係や当番の活動で関係を築き社会性を育む

ホームルームは、生徒にとって最も基本的なコミュニティ。その中で、自分がどんな役割を引き受け、どう貢献できるのかを考え、行動を起こしていくことは、社会性を身につける貴重なトレーニングの場です。
その場面の一つが当番や係の仕事であり、その活性化は「生徒が互いに刺激し合い、ともに成長するクラス」を作るためにも欠かせません。
当番や係りの仕事は、学校行事や生徒会活動とは違って「日常」の中にあるため、挑戦してみて上手くいかない部分があっても、反省を活かして再トライする機会が得られます。その中での成長を期待しましょう。

2015/06/11 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート⑤ 係や当番で社会性を育む
学級の係や当番は、それぞれがきちんと必要な役割を果たしている

この質問にYESと答える生徒が多いクラスほど、ホームルームが生徒の協働と相互刺激、成長の場として機能するとのデータもあります。


❏ 活動を通じて関係を築き、役割を通して成長する

より良い学びの環境とコミュニティの創出のために、自分たちにできることを考え、主体的に関わりを持つ場のひとつが係や当番の仕事です。その中で、生徒は主体性を高め、多様性や協働性、さらには社会参画力を身につけていくのではないでしょうか。
生徒意識アンケートのデータを解析してみると、「成長の場」(クラスは、生徒が互いに刺激し合い、ともに成長している)への寄与度が最も大きいのは、どの学校でも例外なく、この「係や当番の仕事」です。
係や当番に割り当てられたミッションに取り組む中で、生徒一人ひとりは役割の引き受け方や、考えの異なる相手との折り合いのつけ方も身につけていくはずです。
また、ミッション遂行上の問題が生じたときに、それをどう乗り越えるかを話し合い、協力し合う中で協働性も実地に身についていきます。

ここで養われた個々の生徒の資質や姿勢、生徒間の関係性は、教科学習指導の場で対話的、協働的な学びを実現する上での土台にもなります。

❏ それぞれの係の活動を可視化する

あちこちの学校をお訪ねして教室を覗いてみると、大抵は(中学/前期課程は特に)、係の活動に関する掲示スペースが用意されています。
しかしながら、それぞれの係に所属する生徒の名前が書いてあるだけでどんな活動をしてきたのか、今何に取り組んでいるか、さっぱり伝わってこない事のほうが多いように感じます。
掲示だけの問題かなと思い直し、近くを通りかかった生徒に「どんな活動をしているか」と尋ねても、はっきりした答えは返ってきません。
個々の係がどんなミッションに取り組むのか、どんな活動を行い、これまでにどんな成果が得られたかなども掲示に含めさせたいところです。
そもそも、「ミッション不在」では、活動も盛り上がるわけもなく、学びの場としての機能は期待できないのではないでしょうか。
活動を続ける中で、何か進捗があるたびに、係りとしての振り返りを行い、掲示を更新すれば、ある種の「ポートフォリオ」にもなり得ます。
クラス内の他の係、あるいは他のクラスの同じ係の活動に触発され、自分たちも何かやってみようという機運が生まれることもあるそうです。
係の活動を盛り上げることが目的ではありませんが、それにより様々な能力や資質の獲得が進み、学びのコミュニティとしての機能が向上するとすれば、しっかりと取り組ませるだけの価値はあるはずです。

❏ 全生徒が各々一つ以上の役割を引き受けるコミュニティ

社会の中では、各メンバーが引き受けている役割によって関係が作られます。何の役割(取り組む仕事)も与えられていなかったら、関係を構築する入口が存在しないということ。係りの仕事も同じです。
それぞれの係の中で話し合いをさせて、どんな活動をしていくのか、自分たちのミッションは何かを考えさせるところから始めましょう。
学期の頭や月初めなどの区切りで、係ごとの活動計画を作るのは、それぞれが考えるところを伝え、他のメンバーの理解と共感を得る練習にもなるはずです。
小さなものとは言え、何らかのミッションをメンバーで共有できる係の活動は、「協働で課題を解決する姿勢と方法」を、日常のリアリティを持って学ばせる絶好の機会になると思います。
少し大掛かりな「仕事」なら、工数を考えてスケジュールを組み、あらかじめ準備しておかなければならないものをリストアップする必要も出てきます。タスク管理のスキルと姿勢を学ぶこともできそうです。

❏ 活動時間の確保のためのランチミーティング

計画を立てるだけではそこで活動が終わってしまいがちです。定期的に係のメンバーで集まって話し合う場を持たせ、進捗を確かめながら次の行動を考えさせるようにしたいところです。
ただでさえ多忙な学校生活の中で、その時間が確保できないというのであれば、ランチミーティングなどはいかがでしょうか。実際にやっている学校もありました。
定期的に対話を重ねる中で、自分たちの活動の意義をより深く理解できますし、やるべきことを新たに見つけることもあるはずです。
昼休みの教室を見ていると、各生徒がスマホの画面とにらめっこということも少なくありませんから、週一程度の頻度で、「係ごとのランチミーティング」を実施するくらいの時間の余裕はありそうな気がします。
また、クラス内の各係はたいていの場合、少人数で構成されていますので、そこに閉じていてはなかなか発想も膨らんでいきません。
クラスを跨いで同じ係の生徒が学年で集まる機会を作ることも検討したいものです。実際、そのような場を定期的に設けている学校では、生徒は良い刺激をうけて自分のクラスに持ち帰っているようです。

❏ 手は放して、目は離さない~活動をきちんと観察

先生の目が届かないところでの活動が多い分、生徒間のもめ事も予想されますが、それを解決する方策を身につけることもまた学習です。
かといって、生徒に任せっきりにしておくのも危険です。コントロール不能に陥る前に手を打つために、常に状況は把握しておきましょう。
こうした場面に限りませんが、「手は放して、目は離さない」というのは生徒を指導するときの「鉄則」の一つだと思います。
LHRでそれぞれの係から活動報告をさせたり、前述の「活動を可視化した掲示」に目を通したりする以外にも、教室の様子にきちんと目を配り、各係がきちんとミッションをこなしているか注視しましょう。
上手くいっていそうな場合も、滞りが見られる場合も、こまめに生徒に声をかけ、話を聞いてみることが大切です。誰かひとりに押しつけられているかも。対話の中でしか把握できないことも少なくありません。
係の中でぎくしゃくしたものが感じられるようなら、係の再編にも手をつけたいところ。係の再編は、年度ごとにしかできないクラス替えとは異なり、必要に応じていつでもできます。
教科学習指導におけるグループ学習などでも同様ですが、フォーメーションの頻繁な更新は、様々な問題を回避する有効な手段の一つです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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