進路指導計画を作るときも、それに基づいて実際の指導を進めていくときも、「先に控える選択の機会」をどのタイミングで生徒に認識させるかは、様々なことを想定して決めていくべき重要事項です。
タイミングが早すぎると、今やるべきことに集中できなくなり、その中で得られるはずの成果を逃してしまうリスクを抱えますし、逆に遅すぎれば、準備を十分に整えないまま選択に臨ませてしまい、「とりあえずの選択」でその先の可能性を狭めてしまいかねません。
2014/10/03 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 重大な選択の前には時間をかけて内省を重ねさせる
準備の中には、短期間で一気に準備させた方が効率が良いものがありますが、文理選択や学部・学科選びなどの重大な選択に臨ませるときは、
「十分な体験と情報収集、内省を重ねられるだけの準備期間」
を設定して、じっくりと向き合わせることが必要だと思います。
先に控える選択/課題を意識し続けていれば、有為な情報に触れたときのレスポンスも違ってきます。日々の活動(勉強や部活動)を妨げない程度の強さであってもその効果には一定以上のものが期待できます。
体験を経ての内省や、意識しながら集めた情報は、それらが重なるごとに「認知の網」を徐々により密で広いものにしていきます。その結果、期間の後半になるほど、根拠を持って選択に臨む上で欠かせない材料である「気づきや情報の集積」にも加速が期待できるということです。
認知の網: 個人が経験や情報を通じて形成する知識や理解のネットワークのこと。情報を収集し、整理し、関連付ける過程で徐々に広がり、密度が増していきます。例えば、あるテーマについて多くの情報を集め、深く考えることで、そのテーマでの「認知の網」が広がり、より多くの関連情報を理解しやすくなります。
体験や調査に適度なインターバルを持てることで、頭の整理をつけやすくなるのもメリットです。短期間に大量の情報が入ってくると整理を終える前に、次の刺激に上書きされ、大事なことも意識から消えます。
適切な時期に「先に待つ分岐/超えるべき壁」をしっかりイメージして十分な準備期間を持てるかどうかが、自らの選択の結果に向き合えるだけの覚悟と自信を持てるかどうかを分けるのだとお考え下さい。
❏ ひとつの体験が、次の可能性の広がり方を変える
文系か理系か、あるいはどの科目を履修するかといった選択は言うまでもなく、小さな選択であってもそこでの結果は、先の可能性のあり方を変えてしまい、次の選択に際して「選べるものの構成」を違ったものにしてしまいます。
たとえば、2年生の夏に行う大学のオープンキャンパス訪問にしても、大学の雰囲気を何となく知るだけの体験の場ではないはず。事前に訪問先を調べ、目的を持って参加してこそ、有意義な体験になります。
気楽に考え「生徒が少しでも進学意識を高めてくれれば」と曖昧な期待だけで生徒に大学まで足を運ばせることにもリスクがあります。
どこを訪問先に選んだかによって、そこで受ける刺激も得られる気づきもまったく違ったものになるのは、想像に難くないかと思います。
見聞きしたもの、感じたものが違えば、その後に重ねていく判断や思考の「拠り所」は違ったものになり、その後の進路選択のプロセスが本来あるべき姿から遠ざかってしまうことだってあり得ます。
❏ 体験の場に臨むにも、十分な時間を掛けた準備を
大学訪問などの「体験」で、何となく面白そうに思えることを見つけたり、居心地の良さそうなコミュニティであると感じたら、「ここで良いや」と安易に考えてしまう生徒だっていないとは限りません。
そこまで極端なケースは稀かもしれませんが、ある大学を訪問先に選んだことで、他を訪ねていたら知ることができた情報/得られた気づきを持ち損ねてしまったら、その先の選択を誤るリスクが膨らみます。
様々なものを知った上で、ひとつを選んだなら問題はありませんが、十分に調べて様々な可能性を吟味する前に「魅力的なプレゼン」に触れてしまうことのリスクは、生徒も先生もしっかり意識したいところ。
事前に広く調べ、その中から「訪問すべき大学」を根拠を持って選択するという手順を正しく踏ませるには、大学訪問という体験の場がいつになるかを、予め、十分な準備期間を持てる時期に示す必要があります。
