をかいているようでは、さらに伸びる可能性を失わせますし、苦手な生徒が立ち止まっているのでは、クラスの中での差がどんどん開くばかりです。
リフレクションシートに生徒が書いたことを踏まえ、授業中の観察と照らし合わせて、その生徒に対する助言を「返信」すれば、「一人ひとりの状況をよく理解した指導」の実現にも近づくはずです。
❏ リフレクションシートへの記入を自己目的化させない
リフレクションシートを導入した当初は、習慣化を優先すべく、「振り返りを通じて何かを書く」ことをルール化すべきでしょうが、記入欄を文字で埋めることを自己目的化しても効果には繋がりません。
また、初期段階では、きちんと振り返りができない(=実のあるリフレクション・ログが残せない)生徒も少なくないはずです。
生徒が残したログから、好適なものをピックアップしてクラスでシェアすることで、振り返りの仕方/ログの残し方を「相互啓発」の中で学ばせていくことにも、早い段階で注力しましょう。
先生方からのフィードバックも、毎回欠かさずコメントすることにばかり意識を向けては、機械的になるばかりで、労力も増え続けます。
書くべきことがあるときだけ書かせるようにすれば、マンネリ化を避けられますし、より効果的な指導になるはずです。
ずっと何も書かない生徒がいたら、こちらの観察に基づくポジティブな所感をコメントし、リフレクションシートを介した対話をこちらから仕掛けるという手もあります。
❏ 振り返りをきちんと行うことで得られる効果
拙稿「振り返りを経てこそ次への課題形成」で書いた通り、学びを振り返ることは、授業に臨むときの目的意識を高めますし、その科目に対する苦手意識を抑制する効果も持ち合わせます。
また、何がわかっていない/できていないかを確かめながら学ぶことでその科目の勉強が嫌いから好きに変わることがあるのは、別稿「勉強を好きにさせる学ばせ方」でご紹介したデータが示す通りです。
こうした効果に加えて、「生徒観察の精度が高まり、必要な場面で必要な評価と助言を与えられる」というメリットも生じるとなれば、振り返りの結果を文字に残させることは、コストパフォーマンスの上でも悪くない取組ではないでしょうか。
次期学習指導要領では、ポートフォリオの導入も検討されています。先生の目による観察だけでは、3年間/6年間の活動記録は作れません。生徒自身が書いたものをどのように利用するかを、今のうちからしっかり考えておく必要があるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一