より良い授業の実現に向けた、管理職の役割

現場で頑張る先生方が日々取り組んでおられる「より良い授業の実現」がどれだけスムーズに進み、大きな成果を結ぶかどうかは、管理職からの支援や関与に左右される部分が小さくないと考えます。
別稿「授業観察を行うときに押さえるべきところ」でお伝えしたことはもちろんですが、それ以外にも管理職の関与なしには実現が難しい「授業改善を進めるための環境づくり」があります。
授業観察を通して見つけた優良実践を校内に伝えることと並行して、授業改善のために個々の先生方が重ねてきた工夫と努力の効果を測定する仕組みと機会の整備などにも注力が求められます。

❏ 優れた授業実践を見つけ出し、校内に周知すること

管理職の先生方は「授業観察」を通して、校内で行われている授業を広く目にする中で、校是とする授業像(=学校ホームページで謳う「本校の教育」など)を具現している実践を見つけるはずです。
そうした授業を「参考になり得る実践例」として、校内に周知することは、管理職に期待されるところの筆頭であると考えます。
各教科の先生方が、同僚の先生方の授業を観る機会はそれほど多くありません。多忙を縫ってなんとか時間をやりくりして参観した授業の中に如上の実践が含まれる保証もないはずです。
優れた実践を余すところなく探せる立場にあるのも、それを伝える責任があるのも、管理職の先生方に他ならないのではないでしょうか。
授業観察を通して見つけた優良実践の所在を伝え、相互参観を行うときの対象として候補の上位に置いてもらうことで、そうした実践が校内で知られないまま埋もれてしまうことのないようにしましょう。

❏ 参考とすべき実践の良さを言語化して伝えること

校内に存在する優れた実践を伝えるときも、「なぜ優れているのか、どこを参考とすべきか」を明確な論理で伝えるようにしたいところです。
情報に触発されて参観に出向くにしても、観察に焦点を持ちやすくなれば、得るもの/学べるものも大きくなるはずです。
時間割や校務の都合で教室に足を運んでの参観ができない先生がいたとしても、如上の情報に触れただけで授業改善へのヒントになります。
こうした「良さの言語化」は、管理職になりたての頃は(とりわけ自教科以外の授業では)難しく感じるかもしれませんが、場数を重ねる中で身につくスキル。やろうと努力し続ければ向上を実感できるものです。
様々な授業を観ていく中で、個々の授業を相対化して観る視点や、良さを合理的に説明する「ロジック」も確立していきます。授業を語るときのボキャブラリーも次第に増えてくるのではないでしょうか。
なお、自校が打ち出してきた授業像をしっかりと踏まえて置くことも大切です。それと結びつけて各授業を評価することが、学校全体での授業改善に方向性を与えます。

❏ 良さを裏付ける、効果を測定するデータを整えること

観察者(=ここでは管理職)の目で優良実践を抽出しても、その良さを裏づけるだけのエビデンス/データがないことには、その実践に対する理解や共感を校内で広く持ってもらうことは難しいかも。
主観で伝えるだけでなく、その教室で学んでいる生徒に生じた好ましい変化を示すデータを揃えておく必要があるはずです。
指導の優劣は、一定期間を経て生じた如上のデータの変化量に現れるもの。模試や外部検定での成績やルーブリックを用いた評価結果は、その変化を教室単位で比較できる形でデータを整えておきましょう。

生徒による授業評価アンケートの回答データも、同じように活用できるはずですが、質問設計が新しい学力観に沿ったものに更新されていないと、集計結果がミスリードを起こすリスクも抱えます。
集計方法も、教科単位で丸めてしまうことを常にしていては、「教室間での比較」には使えません。データの扱いもきちんと点検しましょう。

ダイエットをしようというときに、体重計を持たない人はいないはずです。授業改善を進めようとするときに、指導の効果を確かめる指標が定まっているか、きちんと運用されているか確かめていきましょう。
頑張りの成果を数字(体重計の表示)で確認できてこそ、モチベーションも維持できますし、反省も生まれるのではないでしょうか。

❏ 授業改善に向けた活動をきちんとスケジュール

継続的な授業改善には、いわゆる「PDCAサイクル」をきちんと回すことが不可欠。年間スケジュールの中に、如上のデータを用いた中間検証の機会や、先生方の学びの機会は確保されているでしょうか。

研究授業の計画立案や実施は各教科、模試などのデータの加工と活用は進路指導部、授業評価アンケートの運用は教務部といった具合に、全校を挙げた授業改善には様々な組織の活動が関わってきます。
各組織に期待することをきちんと伝えた上で、如上の活動が、十分に計画され、年間のカレンダーにきちんと落とし込まれているか、計画通りに実施できているかを見守ることは、管理職の仕事にほかなりません。
個々の活動を具体的に設計するのは、各組織に任せるべき部分ですが、意図や期待が十分に伝わっていないことが原因で、計画に不足が生じていることもあるはず。各組織との対話の不足を省みましょう。
計画の実施に、各組織のリソース(時間、人手)の枯渇で停滞が生じている場合もあろうかと。優先度の低い(=学校全体の教育活動への寄与度が低い)業務をカットするなどの経営判断も求められます。

❏ 各教科の先生方は、組織だって動けているか

より良い授業の実現というミッションの実現にとりわけ大きな役割を担うのは各教科(教科会)ですが、その活動はマチマチになりがちです。
これまでに拝見した限りでは、教科会がきちんと計画されていない、事務連絡で終始しているといったケースは少なくないように感じます。

以下のような活動にきちんと取り組んでいるか、教科主任会などを介して状況を把握し、必要な働き掛けと支援を行っていきましょう

  1. 模擬試験/学力テストの結果分析
  2. 学年教科内での協議結果や取り組みの進捗状況の共有
  3. 入学から卒業までの定期考査の出題計画/作問方針の策定
  4. 好適な指導手法の共有と指導法開発に向けた協働

教務や進路といった分掌組織に比べて、個々の価値観がぶつかりやすいのが教科会かと思います。学校経営上の「期待」を管理職から明確に示さないことには、その活動に方向性は持ちにくいはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一