途中でも、その時点で成果を共有

別稿「積極的に活動させるツボ(全3編)」では、授業内活動に生徒を積極的に参加させるための工夫を考えました。あちこちの学校を訪ねて授業を拝見してみると、生徒が活動性を下げてしまう瞬間には、まだまだ色んなパターンがありそうです。(cf. 不用意な“待て”をかけない
生徒一人ひとりに調べる、考える、まとめるといったタスクに取り組ませるときも、グループなどで話し合わせるときも、限られた時間の中で活動の密度が下がってしまえば、所期の成果は見込めず、次にフェイズに進む準備の度合いもバラバラ、という避けたい状況に陥ります。
活動性が下がってきたときに取るべき手立てのひとつが、本稿でご提案する「(作業の)途中でも、その時点で成果を共有」することです。

2015/10/26 公開の記事をアップデートしました。

❏ アクティビティに与えた時間を延長しても

生徒に作業や練習をさせているときに、進み具合から仕上がらないと見て、時間を延長するケースがあります。「じゃあ、3分延長しようか」
古くから、教室でよく見かける方法ですが、あちらこちらで授業を拝見していると、あまりうまく機能していないように思います。
時間を延長した分、生徒の作業や練習がそれに応じて成果を結ぶなら良いのですが、必ずしもそうとはならず、延長が無駄になることも…。
既に仕上がっている生徒は、やることもなく手持無沙汰。他方、行き詰って先に進めなくなった生徒は時間を延長されるだけでは進歩なし。できない(要求を満たせない)自分に向き合う時間だけが長くなります。
ペアやグループで何かをさせている場合も、多少時間を延ばしたところで、すべてのチームが仕上がるとは限りませんし、既に仕上げたチームは退屈するのか、おしゃべりやスマホに興じ始めます。
躓いている生徒/チームに「急げ」と促しても、進めない状態を作っている原因を取り除いてあげないと、どうにもならないはず。ここで取るべき一手は、タイトルにある「途中の成果を共有する」ことです。
ちなみに、タスクを終えた生徒には、「次の課題」を与えておくという対処もありますが、遅れている一団との積み上げの差を広げたことで、次のフェイズでスタートが揃わなくならないように注意しましょう。

❏ 次のフェイズでのスタートを揃えるために

学びは各フェイズで完結するわけではなく、次のフェイズの学びの土台や準備になったりするもの。前段のタスクが一定の成果を結び、仕上げられていないと、次に進んだときに障害が生じます。
作業(調べる、考える、話し合う)が行き詰っている生徒/チームに対して、何らかの助け舟を出して、立往生を解消させ、フェイズの終わりまでに「目指したところ」に近づけさせる必要があります。
こうした場面では、ついつい「結論を教えてしまう」「ヒントを出して誘導する」といった手を取りがちですが、それでは生徒は「自ら調べて理解する、考えて気づく、話し合って解を探る」といった工程を、先生の肩代わりにより奪われてしまっていることになりかねません。
他の生徒/グループがそこまでに得ている成果に触れさせ、閉じた発想を開き直させる方が、学びで得るものはより大きくなります。
ただし、周囲が導いた結論だけを知るのでは、ただの「答えのパクリ」であり、コピペだけでレポートの体裁を整えるのと変わりなしです。
共有させるべきは、結論や答えではなく、それに至るプロセスです。

  • どんなソースに当たり、何を知り得たか(思考の土台となる知識)
  • どんな問いを立てて考え/話し合っているか(思考と議論の焦点)
  • 思考や話し合いの中でどんな気づきがあったか(中途段階の成果)

途中までの成果を互いに共有するのは「答えの教え合い」ではないことを、繰り返し伝えて、しっかりと生徒の意識に刻んでおきましょう。

❏ どのタイミングで中間成果を共有させるか

中間成果を共有させるタイミングは、取り組ませているタスクにかける時間が折り返しを迎えたところ辺りでしょうか。
早すぎるタイミングで行うと、個々の生徒が自分にできる範囲をやりつくさないまま、他人の成果に「ただ乗り」することを学習させてしまいます。わざわざフリーライダーを育てる必要はありません。
遅すぎては、新たな着想やヒントを得ても、調べ直す/考えを深め直す時間が足りなくなり、フェイズの終わりまでに目的に達しません。
躓いている生徒が多いようなら早めのタイミングで、スムーズに行けているようなら遅らせて、という観察をしながらの「調整」も必要です。
好適なタイミングを見計らい、周囲(席の近い)の生徒がワークシートやノートにどんなことを書いているのか覗き込ませたり、他のグループのやり取りを見に/聴きに行かせてみたりしてみましょう。
ICT環境下なら、(不完全でも)そこまでに整ったワークシートや共有ノート、プレゼンテーションなどをシェアさせて、他の生徒/グループも覗けるようにすれば、参考になるものを探しやすくなるはずです。

❏ 自分で調べたい、考え尽くしたいという生徒もいる

タスクの途中でそこまでの成果を共有し、躓きや迷子状態(あらぬ方向に驀進しているかも)を解消してあげるといっても、中には「他を参考にせず、自分で調べ、考え尽くしたい」という生徒もいます。
生徒の活動中に机間指導で、有為な情報に行き当たっている生徒、優れた発想で思考を重ねている生徒を見つけておき、その生徒に発言させるのも好適ですが、如上の生徒には「余計なこと」かもしれません。
成果を公開する(あるいは、覗きに来られても隠さない)ことは求めても、他を見に行く/聴かせることを強要しないことも大切です。
そもそも、口頭での発表/発言は、ある瞬間には一人分しかできず、クラス全員をそれに集中させてしまうことで、交換できる「気づき」の総量を小さくしてしまうデメリットも考慮する必要があります。
中には、躓いているくせに、我を張って周囲を覗きに行かない生徒もいるかもしれませんが、次のフェイズで何が求められるか(成果の持ち寄り、まとめたもののプレゼン等)を予め伝えておきさえすれば、そのまま「成果なし」でフェイズを終えようとはしないはずです。

❏ 逆に「途中の成果を覗かれたくない」という生徒には

自力で事を成したいという生徒とは別に、「やっていることを(ましてや不完全な途中の段階では)覗かれたくない」と、自分がやっていることを知られることに抵抗を覚える生徒もいるかもしれません。
そうした生徒には、先ずは考え尽くした結果を伝えることはコミュニティへの貢献であることをしっかり伝えて、理解させておきましょう。
しぶしぶでも公開することを続けていれば、やがては、自分が調べ、考えたことが周囲の発想を助け、課題の解決に貢献したという「悪い気のしない体験」の中で、抵抗感を抜け出していくのではないでしょうか。



別稿「アイデアを膨らませ、まとめる方法への習熟」でも書いた通り、生徒が作ったものを互いに見せて相互啓発を働かせることは、生徒一人ひとりの、そして教室全体の学びを大きく膨らませます。
中途段階の「不完全なもの」でも、教室で共有できれば、個々の躓きを解消したり、発想を膨らませたりすることで、学びが「狙った成果」の手前で止まってしまうことを防いでくれます。
学びの時間を通して、個々に/協働で取り組んでいることの中間成果を共有することには、その段階での「学びのリスタート」という意味もあり、活動全体を「スモールステップ化」する効果が期待できます。
■関連記事:

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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