生徒にその日の学びを振り返らせるのは、「できるようになったことを棚卸しさせて学びへの自己効力感を高める」と同時に「次に向けた自分の目標を設定させる」ためですが、ログに書き出された「振り返りを通して得た気づきや内省」は、生徒が成した進捗や抱えている課題などを指導者が知る貴重な手掛かりとして、欠かさず目を通すべきものです。
リフレクションシートへの記載を熟読して「授業者としての意図がどこまで生徒に伝わっていたか」を点検すると同時に、個々の生徒の学習状況をより良く知って、指導の最適化・個別化に役立てていきましょう。
2017/07/28 公開の記事をアップデートしました。
❏ 40人を同時に観察するのは容易ならざること
何十人もの生徒が同時に練習や作業に集中しているとき、すべての生徒に満遍なく観察の目を向けるのは容易なことではありません。
どれだけ観察にエネルギーを注いでも、一人に目を向けていれば、当然ながら、その瞬間は他の生徒から目が離れてしまいます。
ある生徒を見守っている間に、別の生徒が素晴らしいパフォーマンスを示していたり、また別の生徒が躓いて立ち止まったり、あるいは間違った方向にどんどん進んでいたりするのが教室の日常でしょう。
先生の目だけでは、多くの生徒を対象に個々の行動を観察しきれないことを「前提」として、観察の目を行き届かせる方法を講じましょう。
そう遠くない未来には、AIが画像診断で生徒観察の支援もしてくれる時代になると思いますが、それを待っているわけにもいきません。
見落としてはいけないところにきちんと目を配れるようにするには、先ずは「前回までの学びでの個々の状況」を捉えておくことが条件。その材料の一つが「本人が残した内省/自己評価の結果(ログ)です。
❏ 上手くできたときも困ったときも、見ていて欲しい
生徒にしてみれば、自分は「40分の1」の存在ではありません。上手くできたときは、褒めてくれないまでも、それと気付いて欲しいもの。
自分では進歩を感じているところに周囲の評価が向いてこないのは面白くないはず。自己評価と他者評価が一致しない状態はストレスです。
他方、うまく行かず、手詰まりになっているのに、誰にも気づいてもらえない/助けも届かないのでは孤立感を抱いてしまいそうです。
周りを見渡しても、みんな必死に課題に取り組んでいたら、声をかけて援助を求めるのも気が引けます。何もできずに時間が過ぎては、学びの成果は積み上がらず、次のステージに向かう準備が整いません。
生徒の状況を見守り、適切な評価/フィードバックを行い、必要な助けが得られる状態を整えるのは、指導者の重要なお仕事です。
注意を向けておくべき生徒が誰か、支援が必要になりそうな局面はどこか、できるだけ多くの材料からあらかじめ想定を立てておくことが、観察に焦点を持ち、フォローに後手を踏まないためには重要です。
❏ 生徒自身が書いたものを手掛かりに理解を深める
こうした問題を解決するための有効なアプローチのひとつは、リフレクションシートに書き出されたことに目を通すことで、生徒一人ひとりの学習の状況を継続的に把握していくことです。
本時の練習・作業でうまく行ったこと、上達を自覚できたことを文字に起こさせておけば、それに目を通すことで次の時間には、どこにフォーカスを置いて観察をすべきかアタリをつけておくことができます。
生徒の練習や作業を外から(先生の目で)観て認識できるものと、生徒の内面で生じているもの(意識)とは必ずしも一致しません。
傍から見れば十分なパフォーマンスでも、本人はうまく行かないフラストレーションを抱えていることもあります。生徒が感じていることを知ってこそ、それに沿った観察と支援が可能になるということです。
同様に、生徒自身がうまく行かなかったと感じていること、次の機会には頑張ってみようと思っていることも、知っておきたいところ。その場面が来たら意識をしっかり向けて頑張りを見てあげましょう。
❏ シート上のやり取りを通じた個々への指導と助言
生徒の状況(達成した進歩、抱えている課題)を正確に把握できれば、その生徒が次に挑むべき課題を的確に与えるのも容易になります。
得意な生徒が、集団内での相対的なアドバンテージに胡坐をかいているようでは、さらに伸びる可能性を失わせますし、苦手な生徒が立ち止まっているのでは、クラスの中での差がどんどん開くばかりです。
個々に応じた目標を与えたり、学びの支援を行ったりするには、リフレクションシートを介したやり取りが重宝するはずです。
授業中の教室で生徒一人ひとりと丁寧なコミュニケーションを重ねるのは時間的に難しいときも、リフレクションシートに生徒が書いてきたことへ次の授業までにコメントを返す形なら可能かもしれません。
直接的な「答え」を示すような助言よりも、気づきを促す問い掛けが有効なこともあるはずです。別稿でも書いた通り、助言や指示は、生徒自身がじっくり振り返ってから行うようにしましょう。
❏ リフレクションを自己目的化させない
リフレクションシートを用意し、日々の記入を生徒に求めている授業でも、「ただ書かせている」ようなケースも少なくありません。
初期指導の段階では、振り返り(リフレクション)を習慣化させるという目的を達するために、一定以上の文字数を書き込ませるとしても、それをいつまでも続けたところで実のある学びにはならないかと。
生徒が残したリフレクション・ログの中から、「進捗と改善課題を捉えた学び」「次に向けた目標設定」「学習の改善」といった、振り返りで目指すことができているものを選び出し、教室でシェアしましょう。
生徒のログを「教材」とする相互啓発の中で、効果的な振り返りの方法とその姿勢を学ばせられます。同時に、学習者としての自立がどう進んでいるかという観点での生徒理解もさらに進んでいくはずです。
生徒が振り返りを適切に行えるようになってきたら、リフレクション・ログの起草を「必須」から「任意」に切り替えるタイミングです。
書くべきことがあるときだけ書かせるようにすれば、マンネリ化を避けられますし、より効果的な指導になるはずです。先生方にしても、毎回欠かさずコメントをつけるのでは負担もばかになりません。
任意に切り替えた後、ずっと何も書かない生徒が出てきたら、こちらの観察に基づくポジティブな所感をコメントし、リフレクションシートを介した対話をこちらから仕掛けていきましょう。
別稿「振り返りを経てこそ次への課題形成」などにも書いた通り、学びを振り返ることは、授業に臨むときの目的意識を高めますし、その科目に対する苦手意識を抑制する効果も持ち合わせます。
また、何がわかっていない/できていないかを確かめながら学ぶことでその科目の勉強が嫌いから好きに変わることがあるのは、別稿「勉強を好きにさせる学ばせ方」でご紹介したデータが示す通りです。
こうした効果に加え、「生徒観察の精度が高まり、必要な場面で必要な評価と助言を与えられる」というメリットにもつなげられるとなれば、振り返りの結果を文字に残させることは、コストパフォーマンスの上でも悪くない取り組みではないでしょうか。
このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一