考査問題の改善が授業も変える(前編)

より良い授業を目指した工夫や取り組みは実に様々で、拝見するたびに先生方の意欲的な取り組みには頭が下がるばかりです。しかしながら、学びの成果を測るツールである「考査問題」の改善には、指導法の工夫ほどには、先生方の意識が向いていないようにも感じています。
新しい学力観を取り入れた学ばせ方への転換が図られても、定期考査が旧態依然のままでは、その効果を正しく測定(たな卸し)できず、次の指導に向けた課題形成もままならないはずです。
また、「生徒は考査問題に合わせて学びのスタイルを作る」という側面もありますので、授業への取り組みを変えさせるためにも、まずは定期考査の出題(および採点方法)から見直していきたいところです。

2015/11/17 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 「教えたことを測るのがテスト」との発想を離れる

授業を進め、定期考査を迎えたら、教えたことを生徒がどれだけ覚えたかを試す問題を作り、知識や理解の獲得状況を測るというのが「以前の当たり前」でしたが、新しい学力観のもとで問われるのは、「獲得した知識・理解が生きて働くものになっているか」です。
習ったことを記憶して正確に再現できたとしても、それらが生きて働いているかどうかわかりません。授業で扱ったのと同じ問題を再び課しても、測定すべき学力に正しいモノサシを当てたことにはなりません。
問いを前に、自力で解法を考えだすことも、その前段の「題意の理解」すらできなくても、模範解答を覚えてしまえば「正解」できます。
これでは、正しい学習評価はできませんし、生徒も自らの学びに足りないものを見つけ出すことができないのではないでしょうか。
タイトルにあるように「考査問題の改善が授業も変える」という意識を持って、定期考査を新しい学力観に沿ったものに変えていきましょう。

❏ 定期考査を外的動機づけの道具にしない

教えたことを考査に出題することできちんと復習させたい、授業を真面目に受ければ大丈夫と安心させたい、といった意図もあるでしょうが、習ったことをそのまま覚えるだけでは、学習は完結しません。
学習の習慣が確立していない時期には、如上の意図もある程度まで実効を持つでしょうが、これがずっと続いては、「習ったことを覚えるのが勉強」という誤った学習観を生徒に植え付けてしまいます。
今も見かける「定期考査に出すからちゃんとやっておきなさい」という指導からも、できるだけ早い段階で離脱したいものです。
テストがあるから勉強するという外的動機づけに頼っていると、学年が進んだときに「この科目は受験で使わないから、勉強しなくて良い」という生徒の考えを改めさせるための言葉を失います。
そうなれば、「認知の網」を卒業までに広く、偏りなく張らせるという教科学習指導の目的に近づけなくなります。採るべきは、考査への出題によって学びを誘導することではなく、別稿のような方法で「学ぶことへの自分の理由」を持たせることであると考えます。

❏ ゴールから逆算して「時期ごとの到達目標」を設定

単元を繋いで重ねた学びの先には、(学力の三要素のそれぞれに)卒業するまでに到達させたいゴールがあるはず。そこから「逆算」して設定するのが、時期ごとに目指すべき到達状態です。
ゴールの一つは生徒が志望する大学群への合格という「結果」かもしれませんが、日々の学習指導の中で常に意識しておくべきは「授業を通して21世紀型能力は育めているか」だと思います。
卒業までに生徒が辿るであろう学習履歴/科目履修を見渡し、各単元の内容を学ぶ中で獲得すべき能力・資質の一つひとつをどのレベルまで引き上げ、定着させるか見通しを立てれば、各単元の授業でどんな学びに取り組ませるかが明確になってきます。
定期考査が図るべきは、こうした学びを積み重ねる中で、計画通りに能力・資質の獲得が進んでいるか。「中間検証」を考査のたびにしっかり行うことで、最終的なゴールへの到達がより確実になります。
指導計画を起こすときに、定期考査の問題を先にイメージしておくと、学びの過程(日々の授業)でどんな学習活動に取り組ませて、何を獲得させていくかが明確になります。
解くべき課題/答えを導くべき問いが決まれば、それらが要求する知識や理解、思考の様式、取り組み方などは自ずと決まります。それらを考査までの授業で、獲得させ、経験させることができるように、どんな学習活動を配列していくかを考え、指導計画を起こしていきましょう。
教室での学びを実現するにも、定期考査を学力形成の中間検証手段として、学びに方向付けるものとして、機能させるのに必要な考え方です。