進学講演や学部学科ガイダンスのような、進路指導に組み込まれた「情報に触れる機会/視野を広める活動」にしても、準備不足で臨ませては刺激を上手に消化できない生徒に「選択を誤る危険」を抱えさせます。
- 進路関連行事に向けた企画・準備・事前指導(全4編)
❏ コース/履修科目の選択は後戻りしにくい分岐点
文理選択や履修科目選択などは、その後の選択に許容される幅を決めてしまう極めて重要な「分岐」です。ここで選択した結果を後で修正するのは容易なことではなく、選んでしまったものの先にしか、多くの生徒は未来を思い描けなくなります。
実際には、人生のどのタイミングからでも(大抵の場合は)転進は可能だと思いますが、そこにはプラスアルファの苦労が予想されるのもまた事実。(行き着くゴールが同じでも、通ったルートが違えば、その過程で得られるものも違ってきますので、多少の回り道ならより多くのものを身につけられるようにも思いますが…。)
秋が深まる頃には、高1生、高2生ともに、これらの「大きな選択」に臨みます。その準備を整えるのには、学校行事が目白押しの2学期だけではちょっと不足もありそうです。
様々な体験や学びに、自分の必要に応じて重ねられる夏休み期間を充てられるかどうかは、正しい選択に近づけるかどうかを決定的に分けますし、そのための準備(情報収集)は春からでも決して早くはないかと。
先輩たち(過年度生)がどのようにこの選択に臨んだか、成功例と失敗例の両方を例に引きながら、夏まで/夏の間にやっておくべきこと、秋を迎えて考えるべきことを、しっかりと伝えていきたいところです。
❏ 選択の機会を伝える時期、相互啓発を用いた後押し
年度当初に年間行事予定を配ってあるといっても、頻繁に取り出してみている生徒は多くないはず。「先に控える選択の機会」を常に意識している生徒ばかりとは限りません。
進路の手引きは冊子よりもファイリング形式で作成する方が好ましいのはこうした意識の漏れを防げるからです。また、進路行事予定の向こう3か月分ほどを抜粋して進路通信などに掲載し、配布時に担任の先生から話をして聞かせていくのも好適です。
選択の準備として機能すべき体験や学びの場が終わってしまった後で、こんな選択が待っていたのかと気づいても後の祭りです。年間指導計画を点検し、行事間の関連を確認すれば、告知の期限は自ずと絞れます。
ここにホームルームの年間実施計画や学年通信/進路だよりの発行日を重ねれば、いつ、どのような方法で告知するかは決まるはず。当然ながら、告知の前には指導に当たる先生方の「目線合わせ」が欠かせませんので、学年会などの打ち合わせの場の確保もお忘れなく。
また、告知の徹底だけで、生徒に「選択への準備」というタスクを自分事として捉えさせ、意識を十分に高められるとは限りません。
体験のたびに生徒が残すリフレクション・ログをシェアすることで相互啓発を働かせたり、前述の先輩学年の成功例・失敗談などに触れさせて具体的なイメージを持たせたりする、「告知後の指導」もきちんと計画しておきたいところです。
クラスの生徒の意識の立ち上りが鈍いと思ったら、ホームルームなどで時間を作り、「どんなことを調べているか」「どんなところで判断がつかずにいるか」 を言葉にさせてみるのも良いかもしれません。知らぬ間に先を進んでいる周りの生徒の姿に刺激を受けたり、同じような悩みに触れて気づきを重ねてくれることも期待できるのではないでしょうか。
他の可能性を深く調べて吟味するよりも、手近なものをイメージできる範囲で実際以上に良いものと思い込んでしまう方が一般に「楽」です。
しかしながら、ある局面での安易な選択は、その先に持てる「選択肢の構成」そのものを変えてしまうリスクを抱えます。このことをしっかり生徒に伝え、選択に臨む準備を積み上げさせることができるのは、先生方のほかにはいないはずです。
一つひとつの選択に、真剣に向かい合うからこそ、選択の力も養われるのだと思います。くれぐれも準備不足のまま安易な選択をさせないようにしたいところです。(cf. 進路指導で育む“選択の力”、同後編)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一