進路行事としてのワークショップ

別稿「進路講演などに向けた事前指導」では、進路講演などのイベントでの成果をより確かなものにする事前の準備について考えました。
進路指導関連行事の形式でも、従来からよく見られる「講演タイプ」に加え、新たに「ワークショップ型」が導入されるケースも増えており、ファシリテーターには外部の人材活用も少なくありません。

こうした変化の中、準備や行事内の活動への取り組ませ方などにも従来と違ったものが求められています。各地で行事を参観する中で見かけた好適な実践を踏まえ、考えるところをまとめてみました。

❏ 思考と対話を成立させるには「前提知識」が必須

従来の講演タイプが、講師の側で考えてまとめた話を聞くのに対して、ワークショップ型は当然ながら課題を設定し、参加者(生徒)自身がその解を作り出していくもの。
その場で、作り上げた答えも貴重なものになるでしょうが、答えを考える過程で重ねた思考と気づき、話し合ったことや体験したことが学びに構成されていくのが特徴です。
総合的な学習の時間を含めて、課題解決型学習を行う場合、生徒の側で基礎的な知識が不足していたり、テーマの周辺に存在する解決すべき問題に気づいてなかったりすると、当然のことながら、思考や討論も盛り上がりを欠き、学びに構成すべき気づきや体験も膨らみません。
これでは、対話と協働により課題に解を導くという当座の目標も達成できず、活動を通して身に付けさせるべき能力や資質の獲得も怪しくなるばかりだと思います。
教科学習指導の場合と同様、課題を解決するフェイズに進む前には、前提となる/土台とすべきところを一定水準以上に整えておく必要があります。cf. 課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認

❏ 導入講義だけで何とかしようとしても…

こうした「行事」に組み込まれた課題解決学習で、一定以上の前提知識をすべての参加者(生徒)に備えさせるのは容易ではありません。
カリキュラムに沿って学びを積み上げる各教科と違って、各生徒が既に知っている範囲はまちまち、個人差がかなり大きいはず。どこまで知っているのか、予想すら容易ではないと思います。
導入講義を長々と展開しては、背景知識を既に備えていた生徒には退屈でしょうし、テーマに馴染みのない生徒は講義の内容そのものをきちんと理解できないかもしれません。帯に短し、たすきに長しです。
行事の告知とタイミングを合わせて、資料を予め配布しておき、事前学習として各自での読み込みを求めたり、アンケートを行って、どこまでの理解や関心を持っているかを調べておかないと、導入フェイズの設計もままならないはずです。

❏ 導入講義を端折り、お題の提示から入る

こうした事前学習に十分なリソース(手間と時間)を投入するのが難しいという場合、思い切って導入講義を端折ってしまい、ワークショップのお題を示すところから入る方法に切り替えてしまうのも手です。
お題というのは、言うまでもなく、「その日の活動を経て、生徒たちが自分たちなりの答えを導くべき課題」のことです。
当然ながら、前提知識もろくに持たない「導入前の段階」ですから、まともな答えは導けないでしょうが、「問題意識を刺激して、何について考えるかフォーカスを与える」という効果は十分に期待でき、次のフェイズ(学びの本番)に進む準備にはなるはずです。

❏ 背景知識と前提理解は、自力と協働で整えさせる

問いを示したら、答えを考えさせながら、背景知識/前提理解の拡充に、生徒自身で取り組ませていきましょう。やらせるべきことは、

  • 資料文献や新聞記事のコピーなどを配って読ませる
  • 読んだことを元に、感想や意見を交わさせる
  • メンバーそれぞれが知っていること/調べたことを伝え合わせる
  • タブレットなどを使って、関連する事柄をより広く調べさせる

などでしょうか。読んで理解する、信頼できるソースを探して必要な情報を集める、知ったことをまとめて他者に伝えるといった、学びに必要な様々な方策(基礎力など)に習熟を深める機会にもなるはずです。
こうした「プレ活動/導入学習」を挟むことで、背景や前提となる知識の補完を図り、解決すべき問題点を具体的にイメージさせることができたところからが、ようやく「学習」の本番です。

❏ 討論にフォーカスを与える「問題点の切り分け」

背景知識などをある程度整える段階を経たら、議論が拡散して明後日の方向に行かないように、問題点を切り分けていきましょう。
大きなお題のままでは、切り口を絞れず、感想の伝えあい、意見の言い合いで終わるリスクが高まります。

ファシリテーターが、観点を分けて、最初のお題を具体的な問いに分割して再提示するのが一般的でしょうが、生徒が立てた問いから好適なものをピックアップして、幾つかの切り口を整えるのも良いと思います。
最初のお題に対して、それぞれの生徒が自分なりの切り口を見つけているはずです。それらを付箋に書き出し、ボードの上で整理していけば、様々な問題のカテゴライズもできるのではないでしょうか。
生徒の発想は、ときに指導者/ファシリテーターのそれを上回ります。それを活かしてこそ、広く深い学びができるようにも思います。

❏ 興味の所在に応じて、グループを再編

問いの切り分けが済んだら、それぞれの生徒が面白そうと感じた問いのもとに集まらせて、グループを再編するのもお奨めです。
もちろん、グループを固定しておき、指定した問いに取り組むことで、それまで考えてみることのなかった事柄を学ばせることにも大きな意味がありますが、直感的に面白いと感じたことに取り組んだ方が、生徒の興味のふくらみが早いというのもまた事実かと思います。
面白いと感じたということは、そのサブテーマの周辺に、ある程度まで整った「認知の網」が張られていたということであり、ディスカッションに参加しても一定以上の役割を果たせる可能性が高いはずです。
議論に参加して貢献できたという認識は、自己効力感を高め、次の機会でのより積極的な取り組みにも繋がっていくものと思います。

❏ 集団達成の喜びが協働性を育て、興味を広げる

講義から、討論、発表、講評という4フェイズで組むのではなく、プレディスカッション、調べの時間、グループ再編などを挟み込むことで、その時間がより大きな果実を結ぶことに繋がりそうです。
まったく興味も湧かず、ぴんと来ないテーマで討論に参加させたところで、チームに貢献することも、自分の意見をまとめ上げて表明する喜びも感じにくいかもしれません。
こうした喜びや達成感は、課題解決に向けた協働の大切さを学ぶときの大きな材料。主体性や多様性の獲得につながるかもしれませんし、活動を通じて膨らませた興味がやがては将来の夢や進路意識となっていくこともあろうかと思います。
活動を通じて得た気づきや考えたことは、別稿でも書いた通り、きちんと言語化させて記録させましょう。得たものをきちんと整理し、学びに構成していくことが、新たな自分を作り、見つけることに繋がります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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