令和7年度(2025年度)の大学入学共通テスト

先週水曜日(11月9日)に大学入試センターが「令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等」を公開し、大きな話題になっています。
国語でも、グラフがいくつも問題に組み込まれ、データを基に考察する場面が設定されるなど、ひと昔前の出題とは大きく様変わりです。
試作問題に添えて公開された「問題作成方針に関する検討の方向性について」や各科目の「試作問題の概要」にも目を通した上で、どのような方向で今後の学習指導を進めていくか改めて考える必要を感じました。
問題作成方針の基本的な考え方として示された中で、以下の箇所(それぞれ上記文書から抜粋引用)には特に注意が必要だと思います。

大学で学修するために共通して必要となる、高等学校の段階において身に付けた基礎的な力を問う問題

ここで言う「基礎的な力」は、「各教科に固有の学習内容のうち最小限押さえておくべき知識・理解」に加えて、21世紀型能力の定義による基礎力、即ち、言語、数量、情報の各スキルのことも指しています。
国語の問題でも、モデル化されて図として示された考え方を正しく理解しているかを試し、グラフを読み取って考察することを求めています。
試作問題を見て、自教科(この場合は国語)の授業だけで対策を完結させなきゃと焦っても、限りある授業コマの中で教科固有の知識・技能の獲得も疎かにできない以上、無理を抱えるばかりです。
以下の別稿でも書いた通り、必要となる能力・資質の涵養の機会は、各教科の学びに探究活動や進路指導なども加えた、「指導の総体」の中に分散して配列していくべきだと思います。

同文書には、如上の引用の直後に、以下のような記述も見られます。中高の教育現場が、如上のスタンスで教育課程を編み、各教科が連携して欲しい、というのが試作問題を通したメッセージだと考えます。

言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等を、教科横断的に育成することとされていることについても留意する。


どのような能力・資質を身に付けさせることが学校に求められているかを、21世紀型能力のフレームと試作問題の一つひとつと照らし合わせながら、しっかりとイメージした上で、日々の授業をデザインし、定期考査などの問題作りに取り組む必要を改めて強く感じました。


同文書では、問題の場面設定の例として以下のものを挙げており、各科目の試作問題を探せば、それぞれに対応している箇所が見つかります。

・社会や日常の中から課題を発見し解決方法を構想する場面
・資料やデータ等を基に考察する場面
・考察したことを整理して表現しようとする場面

大学入学共通テストの対策として、試作問題に似た出題を作ったり、あちらこちらから探してきたりして生徒に取り組ませるのは、時間の確保も難しければ、好適な材料もなかなか揃えられないはずです。
先週以来の新聞等の報道では、「対策のため塾や予備校への依存が高まる」ことを懸念するお声も散見されましたが、「受験対策」としてやろうとすれば、確かにそうかもしれません。
しかしながら、総合的な探究の時間のプログラムをきちんと設計して、運用できれば、ある時期に集中的に行う受験対策より、はるかに大きな成果(各場面で求められる能力・資質の獲得)が期待できるはず。
PBL的な学びを日々の授業で経験させることで獲得させた「基礎的な力」を、探究活動の中でブラッシュアップさせれば、試作問題が求めている水準の力は十分に獲得できるように思います。

教えなければならないことが多く、PBLを授業に組み込むような余裕はないとお感じになるかもしれませんが、「生徒が個々に取り組む学習活動でできるところを切り離す」ことで時間を作るしかありません。

試作問題を見て、「これまで以上に教えることの精選が必要」とのご感想を持たれた先生も少なくないかと思いますが、生徒が自力で学べるところを増やせば、先生が教えなければならないことは減ります。
個々の学習内容の取扱いを考えるときは「読んで理解させる」「話し合いで気づかせる」を優先すべきです。「先生が説明して聞かせる」のはそれらではどうにもならないときの「切り札」と考えましょう。


問題作成の方針として、以前からも繰り返し示されながら、今回も改めてはっきりと明示されたのは、以下の部分かと思います。

深い理解を伴った知識の質を問う問題や,知識や技能を活用し思考力・判断力・表現力等を発揮して解くことが求められる問題を重視する

例えば、国語で出題された、考え方をモデル化した図について「適当でない説明」を選ばせる問題では、「情報デザイン」をざっと勉強して身に付けただけの「知識」ではなく、探究活動などでのプレゼンやその自己・相互評価を経験して培った「深い理解」で解くことになります。
さらには、「出題教科・科目の問題作成方針に関する検討の方向性について」には、こんな記述も散見されます。

社会や身近な生活の中の題材や受験者にとって既知ではないものも含めた資料等に示された事例や事象について,情報社会と人との関わりや情報の科学的な理解を基に考察する力を問う(情報)

教科書等では扱われていない数学の定理等を既知の知識等を活用しながら導くことのできるような題材等(数学)

受験者にとって既知ではないものも含めた資料等に示された事物・現象を分析的・総合的に考察する力を問う(理科)

言語、数量、情報の各スキル(基礎力)が、大学での学修に必要な水準以上に身につき、且つ、思考力などをきちんと発揮できれば、「既知でない/教科書で扱われていないことがら」にも対処できるはず。
いわゆる「学習型問題」を見かけることも多くなってくると予想されますが、その備えも「受験対策」として行うのではなく、日々の授業の中でしっかりと積み上げていく必要があろうかと思います。
また、試作問題を見ると、問い方/答えさせ方にも、マークシートによる選択式という縛りの中で、実に様々な工夫が凝らされています。
工夫と言っても決してトリッキーなものではなく、よく読めばちゃんと判断がつくものです。日々の社会生活/学究活動で求められる「読みの姿勢」に気づかせるのに好適な「教材」ではないかとも感じています。
細かなところでは、選択肢には「正しい、誤っている」に「判断できない」が加えられた箇所があちこちにあり、以前よりも問題文や資料を注意深く考えて読む必要がありますが、情報に取り囲まれて過ごす日常においてもそうした「判断」は常に働かせたいものではないでしょうか。



今回公開された試作問題は、先生方にとっても、生徒にとっても、インパクトのあるものだったと思いますが、こうした問題を目の前に、日々の学びはどうあるべきかを考えるのは有意義なことだと思います。
どこかで時間を見つけて、生徒が試作問題にチャレンジする機会を作ってみては如何でしょうか。これまでの自分の学び方のままで良いのか、振り返ってみることで、各科目の学びに向かう姿勢も変わってくるかもしれません。
その体験を通して生徒の「学習観」が更新されたら、先生方がこれから作り出そうとしている授業への喰い付きもグンと良くなりそうです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一