進路形成は大小様々な選択の積み重ねであり、ある局面の選択によってその先に見える景色が違ってきます。もちろん、選択のやり直しはいつでも可能ですが、ある分岐点を右に曲がった場合、左に折れたら見えたはずの光景(≒興味や関心)に出会うチャンスは小さくなります。
どちらの道に進むかは、できる限りの情報を集め、吟味し、それぞれの道の先に広がる世界を想像してから決めたいもの。生徒を選択の機会に臨ませるとき、拙速な結論を出させないよう、そこまでに踏むべき手順をきちんと踏んできたか、点検をさせるのも先生方のお仕事です。
2018/09/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 進路探索の機会に、自分の理由を持って臨めているか
例えば、大学のオープンキャンパスに足を運ばせる目的で、「大学訪問計画」を起こさせ、提出させるとしましょう。
既に何らかの学問や社会の課題に興味を持ち、大学でどんなことが学べるのか確かめてみたいと思っている生徒は、訪問先の大学を選ぶのにも十分な「自分の理由」を持っています。
他方、上級学校に進んで学んでみたいことが思い浮かびもしないうちに提出の必要に迫られ、適当に訪問先を選んでしまう生徒もいそうです。
「とりあえず行ってみれば、何か面白いことが見つかるかも…」と考える生徒はまだましで、「訪問数のノルマ/訪問レポートの提出義務」のほかに大学を訪ねる理由を何も見つけられない生徒もいます。
こんな状態で、訪問先を無理に選ばせると、『家から近い』『友達も行くから』といった”安易/残念な理由”での訪問先選択になりがちです。
❏ ひとつ前のフェイズに立ち戻って進路探索のやり直し
そこで見聞きしたことを手掛かりに、進路探索の範囲を広げてくれれば問題はありませんが、生徒も多忙ですから、与えられた訪問数ノルマを果たしたらそれまでになってしまいがちです。
その先の選択は、自分が知る範囲で行われるため、別の大学を訪ねていれば知る機会があったことは「選択肢」にも入らなくなります。
自分の興味や志向にマッチする「選ぶべき進路」が、除外された選択肢に含まれていることだってあるはずです。
大学を訪問させることよりも、大学に足を運んで何を調べ、何を確かめるのかをじっくり考えさせることこそ優先すべきではないでしょうか。
訪問する大学が決まらない生徒を集め、既に行っていたはずの「学部・学科、学問調べ」などに取り組む場を設けた方が好適かもしれません。
これまでの「体験学習」などを通じて、「自分が何を好み、どんなことに前向きになれるのか」といった発見(自己理解の入り口)に至っていない生徒には、ポートフォリオを見直す/記憶をたどり直しつつ、自分自身と対話するところまで立ち返らせることも必要になり得ます。
❏ 機が熟していないのに選択を迫っていないか
面談指導を行うのに合わせて、進路調査票などを提出させることもありますが、用紙に何かを記入することでも、ひとつの分岐を超えたことになります。
考えるところ(仮にそれが浅い所に止まっていても)を言語化すると、それが意識の中で固定化し、自己認識を固めてしまうこともあります。
生徒に希望進路を尋ね、学部や学科などを挙げさせてしまうことで、まだ調査や検討が及んでいないこと(探索すべき進路)にアンテナが向かなくなり、結果的に選択の幅を狭めてしまいかねないということです。
どのような調査、評価、思考のプロセスを経て、その学部・学科の名を挙げたのか、きちんと尋ねて確認し、選択に至る過程に不備・不足があれば、やり直しを促すべきだと思います。
履修科目の選択や出願書類の提出は先送りできませんが、その他の工程なら、期限の変更など十分に対応できるはず。「選択」を求めるのに機が十分に熟しているかどうかの見極めは、指導者の大事な仕事です。
❏ 適性検査などの結果を返すときにも要注意
入学して間もなく、進路探索をろくに行わないうちに、職業適性診断の結果が返却されると、リストに上がった職業やおすすめ学科しか視野に入らなくなる生徒がいます。
選択肢が与えられたら、その中に正解があると考えてしまうのは、生徒ならずとも当然の反応ではないでしょうか。
生徒は成長の途上です。その後の過ごし方で、資質も志向も大きく変わり得るのに、ある時点(往々にして早すぎる時期)になされた「判定」で、その後の選択肢を狭めるようなことになっては、「いるべき場所」への道を隠して/閉ざしてしまいかねません。
適性診断も進路希望調査も、生徒の進路意識形成を助けようとの善意で行われていることでしょうが、不用意なやり方では副作用の方が大きく出てしまうことがあります。そのリスクを指導者は十分に認識しておくべきだと思います。
❏ 目標を決めさせることに指導者が焦っていないか
別稿でも疑問を呈しましたが、「目標が決まれば生徒は頑張るはず」と考えて、目標を見つけさせることに力を入れ過ぎていないでしょうか。
進路指導は、選択の力を養う貴重な機会です。何かを選択できて、それが結果的に正解であったとしても、自力で何かを選びだす方法と姿勢を身につけていなかったとしたら、卒業後に困るのは生徒本人です。
生徒の進路が決まれば、指導者としての職責の一つを果たしたことにはなりますが、主体性を持って物事を判断し、行動を選択する力を養うというもう一つの大切なお仕事を忘れてはいけません。
選択を急がせるのではなく、選択に至るプロセスを日々しっかりと踏ませていくことにこそ、力を入れて行くべきだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一