どんな問いを授業の軸にするかで生徒が学べるものは異なり、問いの周辺にどんな学習活動を配列するか(=授業をデザインするか)で、獲得できる能力や資質も違ったものになるのは、別稿でも書いた通りです。
別の見方をすれば、様々な問いの一つひとつには、授業デザインの軸にどこまでなり得るものか、資質のようなものがあるということです。
その評価を授業者の「感覚」だけに依らずに、ある程度の根拠を持って行えるようになると、より良い授業の実現(加えて、そのための先生方の協働)にも、一層の加速がつくのではないでしょうか。
テスト問題の性能評価には様々な方法がありますが、教材としての問いの評価には、それとは少し違った観点を持って臨む必要があります。
学びの場で問いが果たす役割は、別稿の通り、学びの起点での興味や関心の喚起、調べる・話し合うなどの学習活動の誘導、答えを仕上げることによる学びの深化などです。それぞれの場面について考えてみます。
❏ 学びの起点として、興味・関心を刺激できたか
まずは、「学習者の興味や関心をどれだけ刺激できたか」は、教材としての問いの性能を評価する際の基準のひとつめだと思います。
学習の過程を通して(最初から終わりまでずっと)、問いが刺激して作った興味や関心を抱いていれば、その分だけ積極的な取り組みが期待でき、学びの成果もより大きな(深く、広い)ものになるはずです。
授業の最初(導入フェイズ)に「問い」を示されたとき、生徒はどんな疑問を抱き、解き明かしたい不明を見つけているでしょうか。
これらを直接的に観測するのは容易ではありませんが、その後の学びへの食いつき方を観測するほか、如上の「学びの成果」(=最初の答えと作り直した答えの差分)を材料にした間接的な評価なら可能でしょう。
問いを与えて「仮の答え」を作らせてみると、不明(気づかずにいること、誤解していること)の所在はおよそのところで把握できますし、それをグループなどで持ち寄らせ「どんな疑問を持ったか」を話し合わせてみると、生じた興味の分布にもアタリがつきます。
学びのメインパート(調べる、考える、話し合う)に入る前に、問いによって生まれた疑問などをノートやワークシートに書き出させてみるという「直接的な観測」もあり得るかもしれませんが、疑問や不明の言語化というタスクそのものが、初期段階では高すぎるハードルでしょう。
❏ 学習活動(調べる、話し合う)を正しく誘導できたか
2つめの基準は、「問いに答えを導こうとする過程」でどれだけ有意な学び(調べる、考える、話し合う)を誘発できたかでしょう。
生徒一人ひとりが最終的に仕上げた答えや、途中での話し合いなどの中に現れた「学びの成果」が、本時の狙いをどのくらいカバーしていたかを、授業後の採点や途中の観察で探る必要があります。
何かを学ばせようとしても、狙ったのと違う方向に走られては、授業/単元の狙いは達成できなくなってしまいます。
評価のためのデータを採る方法としては、生徒の口から(あるいは答案上に)出てきて欲しかった事柄を、箇条書きにして置き、それぞれの発現度数をカウントするくらいが現実的かと思います。
狙いを外す原因は、問いが与えるフォーカスが広すぎたり、全く別の方向への関心を刺激してしまう訊き方だったりすることにあります。
授業準備(教材作成)の段階で、そうしたリスクを想定した上で、以下のような「問いの加工」で事前に対策をしておきましょう。
- 問いが大きすぎるようなら、小さな問いに分割してみる
- 資料(読みものやグラフなど)を与えて方向付けをする
- 解答の条件(使用語句や言及内容の指定)で縛りをかける
❏ 答えを仕上げる中で、深く確かな学びになったか
問いを軸に授業をデザインすることの最終的な目的の一つは、深く確かな学びの実現であるのは言うまでもないところです。
問いを前に思考したり、話し合ったりしても、「なんとなくわかった」ところで立ち止まっていては、学びは深くも、確かなものにもなりません。問いに立ち戻り、答えを仕上げる中で学びは深まるものです。
答えを仕上げるには、自分が調べ、考え、表現したものを客観的に見直し、不足するところを見つける必要がありますが、採点基準がぼんやりしたものでは、きちんとした評価・振り返りはできません。
答えが一つに定まらない問題では、観点別の段階的な規準を備えた「採点ルーブリック」を調え、適用に生徒を習熟させる必要もあります。
また、周りの仲間(生徒)が考え尽くし、導き出した答えに触れて、自らの学びや思考の結果を相対化してみることも、より良い答えに近づいて行くための発想を得る上で欠かせません。
前年度の生徒や他のクラスの生徒が起こした答案から、好適なものをピックアップしておけば、相対化はさらに効果的になると思います。
これらはいずれも「問い自体が持つ性能」というより、周辺を固めるものに左右されるものです。問いをただ用意して与えるだけでなく、効果的に学びの過程に組み込む工夫が求められるということです。
❏ 学習方策の獲得や、科目への興味関心(中期的に)
個々の問題の評価ではありませんが、学期などを通して生徒に課してきた問いが、主体的な学びの実現(学習方策の獲得+学ぶことへの自分の理由)や学習者としての自立という成果にどこまで結びついたかも、きちんと見守り、評価していく必要があろうかと思います。
PBL型の授業への転換を図り、学びの場での「問いの活かし方」の研究を重ねる中で、学習者にどんな変化(成長)が生じたかも、観察と評価を重ね、記録していかないと「取り組みの評価」はできません。
指導と評価の一体化が推し進められ、観点別学習評価では「粘り強く取り組む姿勢」と「自らの学びを調整しようとする姿勢」にも着目しますが、そうした観点にも授業で用いた「一連の問い」の効果は表れます。それを見逃さずに捉え、一層の指導改善に繋げていきたいところです。
一見すると好適と思える問い(好適な着眼点を与えてくれる、深い学びの入り口になる)を見つけても、それを軸にいざ授業の流れをデザインしようとすると、時間が掛かり過ぎたり、生徒にはハードルが高すぎたりして「使いにくい」というケースもあろうかと思います。
しかしながら、そうした問いも、ほかの環境(学校、クラス、授業外の講習など)では使えるかもしれません。出題研究の中で見つけた良問は周囲の先生とも共有して、活かせる場を増やしていくことが、より広い範囲の生徒に、好適な学びを提供することに繋がっていくはずです。
■関連記事:
- 学びの場での「問いの活かし方」
- 入試問題を授業の教材に使うときに
- 指導と評価の一体化~実現のための発想転換(前編、後編)
- 考査問題の妥当性を評価し、最適化を図る(全4編)
- 出題研究を通して”問い方”を学ぶ
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一