❏ 考査問題を材料に、指導の目標や方針をきちんと共有

考査問題(+採点基準)は、どんな学力(要素)をどの水準で求めていくかを具体的に示す機能を備えます。この機能を活かして、教科内で、指導目標・指導方針の可視化と共有を図りたいところです。
共通指導案があっても、担当する先生によってその解釈には違いが出るもの。それぞれの解釈で指導を重ねては、指導期間を終えたときに生徒が立っている位置(スタートから進んだ方向と距離)もばらつきます。
3年間/6年間に亘る、定期考査の出題計画(問題構成、出題内容、難易度、採点方針など)を、指導計画や授業案の具体化より先行して進めて行くと、そうしたバラつきは減り、入学から卒業までを結んだ、整合性と段階性を備えた学習指導が実現しやすくなります。

学習指導に限りませんが、目標は{達成可能×検証可能}という2つの要件を同時に満たしてはじめて目標となり得ます。年度を跨いでそれぞれの担当の先生が積み上げていく「学習指導」では、この2つに教科内/教員間における{共有可能}という要件も加わります。
これら3つの要件を同時に、且つ効率よく満たす方法の一つが、「考査問題を用いた目標のすり合わせ」ではないでしょうか。具体的な問い/出題で「獲得すべき知識・理解、能力・資質」を伝え、目標とする正答率や得点率などで「到達水準」をシェアできます。
蛇足ながら、「予定範囲を教え終えてからでないと考査問題は考えられない」というのは、指導に戦略性と計画性が足りない気がします。

❏ 考査で測るべきは、学習内容の定着と能力資質の獲得

別稿「カリキュラムは{学習内容 × 能力資質}で設計する」の通り、 各単元の学習内容と、それらを学ぶ中で身に着けるべき能力や資質は、双方を軸とするマトリクスの上で関連付けられるべきものです。

当然のことながら、「学習指導の中間検証機会」である定期考査には、単元固有の知識・理解の有無に加え、それまで獲得させたはずの能力・資質を測定できる問題が適切に組み込まれている必要があります。
冒頭と重なりますが、現行課程では学力の三要素の一つひとつについて評価をする必要があり、各単元で学ばせた単元固有の学習内容を並べただけの、能力・資質の獲得状況を測定できない出題では不十分です。
日々の授業の中での観察や評価と組み合わせて「総合的に評価する」というのでは、評価結果への説明責任が十分に果たせなくなりますし、何より「生徒は考査問題に合わせて学び方を変える」だけに、出題内容が以前のままでは、学びの方向付けを歪めてしまいかねません。
後編に続く(未更新)

このシリーズのインデックスに戻る(未更新)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

考査問題で何をどう測るかExcerpt: 1 考査問題の改善が授業も変える1.0 考査問題の改善が授業も変える(序) 1.1 考査問題の改善が授業も変える(前編) 1.2 考査問題の改善が授業も変える(後編) 2 考査問題の妥当性評価2.0 考査問題の妥当性を評価し、最適化を図る 2.1 考査問題の妥当性評価(その1) 2.2 考査問題の妥当性評価(その2) 3 考査問題に関するその他の記事3.1 考査問題について考えるべきところ、あれこれ 3.2 考査問題に使う初見材料をどこから調達するか 3.3 考査問題におけ...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-01-05 06:08:49