生徒のノートにどう残るかをイメージして
板書はその場の用を果たせば「消される」のが常ですが、生徒のノートに書き写されたものはその後もずっと残ります。板書のスタイルに年間を通してある程度まで統一したものがないと、表記のバラつきは、あとで生徒がノートを見直したときのわかりにくさの原因になります。
書籍を読んでいても、章ごとに組版の方式や表現が異なっていたら読みにくくて仕方ないはずです。不整合に気を取られてしまっては、どんなに内容が良くても頭に入って来にくいものです。
生徒のノートは「板書法を研究する教材」にもなります。ノートを開けば、(他教科も含めた)周囲の先生方が重ねた工夫を見て取れるはず。担当以外のクラス/科目のノートを手に取ってみると、そこには板書のさらなる改善へのヒントも見つかるのではないでしょうか。
2014/04/20 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 板書はその場限りだが、ノートはあとまで残る
繰り返しながら、板書はその場の用が済んだら消されるもの(電子黒板での板書やオンラインで配信した授業動画中の板書なら保存も可能)であるのに対して、黒板を書き写した生徒のノートは後々まで残ります。
定期考査前の復習や、先の単元に進んでからの既習内容確認では日付の異なるノートを串刺しにして読み直すことになりますが、色分けや記号の使用などのルールが日ごとにバラバラでは、理解の妨げになります。
重要項目を強調するために使う色チョークも、その場限りのことなら、白以外どんな色でも構わないでしょうが、日付を跨いで残るノートではルールが統一されている方が好ましいのは言うまでもありません。
例えば※印にしても、補足であることを示すのと、重要項目であることを示すのとを混用しては混乱のもと。強調なら「!」や「★」、補足の時に限って「※」を用いるなど、使い分けのルールを持ちましょう。
同様に、丸括弧、カギ括弧、引用符の使い方なども、混用しがちです。普段の授業で、しっかり意識して使い分けているでしょうか。
❏ 機能と重要度の2軸で考える黒板上の表現方法
表記のルールは、機能と重要度の2軸で整理すると、すっきりとまとまりやすくなります。機能による区別の例は以下のようなものでしょう。
「互いに関連のある項目をまとめるときは枠で囲ってタイトルを付す」
「判断の根拠は吹き出しにして添える/【根】などを文頭につける」
「パラレルな関係、対立などは、位置関係や表組で表現する」
一方、その場の学びにおける重要度や学習上の位置づけに着目すると、以下のような分類(ここでは色の使い分け)もできると思います。
「必ず覚えなければならない用語は赤のチョークで書く」
「拡張知識や、補足的な説明やコメントは黄色を使う」
「既習内容の再確認は、青のチョーク(前面に出さない)」
このほかにも、読み取るべきテクスト(本文など)と、本文から読み取った結果としての解釈と、その解釈に際して使った気づきや発想や問いなどの「メタ言語」とが、混同されない表記も工夫したいところです。
矢印も、因果関係や時間経過は「→」、導かれる結論は「⇒」といったルールを決めたいもの。「論理記号」も効果的に使いたいところです。
こうした使い分けは、当初は面倒に感じても、意識的に行うことを繰り返すうちに、比較的短時間で習慣化するもの。苦労するのは最初だけでしょう。但し、ルールを過度に複雑化してもコスパは下がりがち。「学びに有為な(効果が確認できる)ところ」で止めるのが賢明です。
❏ 表記のルールは、生徒との間でもきちんと共有
先生がご自分の中で、板書における表記のルールを決めたら、生徒にもそのルールをきちんと伝えましょう。共通理解なしに先生だけが徹底しても、生徒の学びに実効は生まれません。
明確な意図をもって色を分けているのに、生徒が持つのがシャープペン1本だけでは、表現の意図は生徒のノートに微塵も残らないはずです。
とは言え、授業開きの時間を割いて、色分けや記号の意味をこまごまと説明したところで、学びを未体験のうちに決まり事だけを伝えられるのでは、ピンと来るものはなく、縛りの強さを感じるばかりでしょう。
最初は「授業ではチョークを3色使うから、シャープペンと、赤と青のボールペンを用意すること」という指示だけで十分。ちなみに、白はシャープペン、赤・黄のチョークは、赤と青のペンという対応です。
その後、幾度か授業を行ってから、「ところで、この色のチョークはどういうときに使っていると思うか?」と問い掛けてみましょう。
先生の意図に近いところを早くから見抜いている、観察力の鋭い生徒も中にはいるでしょうが、大半の生徒は、先生からのタネ明かしを聞いて初めて「ああ、そういう意図で使い分けていたのか」と気づきます。
こうした気づきはその後の注意力を高め、先生が持つチョークの色の違いから、学んだことの位置づけをより良く理解できるようになります。
表記に込めた先生の意図をわかった上で、その先の工夫を自力でやろうとする生徒もいるはずです。くれぐれもその工夫にブレーキを掛けないようにしたいもの。生徒の工夫から先生が逆に学んでいきましょう。
❏ 板書案作りは、継続的な改善の効果的な手段
板書における表現の工夫は、日々の授業を振り返り、効果を確かめながら新たな手法を試し、継続的に改善を重ねて行きたいものです。
工夫を重ねるにしても、教室での本番に臨んでの「直観頼みの改善」では、じっくりと自分の板書に向き合えません。授業準備の段階での「板書案作り」の中にこそ、新たな着想を練り上げるチャンスがあります。
板書案のラフを手書きで起こし、AIに投げて改善のアイデアを出させるのも、授業準備の時だからこそできるはず。教材を読み込ませて原案を作らせてみるのも好適(但し、吟味と修正はご自身で)です。
日々の板書案はファイリングして保存しておくことも重要です。ある単元の授業準備をするとき、1年前の板書案が参照できれば、時間が経過したことで客観的に見直すこともできますし、その後の経験で得た知見を上乗せした「改善案」へのブラッシュアップも図れます。
また、別の先生が他のクラスや次年度の授業で同じ単元を扱う時にも、保存された板書案を参考にすることができます。複数の先生のアイデアや工夫が合わさることでより良いものが生まれる可能性が高まるのは、対話による気づきの交換がもたらす効果と同じでしょう。
保存した板書案の共有はクラウドを使えばスムーズですし、知恵を出し合い、板書の改善を図るのも有意な取り組み。議論には Teams などの協働プラットフォーム上で生成AIも活用してみたいところです。
❏ 生徒の工夫や他の先生の発想を、ノート点検で学ぶ
冒頭にも書いた通り、生徒のノートに残る「他の先生の板書(とノート指導の成果)」には、板書法の改善を図るときのヒントが豊富なはず。
周囲の先生がノート点検で職員室に回収してきた生徒のノートを見せてもらうと、(同じ教科でも別の教科でも)それぞれの先生の板書の工夫や、自教科にはない発想での表現手法が見つかることも多々です。
他の先生の授業(教室)に足を運べば、板書に加えて前後のやり取りも観察できますが、多忙を極める校務の中、時間のやりくりも大変です。教室での50分が凝縮された生徒のノートを「教材」にしましょう。
また、自分のクラスでノート点検をするときも、生徒が真面目に(=指示通りに)ノートを取っているかの点検に偏らないことが肝要です。
生徒自身による効果的な工夫(生徒が塾や動画で学んだものも含む)がないか、という興味を視点にノートのページを眺めてみると、そこには多くの気づきと学びがあるのではないでしょうか。
様々な先生方の工夫に触れることで有為な自己研鑽の場が生まれます。
その6に続く(未更新)

このシリーズの記事インデックスに戻る(未更新)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
