授業準備や導入フェイズの課題として「生徒に問いを立てさせる」ことや、教室でひと通りの学び終えたときに「質問を引き出す」ことの効果については、それぞれの記事でも触れた通りです。
問いを立てさせるのも、質問を引き出すのも簡単なチャレンジではありませんが、「せっかく出てきた生徒の問いや質問をどう扱うか」にも、様々な工夫が考えられるところです。各地の先生方の取り組みと工夫を参考に、より良い方法を探していきたいと思います。
2021/03/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 疑問を言語化させることで図る「学びの深まり」
漠然と浮かんだ疑問を曖昧なままにさせるのではなく、（頭の中と手元の教材等に）所持する知識や理解を動員して疑問の正体を捉え、問い／質問の形に言語化させること自体にも大きな意味があると考えます。
疑問が「ぼんやり」したままでは、調べたり、考えたりするにも、周囲と話し合うにも、焦点が定まらず、深く確かな学びに近づけません。
疑問に思ったことをきちんと掘り下げ（考え尽くし）た結果を言語化する「準備」に個々の生徒がしっかりと取り組んでこそ、その後の「教室での対話的な学び」で得られる果実もより大きなものになるはずです。
授業準備における「問いを立てる」という課題であれば、準備（予習）の時間確保は比較的容易でしょう。授業が始まるまでに、タブレット等から「投稿」させておけば、先生も事前に目を通しておけます。
教室での学び（先生の説明を聞く／周囲と話し合う）を終えた振り返りで「質問を作る」のを、教室を離れる前に行わせるのでは時間的に窮屈です。所要時間の個人差も考慮すれば、宿題にするのが妥当でしょう。
❏ 一人の疑問（気づき）をクラス全員の学びの起点に
準備フェイズで立てた「問い」、学びを終えて作った「質問」は、答案と同様に、好適なものを探して教室でシェアし、相互啓発に活用しましょう。着眼点の良さ、注意深い観察などに肯定的な評価の言葉を重ねていくことで、問いを立てる／質問をすることへの動機も刺激できます。
授業評価アンケートの自由記述意見を読んでいると、こんな記述を見つけることもしばしばです。周囲の生徒からの質問が学びの起点になっている様子が窺えますし、そこからの対応の大切さも伝わります。
- 生徒からの質問に先生が答えているのを聞いて、理解が一層深まった／学びが広がった。
- 質問の内容について詳しく様々な問題から説明してくれるので授業を通して内容が深まる。
- 前回の復習と質問への回答から授業が始まるので、毎回の授業の繋がりと積み上げが良く分かる。
- オンラインだったが、他の生徒の質問に触れて、一緒に学んでいるという実感が持てた。
- 周りがどんどん質問する姿をみて、自分も臆さずに質問したり意見を言ったりしようと思った。
- 意見や考えを発表したとき、周りがちゃんと質問してくれるので、理解や考えが深まる。
自分では何の疑問も浮かばず、鵜呑みにしていたところでも、周囲が発する質問に触れて、改めて切り込んで考えてみることもあるようです。
一人の疑問を起点に、クラス全体での学びをどこまで深め、広げられるかは、まさに指導者としての腕の見せ所の一つではないでしょうか。
シェアした問いや質問の答えは、先生が示すのでも良いですが、深く考える価値がある（投じる時間に見合った深い学びが期待できる）のであれば、次の授業で時間を取り、答え作りに取り組ませたいところです。
教科の専門家である先生に「正解」を示された以上、生徒は「そうなんだ」と納得してしまい、不明解消の努力はそこでストップ。疑問に答えを見つけるための行動（＝必要な情報にアクセスし自ら考える方法を学ぶチャンス）も逃してしまうのではないでしょうか。
❏ 生徒の問いを取り上げる時間は、授業デザインで捻出
質問に答えるのも、提出物を添削するのも、学習者との「対話」にほかならず、その充実は決して軽んじることのできない重要な課題であると考えます。
教えるべきことが多く、ただでさえ時間の余裕がない中で、生徒からの問い／質問をじっくり扱う機会を作るのは容易ではないでしょうが、なんとかやりくりをして、その時間を捻出したいところです。
授業時間の余りを質疑応答に充てるという「消極的な姿勢」で臨んでいるのでは、「やっぱり今日も時間がなかったか…」の繰り返しにもなりかねず、事態は一向に改善してこない可能性が高そうです。
授業のデザインの中に最初から「生徒の質問を起点にした学びの場」を組み込んでおく必要があり、そうした工夫も「カリキュラム・マネジメント」の一部であると考えます。
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教育実践研究オフィスＦ 代表 鍋島史一