教育手法開発・指導法改善に向けた計画作りは万全?

いよいよ新年度が目の前です。既に新年度の指導体制は整って、生徒向けの指導は年間での計画もほぼ固まっているものと拝察いたしますが、もう一つ計画をしっかり立てておきたいのは、個々の教育活動の成果をどう測りながら、教育手法を開発や指導法の改善を進めていくかです。
新課程への移行に伴い、様々な新しい取り組みが始まっている中、万が一にも「やりっぱなし」になってしまっては試行錯誤に生徒を巻き込むばかりですし、先生方にしても、投じたエネルギーに見合った効果が得られないようでは骨折り損にもなりかねません。
新しいことに取り組むときは言うに及ばず、あらゆる場面で効果測定はしっかり行い、優れた実践を共有した上で、その先の更なる改善に先生方の知恵を出し合っていくべきだと思います。

❏ どのタイミングで何を指標に成果を検証するか

学校の教育活動には「重点目標」があるはずです。前年度の成果検証の結果で抽出された改善課題で特に優先順位が高いと判断されたものや、生徒募集などの学校広報において内外に対してアピールしたこと(=交わした約束)などは着実に実現していかなければなりません。
目標達成に向けた計画には、成果検証のタイミングとそこで用いる検証手法も記述されていなければならないはずですが、如何でしょうか。
目標は、達成可能性と検証可能性が備わって初めて目標足り得ることを忘れないようにしたいものです。
たとえば、「主体的、対話的な深い学び」の実現を図ろうとする場合、掛け声だけではダメなのは言うまでもありませんが、従来と同じように模試や外部検定のスコア(=結果学力)だけを指標に据えても、生徒の意識・姿勢や行動の変化(=指導の効果)はそこに表れません。
生徒の行動を観察する上での観点ごとに段階的な評価規準を設定しないと、評価結果(=取り組みの効果の測定結果)を定量化できず、検証に利することができません。生徒の意識を質すアンケートやインタビューも質問設計や実施時期をしっかり考えておく必要があります。
どのタイミング(中間+最終)で、何を指標に効果測定/成果検証を行うか、しっかり計画に組み込まれ、全教職員に対して明示されているか点検してから新しい年度を迎えるようにしたいところです。

❏ 取り組みの成果を検証するには「初期値」も把握

指導の効果/取り組みの成果は、それを始める前と終えた後の差分の中に現れることは言うまでもありません。当然ながら、指導を終えたときの状況をどれだけ正確に測定しても、初期値が不明では、指導/取り組みによって得られた「付加価値」がどれだけか明らかにできません。
別稿「どこにスケールを当てて学びの成果を測るか」に書いた通り、先生方の指導の効果を測定するときは「変化量」に着目する必要があるということです。
前述の通り、どのタイミングで、何を指標に効果を測定するかを決めたら、まったく同じではないにしてもある程度の比較が行えるだけの観点や段階性を備えた方法で、生徒の初期状態を把握すべきと考えます。

各教科に固有の結果学力については前年度の模試成績などを基準とすることも多いでしょうが、学校/教科で育成に注力した学力要素にピントを合わせたデータが得られるとは限りません。
4月の早いうちにそれらの獲得状況を把握できるような課題に取り組ませて、各生徒のアウトプットを保存しておき、学期末/年度末で課した別の課題の出来栄えと比較できるようにする必要があるはずです。
採点用のコモンルーブリックを備えていれば、観点や評価規準の段階性を揃えた、評価結果の定量化もある程度までは可能なはずです。
アンケートや行動観察の結果で把握するもの(意識や姿勢)についても同様です。中間/最終で用いる予定のモノサシを、4月時点の生徒にも一度あてはめてみて、そこでの測定結果を記録しておきましょう。
前年度から継続的にデータが揃い、「一つ上の学年の1年前」などとの比較ができる状態であれば、もう一歩踏み込んで、本年度の指導で目指す水準(目標値)を設定するのも好適です。初期状態が前年度と異なるのも普通ですから、期末での最終目標は中間検証の結果を踏まえて設定し直す必要もあろうかと思いますが。

❏ 効果検証で抽出された優良実践をどこで共有するか

成果検証や効果測定を行えば、自ずと「相対的に優れた評価・成果」を得ている実践が特定できますが、それらを共有・継承しないことには、継続的で確実な教育改善はできません。
校外から採り入れる新たな手法は、自校の生徒の学習者特性や志望傾向などとマッチするかどうか不確かなところがありますが、校内で既に高い評価を得ているものであれば、親和性が高く期待できます。(校外の実践に学ぶ機会もないと、発想が停滞してしまうのも事実ですが…)
当然ながら、冒頭に書いたように「重点目標」に合わせてモノサシを用意しているわけですから、そこで優れた測定結果が出た実践であれば、学校全体での目標達成にも直接的に寄与してくれるはずです。
しかしながら、あちらこちらの学校を拝見していると、せっかく優れた実践が存在し、且つ特定もできているのに、それらの共有や継承を図る場が十分に整えられていないケースも散見されます。
授業改善であれば教科会での実践報告や相互参観、学年行事や進路指導なら前後の学年からの助言者やオブザーバーを入れた拡大学年会などがその場になるはずですが、年間カレンダーにこれらの予定が組み込まれているでしょうか。
年間を通した戦略的なスケジューリングができなければ、目先の必要に引っ張られ、中長期的に且つ戦略的に取り組むべき課題が後回しになってしまうのは、ホームルームの年間実施計画の場合と同じです。

❏ 取り組みの成果は、校内外にしっかり伝える

教育手法の開発や指導法の改善に向けた取り組みが成果を得たら、それをしっかり伝えることも大切ですが、実際のところ、日々の教育活動に注力するあまり、エビデンスを用いた広報がしっかり行えているケースばかりではないように感じています。
せっかく成果を得ても、理解や賛同をより広く得なければ、活動は狭いところに止まります。優れた実践を広く届けるには、しっかりと広報を行い、取り組みを広く、深く知ってもらう必要があります。
また、生徒募集などの学校広報を通じて校内外と交わした約束ならば、きちんとその成果を伝える「結果報告」も責任の一部だと思います。
求められるのは「成果の報告」です。「○○を実施しました」という履行の報告だけでは不十分であるのは言うまでもありません。成果を示す客観的なデータを添えることも期待されています。

効果的な広報の実現を目指し、情報発信のための体制作りや、年間行事予定をベースに作るホームページの更新計画などもこの機に点検しておくべきだと思います。(cf. 学校ホームページでの情報発信
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一